組織運営が難しくなったのは社員が増えたからではない──意思決定機構の変化から考える、成長組織の壁 (1)
組織が成長すると、あるタイミングから経営の意図が現場に届きにくくなり、評価不満や採用ミスマッチ、マネジメント不全など、様々な問題が表面化します。しかし、それらは単純に社員が増えたから起こるのではなく、組織の意思決定機構の変化から生じた経営課題です。
本稿では、成長企業が直面する「組織の壁」と、それを乗り越えるために必要な経営人事の視点について考えます。
組織運営が難しくなるとき
「最近、組織運営が急に難しくなった」
成長企業の経営者や人事責任者とお会いすると、このようなコメントを時々耳にします。以前は、経営者の考えが自然と現場に伝わっていた。大事な意思決定も、少人数で素早く行うことができた。メンバーの顔も見えていたし、多少の曖昧さがあっても、熱量と関係性で前に進めることができた。
ところが、あるタイミングから急に組織が重くなる。経営の意図が伝わりにくくなる。現場との距離が生まれる。マネージャーによって判断や伝え方に差が出る。評価への不満、採用のミスマッチ、部門間のすれ違い、メンバーの不調など、様々な問題が同時に表面化してくる。
こういった事象は、決して珍しいものではありません。
意思決定の機構が変化するタイミング
組織運営が難しくなる最初の節目は、社員数そのものよりも、階層化など、組織の判断・意思決定機構が変化するタイミングにあると考えます。
30人前後でその壁にぶつかる企業もあれば、100人を超えてから顕在化する企業もあります。事業や組織によっては、200〜300人規模まで問題なく走り切れてしまう企業もあります。したがって、「何人を超えたら危ない」と一概に言うことはできません。
一方、判断や意思決定の機構が変わるタイミングは、多くの企業にとって組織運営の難易度が上がる節目となります。創業期や小規模な組織では、経営トップが直接メンバーを見て、意思決定し、メッセージを届けることができます。経営者の考えや熱量が、比較的そのまま現場に届く。良くも悪くも、経営トップの存在感やリーダーシップによって組織が動いている状態です。
しかし、一定の規模を超えると、それだけでは組織運営ができなくなります。マネージャーを置き、組織を階層化し、判断や意思決定の一部を委ねていく。いわゆる権限委譲が必要になります。これは組織が成長するうえで避けて通れない変化です。
ただし、これは単なる組織改編ではありません。それまで経営トップが担っていた「判断する」「伝える」「動かす」という機能を、マネージャーを通じて実装し直すということです。ここに、組織成長における最初の大きな壁が現れます。
表層に現れる症状
マネージャーを置き、組織を階層化するタイミングでは、様々な症状が現れます。
経営の意図や熱量が、これまでのようには現場に伝わらなくなる。現場メンバーからは、経営トップの関与が弱くなったように見える。マネージャーによって判断や伝え方に差が出る。結果として、採用判定にばらつきが出る。評価への不満が生まれる。採用した人材が思うように活躍しない。部門間の連携が悪くなる。メンバーのコンディションが崩れ、時にはメンタル不調として表面化する。
こうした問題が起きたとき、つい目に見えている症状に対して打ち手を講じたくなります。採用がうまくいかないから、採用を強化する。評価不満が出ているから、人事制度を見直す。マネージャーが弱いから、マネジメント研修を実施する。
もちろん、これらの施策が不要だということではありません。採用も、人事制度も、マネージャー育成も、組織を運営するうえで重要なテーマです。ただし、それだけで本当に組織課題が解決するかというと、そう単純ではありません。
組織課題は複合的である
たとえば、ミドルマネジメント不全という課題があったとします。多くの成長企業で見られる典型的なテーマですが、その原因は一つではありません。
マネージャー本人のスキルや経験が不足している場合もあります。メンバー側の期待値や成熟度に課題がある場合もあります。部門間の連携不足が影響していることもあります。そもそも権限や役割が曖昧で、マネージャーが判断しようにも判断できない構造になっている場合もあります。
同じ「マネージャーが機能していない」という現象に見えても、その内側にある課題は組織ごとに異なります。組織課題の難しさは、ここにあります。
多くの場合、組織課題は単独で存在していません。3つ、4つの課題が折り重なり、一つの症状として表層化しています。だからこそ、表層に見えている問題に対して単一の人事施策を当てても、十分な効果が出ないことがあります。必要なのは、矢継ぎ早に施策を展開することではありません。まずは組織の状態を正しく見立てることです。
