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「あんた、私の財布盗ったでしょ!」認知症の親に“泥棒扱い”された時、絶対にやってはいけない対応と、心が救われる「正解のリアクション」

「私の財布がない! あんたが盗ったんでしょ!?」

ある日突然親から浴びせられる、耳を疑うような衝撃の言葉。
毎日食事を作り、洗濯をし、誰よりも親のことを想って、一番近くで尽くしているあなたに向かって…。
なぜそんなひどいことが言えるのでしょうか。

こんにちは、元介護職員のたくみです。

その言葉は心にきますよね。
「こんなに頑張っているのに、泥棒扱いなんて…」
悔しくて、悲しくて、やりきれない思いになるかもしれません。

そのお気持ち、本当によく分かります。 でもどうか安心してください。
これはあなたが悪いのでも、親御さんの性格が急に意地悪になったのでもありません。

これは認知症の代表的な症状の一つ、
「物盗られ妄想」という現象です。

この記事では、なぜ親御さん他の誰でもない、一番身近なあなたばかりを疑うのか、その「意外な心理」と、言い争いの泥沼にならずにその場を収める「正解のリアクション」をお伝えします。

これを読めば、あのひどい言葉が少しだけ違う意味に聞こえてくるはずです。


第1章:なぜ一番身近な人ばかりを疑うのか? その意外なメカニズム


冷静に考えてみると、不思議ではありませんか?
たまにしか顔を出さないご親戚や、週に数回来てくれるヘルパーさんのことはあまり泥棒扱いしない。(※する場合もあります。)
それなのに、一番親身になってお世話をしているあなたのことを真っ先に疑うのです。

「こんなに尽くしているのに、恩を仇で返すなんて…」
そう思いたくなるのは当然です。 でもこれには、脳の仕組みと、悲しいけれど深い理由があるのです。


理由①:脳が「不安」を埋めるために作る物語


まず認知症の方の頭の中で、何が起きているのかを見てみましょう。

  1. ご本人が大切な財布を、自分でタンスにしまいます。

  2. しかし、認知症の影響で「財布をしまった」という事実(記憶)そのものが消えてしまいます。

  3. ふと財布を探した時、そこにはありません。

この時ご本人を襲うのは、猛烈な「不安」「恐怖」です。
「大切なものがなくなった!」というパニック。 そして、心のどこかで「もしかして、自分が忘れたのかも…?」と認めることは、
自分の存在が壊れていくようで、あまりにも怖すぎるのです。

そこで脳は、その恐怖から自分を守るために、無意識のうちに「つじつま合わせ」を始めます。
「私が忘れたんじゃない。そうだ、誰かが盗ったに違いない!」 そう思い込むことで、「自分は正しい(ボケていない)」という安心感を得ようとする。これが妄想の正体です。(※諸説あります)


理由②:あなたへの依存と甘えの裏返し


では、なぜその犯人役があなたなのでしょうか。
それは、あなたが「いつもそばにいてくれる人」であり、ご本人にとって「一番、感情をぶつけても大丈夫な相手」だからです。

想像してみてください。
小さなお子さんが外では愛想よく振る舞っているのに、家に帰ってお母さんの顔を見た途端、ギャーッと癇癪を起こしてワガママを言うことがありますよね。
あれはお母さんが嫌いだからではありません。
「この人はどんな自分を見せても、絶対に私を見捨てない」という、
絶対的な「信頼」と「甘え」があるからこそ、負の感情をぶつけられるのです。

「物盗られ妄想」もこれと非常によく似ています。
どうでもいい他人や、たまに来るお客様には、
ご本人も気を使って、そんな恥ずかしいことは言いません。

あなただから言うのです。
あなたになら、このどうしようもない「不安」や「怒り」をぶつけても受け止めてもらえる。
心の奥底にある「あなたへの依存」「信頼」が病気によってコントロールが効かなくなり、悲しいことに「疑い」という歪んだ形で爆発してしまっているのです。


だからあなたを泥棒扱いするのは、あなたのことが憎いからではありません。 むしろ逆なのです。
皮肉な話ですが、それはご本人が今、この世界で「あなただけを頼りにしている」という、悲痛な叫びの裏返しでもあるのです。


第2章:絶対にやってはいけない「3つのNG対応」


一生懸命お世話をしているのに犯人扱い。
そんな時、ついカッとなって言いたくなる言葉がありますよね。
でも、認知症の方に対して私たちが普段使っている「理屈」は、
残念ながら通用しません。

以下の3つは、私が現場で見てきた中で
事態をさらに悪化させてしまう代表的な対応です。


NG①:真正面から「否定」する


  • 「盗ってないわよ!」「いい加減にして!」

これが一番やってしまいがちで、一番危険な対応です。
なぜなら、ご本人にとって「財布がない」ことは、
紛れもない真実だからです。

ご本人の頭の中では「財布がない=誰かが盗った」という図式が完成しています。
そこであなたが「盗っていない」と否定すると、ご本人はどう感じるでしょうか。
「盗ったくせに、嘘までついている!」
「私をボケ老人扱いして、バカにしている!」 と、
火に油を注ぐ結果になり「泥棒」に加えて「噓つき」というレッテルまで貼られてしまいます。


