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論文紹介 サイバー戦の歴史を振り返る

サイバー戦(cyber warfare)はもはや目新しい問題ではなく、現代の安全保障環境の一部であり、各国の政府と軍隊がその能力を開発することに取り組んでいます。しかし、軍事史における研究はまだ十分に蓄積されてはおらず、どのように過去の事例を整理すべきかは定説がありません。この記事では、サイバー戦の略史をまとめたRichard Stiennonの「サイバー戦の小史(A short history of cyber warfare)」(2015)を紹介し、特に中国とアメリカのサイバー戦を軸にして歴史を振り返ってみたいと思います。

Stiennon, R. (2015). A short history of cyber warfare. In James A. Green, ed. Cyber Warfare, Routledge, pp. 7-32.

一般にサイバー活動には政策・戦略レベルにおいてインターネットにより行われる活動と、作戦・戦術レベルにおいて部隊間で情報を迅速に共有する活動があります。どちらも重要な活動ですが、インターネットが世界各国の通信基盤として利用されるようになったのは1990年代以降のことであるため、前者がより新しい事象であるといえます。一般にサイバー戦という言葉から想起されやすいのは、こちらの事象でしょう。

まず、著者はサイバー戦を国家主体、または国家の指示や支援を受けた非国家主体が、他国の安全保障に重大な脅威を及ぼすために遂行するサイバー空間における行動、または、それに対する行動として捉えており、いわゆるサイバー犯罪との混同を避けようとしています。

このような区別を設けておくことで、サイバー戦という活動を政治的な文脈に基づく行動に限定できます。こうした限定を設けるとしても、現代のインターネット上で行われているサイバー戦の展開は非常に複雑であるため、著者はその手始めとしてサイバー諜報活動(cyber espionage)が発達し、そこから多種多様なサイバー戦の手法が拡張されてきたという解釈を示しています。これも完璧な解釈ではないことは著者も理解していますが、現在進行中の出来事の歴史を執筆するための基礎として役立つと述べています。

「サイバー戦の歴史を作り上げ、それを辿っていくことは、時間的な視点が不足しているために入り組んでいる。このような仕事は、クレシーの戦い(注:英仏百年戦争が続いていた1346年に行われた戦闘であり、イングランド軍がフランス軍に長弓で甚大な損害を与えた)に先立つ数十年にわたって、同時代の研究者が長弓の使い方の発達について書くことがいかに難しかったかを思い起こさせる」

(Stiennon 2015: 8)

著者が最初に取り上げているのは、2003年に中国からアメリカに対して行われたものと推察されているサイバー諜報活動の事例です。当時、アメリカのエネルギー省が管轄するサンディア国立研究所で情報ネットワーク管理者を務めていたショーン・カーペンター(Shawn Carpenter)は、防衛企業であるロッキード・マーティンの情報システムに対する不正アクセスの捜査に参加することを求められました(Ibid.: 9)。

この捜査を通じてカーペンターは攻撃者が中国のサーバーにアメリカ陸軍の施設フォート・ディックスの情報ネットワークに関する脆弱性調査の報告書を保存していたことを突き止めました。2004年にサンディア国立研究所に戻ると、カーペンターはロッキード・マーティンの事件と同じ攻撃者がサンディア国立研究所のネットワークを外部から探っている兆候があることに気が付き、再び相手のサーバーを追跡しました。その結果、アメリカの研究機関や軍事施設に関する数百の文書が流出していることを発見し、以後は連邦捜査局(FBI)の秘密協力者になっています(Ibid.)。

この中国によるものと見られるサイバー諜報活動は、アメリカ政府においてタイタン・レイン(Titan Rain)と呼称されました。手法としてはターゲット型攻撃(APT攻撃)であり、これは長期にわたって攻撃対象のネットワークを分析した上で、最適な手法を用いて侵入、潜伏するという種類のサイバー攻撃です。

タイタン・レインによって被害を受けたロッキード・マーティンは軍事に関わる企業秘密を守るため、ネットワーク監視を強化し、ネットワークに対する異常な活動や攻撃者の痕跡を侵害指標(Indicators of Compromise: IoC)を継続的に分析する体制を整えました(Ibid.)。これにより、国家や国家の支援を受けたサイバー攻撃を特定し、対応できる能力を構築しています。著者が、この事例が歴史的に重視しているのは、その詳細が後に雑誌『タイム』で報道され、アメリカで起きたサイバー戦の例として記録されたためです。

なぜ中国がこのような活動を開始したのかを理解するためには、中国がサイバー戦の分野で早くから軍事的思考を巡らせてきたことを知っておく必要があります。1990年代以降、中国の軍事理論家の間では現代戦の傾向として、指揮統制や精密誘導など情報の優越を達成するために、情報技術の意義がますます大きくなっていることが議論されてきました。

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私は2010年から政治・外交・軍事に関する論文紹介を行う活動を続けてきましたが、昨今の世界情勢の推移…

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