経営や事業責任者は、今の組織をどう見ているのか。ミドルマネージャーは、どこで詰まっているのか。現場メンバーは、何に不安や不満を感じているのか。事業計画の実現に必要な人員や組織能力は備わっているのか。採用、育成、評価、配置、離職といった人事施策は、事業の方向性と接続しているのか。こうした問いを重ねながら、組織の状況を立体的に捉えていく必要があります。
組織課題は経営課題である
重要なことは、組織課題を人事「だけ」の問題として扱わないことです。組織課題は、経営課題です。
事業が成長すれば、組織に求められる能力も変わります。組織が大きくなれば、意思決定の仕組みも、マネジメントのあり方も、コミュニケーションの設計も変えなければなりません。経営トップの個人技で動いていた組織を、複数のマネージャーを通じて動く組織に変えていく必要があります。これは、人事施策の寄せ集めでは解けないテーマです。
経営人事とは、事業と組織を表裏一体のものとして捉え、事業課題と組織課題をつなげて解決していく考え方であり、実行力です。
事業計画と人員計画を連動させる。採用、育成、配置、評価、離職改善の優先順位を決める。経営が目指す方向に対して、今の組織に何が足りないのかを見極める。そして、それを人事チームの機能として実装していく。
人事は採用や制度、労務などの単体機能を担うコストセンターではありません。マーケティングやファイナンスと同じように、経営や事業の課題を解決するための機能です。
だからこそ、経営トップや人事責任者は、組織の状況に常にアンテナを張る必要があります。感覚だけで組織を語るのではなく、面談やサーベイを通じて現場の声を拾う。
採用充足率、離職率、エンゲージメント、評価分布、マネジメント状態などのデータを見る。経営、マネージャー、現場の見え方を重ね合わせながら、今の組織で本当に起きていることを把握する。
人や組織の問題は、数字だけで割り切れるものではありません。ただ、数字を避けたままでは、経営課題として扱うことも難しくなります。定性的な声と定量的なデータを行き来しながら、組織の状態を捉えることが重要です。
経験から感じていること
改革期のヤフーでは組織開発室を立ち上げ、1on1の導入や診断型組織開発、企業内大学「ヤフーアカデミア」の開校などに取り組みました。
KDDIグループ Supershipでは、スタートアップのM&A、PMI、経営統合を人事責任者として経験しました。DATUM STUDIOでは代表取締役として、事業と組織の両面から業績回復に向き合いました。10X、Hacobuでは、人事責任者として事業に資する人事のあり方を実践してきました。
また、人事コンサルタントとして、上場企業からスタートアップ、行政機関まで、様々な規模やフェーズの組織課題に向き合ってきました。
これらの経験を通じて感じるのは、組織課題が発生すること自体は、決して悪いことではないということです。むしろ、それは事業や組織が成長しているからこそ起きる現象です。問題は、組織課題が発生していることに気づかないこと。あるいは、気づいていても、それを単なる人事施策の不足として扱ってしまうことです。
人事を、経営の実装機能として磨く
経営の意思を、どのような組織構造で実現するのか。事業の成長に必要な人材を、どのように採用し、育て、活かすのか。マネージャーを通じて、どのように判断と行動の質を高めていくのか。組織の状態を、どのように迅速かつ正確に把握するのか。これらはすべて、経営そのものの問いです。
組織課題を経営課題として捉えること。そして、人事を経営の実装機能として磨いていくこと。
表層に現れた症状の奥にある、折り重なる組織課題を正しく見立てること。そして、必要な人事施策をデザインし、展開していくこと。その積み重ねが、組織成長を加速させていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。ここまで見てきたように、組織運営が難しくなるのは、社員数が増えたからではありません。事業の成長に伴って意思決定の構造が変化し、それに応じて組織運営のあり方も変わるからです。
では、その構造変化による歪みは、実際には組織のどこに現れるのでしょうか。次回は、「組織の歪みは、なぜミドルマネージャーに集中するのか──ミドルマネジメント不全から考える、成長組織の壁」と題し、成長企業で起こる組織課題が、なぜミドルマネージャーに集中しやすいのか、その構造について掘り下げます。
成長企業の戦略人事を経営視点で考えるコラム「経営と人事のあいだ」を、今後も継続して発信していきます。
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※ ヘッダー画像とタイトルはAIを用いて作成しました。
