森の中に入ると、
木漏れ日がやさしく降りそそぎ、
風が木々を揺らしていた。
鳥の声。
葉のこすれる音。
土の匂い。
絵本の中で想像していた世界が、
少しずつ目の前に広がっていく。
やがて、
小さく組まれた薪の前に立つ。
「今日は、この火に会いに来たんだ。」
その子は、
少しだけ息をのんだ。
どんな火なんだろう。
どんな音がするんだろう。
どんな匂いがするんだろう。
手をかざしたら熱いのかな。
火で焼いたものは、
どんな味がするんだろう。
ひとつ、またひとつ。
心の中に浮かんだ「?」は、
その子だけの答えを探し始める。
その答えは、
誰かに教えてもらうものではなく、
見て、
聴いて、
香って、
触れて、
味わって。
その子だけの五感が、
ひとつひとつ見つけていく。
どんな答えになるのかは、
まだ誰にもわからない。
だからこそ、
ワクワクは少しずつ膨らんでいく。
静かな森の中で、
マッチの小さな炎が生まれる。
その小さな灯りは、
乾いた麻へ、
細い枝へ、
そして少しずつ、
少しずつ大きくなっていく。
誰も急がない。
誰も大きな火を求めない。
火には、
火が育つ速さがある。
その様子を、
その子は一言も話さず見つめていた。
パチッ。
小さく音がした。
その瞬間、
目が少しだけ大きくなる。
また、
パチッ。
今度は少し笑った。
言葉はない。
でも、
その表情が教えてくれた。
「絵本と同じだ。」
そう思ったのかもしれない。
火を見ていたのは、
ほんの数分だった。
それなのに、
時間はゆっくり流れていた。
私は、
その子を見る。
その子は、
火を見る。
火は、
静かに燃えている。
その時間には、
何かを教えようという気持ちも、
何かを体験させようという思いも、
もうなかった。
ただ、
同じ火を囲み、
同じ時間を過ごしていた。
その日、
はじめて出会ったのは、
焚き火だけではなかったのかもしれない。
火のぬくもり。
森の静けさ。
五感で感じる自然。
安心して過ごせる時間。
そして、
自分の中にあった、
小さな勇気。
その火は、
薪だけではなく、
その子の心にも、
そして、
そばにいた私の心にも、
静かに灯り始めていた。
焚き火ケアとは、
焚き火だけをすることではない。
安心して自然に触れ、
その人のペースで、
見て、
聴いて、
香って、
触れて、
味わい、
感じることを大切にする時間。
そこには、
「できた」「できない」はない。
火に近づけなくてもいい。
遠くから見つめるだけでもいい。
怖くなったら離れてもいい。
笑ってもいい。
泣いてもいい。
何も話さなくてもいい。
その人らしく過ごせること。
その時間を、
みんなでそっと守ること。
それが、
私が大切にしたい焚き火ケア。
あの日、
小さな炎が灯ったのは、
薪だけではなかった。
一人の子どもの心に。
家族の安心に。
そして、
その場にいた私たち一人ひとりの心にも、
静かなぬくもりが、
そっと灯っていた。
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