小説・自己中恋愛ラプソディ⑬
「ねえ、雅史くん」またふいにエリが話し始める。「雅史くんと付き合ってるとき、手も繋がなかったよね」
「うん」
「どうして?」
「それはエリが嫌かなと思って」
「なんで彼氏と手をつなぐのが嫌なの?」
「それは……エリがぼくのことを好きか分からなかったから」
「好きじゃなきゃ、つき合ってないって」ふっというため息とともに笑うエリ。
「それは今日知ったよ」たった先ほど、エリが自分を好きでいてくれたことを知ったのだ。
「それがさみしかったよ」ことば通り寂し気にエリはいった。
「ごめん」
「遊びに誘うのもいつもわたしからだったよね。なんで雅史くんはいつも受け身なんだろう、って思ってた」
「ごめん。エリが忙しいかと思って気を遣ってたんだ」
「それが雅史くんのいいところでもあるけどね」
エリもある意味で受け身だったのだが、そこは都合よく無視した。雅史もその矛盾点には気づいていなかった。
もっとも、受け身でいるにはエリにも理由はあった。エリに一目ぼれした雅史が告白して付き合うことになったのだ。最初はさほど好きでもなかったが、雅史のことが知りたいと思ったから、エリは自分から遊びに誘っていた。ホレられた側の自分が”らしくもない”ことを頑張っているのだから、それ以外では雅史にリードしてほしかった。
「好き」と何度いわれても、それは表面的な言葉に過ぎない。手すら触れようとしない雅史に対して、ずっと不満があった。
雅史は雅史で、振られるのが怖くて積極的にはなれなかったが、エリと一緒にいることが好きである何よりの証だった。呼ばれればいつでも会いに行き、エリが行きたいところはどこでもいった。
どちらも互いを想っていたが、その表現が違っていただけだった。
日中は暑かった日差しが弱まり、涼しい風が吹き出した。ふたりはしばらく何も考えず、ただ横に並んで歩いていく。
エリがふいに雅史の手を取ると「いい?」と雅史に聞いた。雅史は少し迷った後、少しだけ力を込めて握り返す。
出会った駅に着いた。再び別れのときがやってきた。しかし雅史にはまだ話すことがあるような気がした。
「今日はありがとう。いいたいことが言えてよかったわ」
「うん」
「今日分かったんだけど、わたし、雅史くんのことまだ好きみたい。でも結婚するなら諦めなきゃね。不倫も友達もしないけど、好きなのは変わらないかな」
友達ではいられないけれど好きなまま──。それを聞いた雅史の心は少しキュっとなった。
「ほかの人ができても、雅史くんは一応、特別よ」冗談めかしてエリはいう。
「うん……」ぼくも、といいたいところだったが、エリのようにいい切るほどの確信はまだなかった。しかしひとつだけ伝えたいことがあった。
「エリ、愛してるよ」
「やだ雅史くん」エリは笑った。
雅史にはエリが笑う理由がわからなかった。何かおかしなことをいったのだろうか。
「雅史くんから”愛”っていうの初めて聞いた。そんなキャラだったっけ」いじわるな口ぶりのエリ。