NG②:正論で「説得」しようとする


  • 「さっき自分でタンスにしまってたじゃない」

  • 「よく思い出して!」

これも逆効果です。
第1章でお話しした通り、ご本人は「しまった」という事実そのものを忘れています。
記憶がすっぽり抜け落ちている人に「思い出して」と迫るのは
足の不自由な方に「走れ!」と言うのと同じくらい残酷で、不可能なことなのです。

正論で追い詰められればられるほど、ご本人は混乱し
「いじめられている」と感じて、さらに頑なになってしまいます。


NG③:怒って、部屋を出ていく(無視する)


  • 「もう知らない!」と、ドアをバタンと閉めて出ていく。

  • 悔しさのあまり、口をきかなくなる。

そのお気持ち、痛いほど分かります。
でもこれはご本人に、猛烈な「孤独」「敵対心」を植え付けてしまいます。

あなたがいなくなると、ご本人の頭には 「財布を盗まれた」という事実と、 「抗議したら邪険にされた」という強烈な「負の感情」だけが残ります。 「やっぱりあいつが犯人だ。逃げたんだ」 そう確信を深めてしまい、
信頼関係が修復不可能になってしまうこともあります。


「否定しない」「説得しない」「無視しない」。
……じゃあ一体どうすればいいの? と思いますよね。

ここで必要なのは、介護者ではなく「名優」になることです。
次の章では、嘘のようにその場が収まる「正解のリアクション」を
お伝えします。


第3章:心が救われる「正解のリアクション」と、魔法の言葉


では、泥沼を回避する「魔法の3ステップ」をご紹介します。


ステップ①:まずは「共感」する(驚くフリをする)


「あんたが盗ったんでしょ!」と言われたら
反射的に「違う!」と言い返すのをグッとこらえて、一呼吸置いてください。
そして、少し驚いた顔でこう言ってみてください。

「えっ、お財布がないの? それは困ったね(大変だね)」

これだけです。
否定も肯定もしません。 ただ、ご本人が感じている「財布がなくて困っている」という感情だけに同意するのです。

これだけで、ご本人の脳内ではあなたは「敵(犯人)」から、
一瞬で「私の困りごとを分かってくれる味方」へと変わります。
敵対心が消え興奮が少し収まるはずです。


ステップ②:「一緒に探す」フリをする


次にこう続けます。
「よし、私も一緒に探すから手伝わせて」

たとえ、あなたが「どうせ、タンスの奥にあるんでしょ」と分かっていたとしても、すぐに出してはいけません。
「ここかな?」「あっちかな?」と、真剣に探すポーズ(演技)を見せるのです。

ご本人は、財布がない不安でいっぱいです。
その不安な時間を「私のために一生懸命探してくれている」という姿で共有することで、ご本人の心に安心感が戻ってきます。


ステップ③:見つかった時の「手柄」を譲る


これが最後の仕上げであり、一番のコツです。

もし、あなたが財布を見つけても「ほら、あったじゃない!」と突き出してはいけません。
そうすると「あなたが隠してたんでしょ!今、出したんでしょ!」と言われてしまうリスクがあるからです。

見つけたら、ご本人の目につきやすい場所にそっと誘導し 「あれ? お母さん、この引き出しの奥は見た?」 と水を向け、
ご本人自身の手で「あ、あった!」と発見させるのです。

そしてこう言います。
「ああ、よかったねぇ!見つかって安心したね」

「私が見つけた」のではなく「ご本人が見つけた」ことにする。
そうすれば、ご本人のプライドも傷つかず「あなたが盗った」という疑いも霧散します。


「そんな、腹が立っている時にお芝居なんてできないよ」
そう思われるかもしれません。
しかし、始めてしまえば意外と慣れていくものです。
そして、これは介護職員の多くが実践しているテクニックでもあります。

でも、この「お芝居」はご本人を騙す嘘とは違います。
ご本人の「孤独で不安な世界」にあなたが一時的に降りていき、
一緒に迷子になって、一緒に出口を探してあげるという、
最高の「優しさ」なのです。


【さいごに】


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

「物盗られ妄想」は、ご本人のやり場のない「不安」の叫びであり、
一番信頼しているあなたへの「屈折した甘え」です。

もしまた泥棒扱いされて、心が折れそうになった時は、深呼吸をして心の中でこう変換してみてください。
「ああ、この人は今猛烈に不安なんだな。そして、私ならその不安を受け止めてくれると頼っているんだな」と。

今日も本当にお疲れ様です。
あなたのその優しさは、言葉には出なくても、ご本人の心の奥底にはちゃんと伝わっています。

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