見出し画像

小説・自己中恋愛ラプソディ⑬

|◁    ◁前    次▷



「ねえ、雅史くん」またふいにエリが話し始める。「雅史くんと付き合ってるとき、手も繋がなかったよね」



「うん」


「どうして?」


「それはエリが嫌かなと思って」



「なんで彼氏と手をつなぐのが嫌なの?」




「それは……エリがぼくのことを好きか分からなかったから」



「好きじゃなきゃ、つき合ってないって」ふっというため息とともに笑うエリ。



「それは今日知ったよ」たった先ほど、エリが自分を好きでいてくれたことを知ったのだ。



「それがさみしかったよ」ことば通り寂し気にエリはいった。



「ごめん」


「遊びに誘うのもいつもわたしからだったよね。なんで雅史くんはいつも受け身なんだろう、って思ってた」


「ごめん。エリが忙しいかと思って気を遣ってたんだ」


「それが雅史くんのいいところでもあるけどね」


エリもある意味で受け身だったのだが、そこは都合よく無視した。雅史もその矛盾点には気づいていなかった。



もっとも、受け身でいるにはエリにも理由はあった。エリに一目ぼれした雅史が告白して付き合うことになったのだ。最初はさほど好きでもなかったが、雅史のことが知りたいと思ったから、エリは自分から遊びに誘っていた。ホレられた側の自分が”らしくもない”ことを頑張っているのだから、それ以外では雅史にリードしてほしかった。


「好き」と何度いわれても、それは表面的な言葉に過ぎない。手すら触れようとしない雅史に対して、ずっと不満があった。


雅史は雅史で、振られるのが怖くて積極的にはなれなかったが、エリと一緒にいることが好きである何よりの証だった。呼ばれればいつでも会いに行き、エリが行きたいところはどこでもいった。


どちらも互いを想っていたが、その表現が違っていただけだった。



日中は暑かった日差しが弱まり、涼しい風が吹き出した。ふたりはしばらく何も考えず、ただ横に並んで歩いていく。


エリがふいに雅史の手を取ると「いい?」と雅史に聞いた。雅史は少し迷った後、少しだけ力を込めて握り返す。


出会った駅に着いた。再び別れのときがやってきた。しかし雅史にはまだ話すことがあるような気がした。


「今日はありがとう。いいたいことが言えてよかったわ」


「うん」


「今日分かったんだけど、わたし、雅史くんのことまだ好きみたい。でも結婚するなら諦めなきゃね。不倫も友達もしないけど、好きなのは変わらないかな」


友達ではいられないけれど好きなまま──。それを聞いた雅史の心は少しキュっとなった。


「ほかの人ができても、雅史くんは一応、特別よ」冗談めかしてエリはいう。

「うん……」ぼくも、といいたいところだったが、エリのようにいい切るほどの確信はまだなかった。しかしひとつだけ伝えたいことがあった。


「エリ、愛してるよ」


「やだ雅史くん」エリは笑った。


雅史にはエリが笑う理由がわからなかった。何かおかしなことをいったのだろうか。


「雅史くんから”愛”っていうの初めて聞いた。そんなキャラだったっけ」いじわるな口ぶりのエリ。


|◁    ◁前    次▷




いいなと思ったら応援しよう!