小説・あるく香りはキンモクセイ②
ある休み時間、ミヨシさんと僕とその他数人だけの時があった。僕とミヨシさんだけぽつんと離れていたので、チャンスだと思って話しかけた。
「いつも置いてるそれ、何なの?」
「え? ああ、これ」ミヨシさんは手元の葉っぱを見せてくれた。
「来る途中で見つけたの。キレイでしょ」同意を求めるでもなく、葉を見つめたままさらりという。
「へえ……」
来る途中で見つけた葉っぱがキレイ? それを拾った?
どっちも理解できなかったので、そうとしかいえなかった。「そうだね」っていえばよかったなと後で反省したけど、つい。
それからは、もっと注意深く見るようになった。変なヤツと思われたくないから、たまーに。さりげなく。
あれはキレイなのか……でも言われてみればそうかも。
どこで拾うんだろう?
なんて考えるようになった。
また別の日の登校途中、コンビニに寄るためいつもと違う道を歩いていたら、同じ学校の生徒が街路樹の植え込みにしゃがんでいる。
ミヨシさんだ。なにやら、右手と左手に持っているものを見比べている。
「おはよう。何してるの?」
「あ、おはよう。ちょっとね、見つけたの。ほら」
新緑の葉だった。
「緑の葉っぱも落ちてるの? しかも5月なのに」
僕は驚いた。
ぷっ、とミヨシさんは吹き出した。
「春でも葉っぱは落ちるし、緑のまま落ちることもあるよ」
そんなの知らなかった。
ミヨシさんの手の中でクルクルと回る葉は、朝日に透けて緑や黄色に光っていた。
それから、僕は顔を上げて歩くようになった。ミヨシさんが何を見ているのか知りたくなった。
ミヨシさんの机の上にある葉や花を見て、同じものはないかと探すようになった。まったく同じか分からないけれど、似たものは意外と身近で見つかった。
そうして毎日を過ごすと、木々は姿かたちをかえてゆくし、道端に知らない花も咲いていた。キレイだとかいう前に、それがあることすら知らなかった。いつも歩いている道が、初めて体験する場所に変わった。
いまだに理由がなければ話しかける勇気はないけど、ミヨシさんの机の上に自分が目にしたものがあると、その日は気分が良かった。
秋がきた。
学校へと向かう道を歩いていると、歩くリズムに合わせてカサカサと乾燥した音が鳴る。足元を見ると茶色に混ざった枯れ葉の中に、まるっこい葉が混ざっていた。ウソみたいに鮮やかな赤の中心に向かって黄緑や黄色がグラデーションになっている。自然ってこんな色を出すんだ、と少し見とれ、初めて僕も拾ってみた。
ミヨシさんに見せたい一心で、この日は自然に話しかけることができた。
「見て、ミヨシさん。さっき見つけた」
「わあ。キレイだね」
「あげるよ」
「ありがとう」
ミヨシさんはにっこりした。
この日は、今までで一番いい日だった。
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