【違和感】善意も熱意もあるのに、うまくいかない─現場で起きているのは「気持ち・資質不足」ではない
※本記事では「責任配置」という語を使用していますが、現在は概念整理のため、「役割構造」という表現に更新しています。
はじめに.
人を簡単に入れ替えられない現場で、
誰も悪くないのに、疲弊だけが蓄積していく。
支援する人ほど、しんどくなる。
正しいことをしているはずなのに、関係が壊れていく。
では、何が起きているのか。
「気持ちが足りない」からではありません。
多くの場合、「気持ちがあるのに壊れる“しくみ”」が先にあります。
※この文章は、個人の資質や善意ではなく、「関係の構造・責任の配置・行動の誘因」という視点で現場を検討する立場から書いています。
1.よくある説明と、消えない違和感
こうした状況を前にすると、
「配慮が足りない」
「性格に難がある」
「メンタルが弱い」
「マネジメント力不足」
と説明したくなるのは自然なことです。どの職場でも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
ただ、それだけでは説明しきれない現象があります。
誰かのせいにしても状況が改善しない
別の人が入っても同型の問題が起きる
という違和感です。
2.個人を責めても、前に進めない現場
個人に課題を帰属させると、その場は「分かった感じ」になります。
けれど現場は多くの場合、
人を簡単に入れ替えられない
今いるメンバーで回し続ける必要がある
成果を落とせない
という制約下にあります。
この条件では、
「誰が悪いか」を確定しても、現場は回復せず、
「やりにくさ」だけが残る
ことになります。そのため私は、
責任を曖昧にするためではなく、改善の手がかりを増やす
ために見方を変えていきたいと思っています。
3.見方を変えるために
多くの問題は、個人の性格や努力ではなく、関係性・役割・制度の配置によって生じている
というのが、私が取る立場です。
それは、以下の現実があるからです。
集団は「流動的(採用・異動・退職)」なのに、職場の問題は繰り返される
原因を個人に回収すると、「矯正」と「対立」が起きやすく、「学習」と「調整」が起きにくい
これらの現実を構造として捉えると、次の視点を「設計対象」として考察の俎上に乗せられます。
何が摩擦を生んでいるか(関係性の構造)
どこで権限や責任がねじれているか(責任配置)
何が行動を誘発しているか(制度と運用構造)
根本へのアプローチがしやすくなるということです。
4.ある現場で起きていたこと
新卒採用の新人Aがいました。
Aは、
「自分がやったから、うまくいっている」
「現場で課題が出るのは、私のやりかたを他の人がやらないからだ」
「教育の本質が分かっていない人が多い」
といった発言を繰り返していました。
助言や指摘は、意にそぐわない指導や嫌味となり、自己弁護や皮肉で返すこともありました。
一見するとAの「態度」や「性格」の問題に見えます。
しかし個人を責めるほど、Aは「自分は正しい側」「自分は責められている」という構図に入り、修正可能性が下がっていきました。
ここで起きていたのは、A個人の是非というより、
職場内で「評価の基準」をめぐるズレが発生し、対話の回路が細っていき、感情的しこりだけが残されていく
現象でした。
5.何をしたかより、何をしなかったか
この場面で重視したのは「正すこと」より「対話の回路を残すこと」でした。
すぐに評価しない(一方的評価は防衛と対立を強めやすい)
正解を提示しない(提示された正解は依存や反発を生みやすい)
主体を奪わない(当事者が自分で調整する余地を残した方が変わりやすい)
個人を矯正するのではなく、
関係性・役割・運用のどこが詰まっているかを見続け、調整可能な点からアプローチしていく
ということが重要でした。
6.この考え方は、教育だけの話ではない
この視点は、教育現場に限りません。
「人を簡単に入れ替えられず、関係の中で成果を出し続けなければならない現場」
では、分野が違っても、同型の構造的な悩みが繰り返し現れます。
そのため、ここで扱っているのは
特定の分野に固有のノウハウではなく、
そうした現場に
共通して応用できる「見方」や「考え方」です。
企業の現場なら:
・人材育成設計
・停滞組織の再起動
・心理的安全性の実装
行政の現場なら:
・制度と人材のミスマッチ解消
・配置の最適化
・管理職支援
福祉・支援の現場なら:
・支援設計
・ケースワーク
・個別事例と理論の接続
人を支える現場では、同型の問題が繰り返し現れます。この考え方を突き詰めることで、それぞれの現場で、より適切な向き合い方を探ることができます。
そうして、「誰も悪者にならない」土俵に立ったとき、現場の問題は初めて、「解決可能な問題」として目の前に立ち現れてくると考えています。
※この考え方を、企業や人事の文脈で整理した記事はこちら
7.このnoteで書くこと/書かないこと
書くこと
ケースを構造で読む
判断のプロセスを整理する
再現可能性を検討する
書かないこと
誰かを悪者にすること
理想論だけを語ること
感情論でまとめること
8.さいごに
このnoteは、組織や集団につきものの「現場の課題」を、少し違う角度から見るための材料として作成しています。
全体像のコンセプトについては、以下の記事にまとめています。必要であればご参照ください。
⏹️本記事は、マガジン
「壊れない現場 ― 教育・支援を『構造視点』で翻訳設計する」
の一部です。教育や支援の現場で起きる出来事を、個人の資質や努力に回収せず、関係構造・責任配置・行動誘因(=構造)から読み解き、現場を構造として翻訳し直す視点を順に整理しています。
このシリーズでは、
違和感 → 構造分析 → 構造視点 → 構造翻訳 → 構造設計 → 実装
という流れで、壊れない現場を構造から考えていきます。
はじめて読む方は、以下の記事からご覧ください。① 善意も熱意もあるのに、うまくいかない
② 問題は「人」ではなく「構造」にある
■ 壊れない現場 ― 構造視点シリーズ(マガジン一覧)
▶ 思考の全体像を知りたい方へ
⑤ 現場を「構造で見る」とき、私は何を見ているか
▶ 分析フレームを整理したい方へ
⑥ 教育・支援を「構造」として捉える3つの視点
▶ 実践したい方へ
⑦「壊れない現場のために、個人ができる最小アプローチ」
