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デザインサイエンス(04: 農業)「18_ENTOMFARM_3・コオロギ養殖考察」

このデザインサイエンスは、デザインを学ぶ学生たちに広い知識と広い視野を持ってもらうために開講したシリーズものです。詳しくは(00: イントロ)を参照ください。

本講義は「身体」「建築」「都市」「農業」「環境」「エネルギー」のカテゴリーに分けて、学生たちから特にリアクションの良かったトピックをランダムに投下しています。どこから読んでも楽しい構成にしていますので、気軽に興味のあるトピックからどうぞ!
 
今回は「農業」です。

 これまでこの「農業編」では昆虫食の可能性、特に食料安全保障面と環境的メリットについて、そしてこの分野におけるデザインの可能性を、コオロギにスポットを当てながら解説してきました。

 さて、いよいよ本プロジェクトの本丸、コオロギの養殖について具体的にみていきましょう!

■ タイにおける昆虫食屋台について
私はかつてタイに13年間住んでおり、その当時よく屋台で昆虫食を購入して楽しんでいました。特にコオロギはビールのおつまみとしてお気に入りでした。

図:タイのコオロギ屋台の様子
(参考:A Guide to Eating Insects in Phuket:
 https://uk.hotels.com/go/thailand/phuket-guide-eating-insects)

  多くの昆虫屋台は既に調理された状態で売りに来ますが、時々注文してからその場で最終仕上げ調理をしてくれるところがあります。コブみかんの葉やチリ、ナンプラーなどと一緒に加熱してくれるのですが、その出来たてのコオロギがとても美味しかったです。

図:調理器具付きの昆虫屋台で、コブみかんの葉と一緒に揚げている様子(著者撮影)

 タイ人社会では、若者の昆虫食離れが指摘されていますが、それでも割とみなさん普通に昆虫を抵抗なく食べていました。特にミールワームはタイ人にとって人気の食材といった印象です。

時々、真っ黒で大きなサソリや大きなタランチュラなどを売っている昆虫屋台をみかけますが、それらの多くは観光客の多い場所の出没し、「Photo 10B(写真撮影10バーツ)」と抜け目ないサインを貼っていたりします。

 このようにタイ(東南アジア)では、FAO(国連)が先進諸国に昆虫食に取り組むようメッセージを発信する前から、日常的に昆虫を食してきた文化背景があり、まさにタイは昆虫食の先進国といったところでしょう。

 このような背景から、我々もコオロギ食の先進国であるタイにおいて、合計4か所のコオロギ養殖場の視察を行い、色々なノウハウを学びました。

 

■ コオロギ養殖場の視察(タイ)
タイで4か所のコオロギ養殖場の視察を終えて、最初に第一印象を述べますと、全てのコオロギ養殖場に言えることですが、どこも無臭で、清潔で、整然とした現場でした。

図:4か所のコオロギ養殖場の視察風景:どの養殖場も綺麗に整備されている

実は、視察前に予想していたのは、周囲は虫だらけで、臭いが立ち込め、清潔度の低い環境だと、勝手に思い込んでいました(無知でごめんなさい)。何故なら、畜産業では多くの現場で、排泄物と動物臭の悪臭問題は避けられない課題ですし、飼料場にはネズミや害虫などが寄生しやすいものです。また処置に使う水の扱い方が悪いと周辺環境の汚染の原因になってしまいます。

コオロギ養殖施設の状態は、このような予想に反してとても管理が行き届いた現場でした。

 この「昆虫食」シリーズでも先述したように、2013年のFAOによる昆虫食推進の発表のあと、2017年に、将来の昆虫食世界市場を視野に、安全・信頼性確保のため、タイ政府が世界に先駆けてコオロギ養殖のルール制定(GAP施行)を行いました。その内容はコオロギ養殖のための建物設備のスペックや、飼育箱等の取り扱い方法、飼料保管や製造記録などのマネージメント、周辺への環境対策などが含まれています。

我々が視察したコオロギ養殖場は、基本的にそのGAPに最大限従っていました。幾つかそうでない点も見られましたが、これは後発のGAPではなく、その施行の前から行ってきた伝統農法に準じているという理由からでした。

 GAPの英語版・リンク:https://openknowledge.fao.org/server/api/core/bitstreams/2043dd6d-0239-47e9-a93a-f1d750eb9be8/content

 そして、この視察で何よりも幸運だったことは、タイ政府と共に先のGAP制定に貢献された、ユパ・ハンブンソーン教授 (Dr. Yupa Hanboonsong・コンケン大学昆虫学科)と知り合え、彼女に視察ガイドいただけたこと、また日本国内での昆虫食の権威、佐伯真二郎さんにも同行いただけたことが大きな支えとなっています。

図:Noppadon Cricket Farm 視察:
真中がコオロギ養殖場のオーナー、ノッパドンさん
右から2人目の女性が昆虫食領域で世界から注目を浴びるユパ・ハンブンソーン教授
図:Muangton Cricket Farm 視察:
視察にて色々とアドバイスをくださった、昆虫食の専門家佐伯真二郎さん(中央)

どこの養殖場でも同じでしたが、コオロギの巣には紙製の卵パックが使われていました。その卵パックを縦に並べて隙間を多くつくり、コオロギを立体的に飼育していました。餌や水の与え方は、それぞれ体験的にのノウハウを重ねていました。ただ、一般的な畜産業と違い、飼育期間中に与える水の量がとても少なくて済むため、腐敗臭などがほとんどありません。

図:Jai Cricket Farm 視察:オーナーのJai さんが産卵用のトレーを設置している様子

ここではコオロギ養殖視察から得られたノウハウをメモとして残しておきます。ご興味があればどうぞ。(ナナメ読み程度でよいと思います。)

 ・コオロギの飼育空間は紙でできた卵パックを縦置きに並べ、その隙間で立体的にコオロギを飼育するのが一般的だが、その隙間の具合は各農家で違っていた。

 ・餌は穀物とタンパク質の混合顆粒餌で、タイではバッタの餌として普及しているブランドがある。(先進国では鶏の餌を与えているケースが多い)

 ・飲料水の供給方法は様々であった。小さなコオロギは水滴などで簡単に溺死するので注意が必要。飲料水用に浅いトレイを使用したり、脱出防止ネットの上から霧吹きで濡らす程度のところ、また餌のキャッサバの葉っぱを霧吹きで湿らせるところ、湿らせた繊維質のものを設置する、などなど、与えすぎない配慮や工夫が見られた。

 ・産卵期になると、雌コオロギが産卵管を刺して地中の卵を産むため、土とココナッツ繊維と適度な水分の混合土を敷き詰めた産卵用トレイを使用。産卵が終わればそのまま33℃ 程度の温室で保管し、1週間ほどで孵化が始まる。

 ・飼育期間中の飼育箱内の掃除頻度も様々。週1回程度行うところや、もしくは収穫まで(最長6週間程度)一切行わないなど農家によって違う。

 ・飼育期間中に掃除を行うところは、掃除を行う前提で巣箱を作っているため、高床式や、壁との隙間空間を取り入れている。

 ・飼育期間中に掃除を行わないところは、卵パックを飼育箱いっぱいに密集させて、収穫量を増やす工夫を優先している。

 ・飼育箱の衛生管理方法も様々。コオロギ収穫後にバーナーで飼育箱の内側を炙って消毒を行う農家や、それを行わないところも。

 ・全ての養殖場では、飼育で使用した紙製の卵パックは、痛みや汚れがひどくなければ天日干しして再利用。平均して2~3回は再利用可能とのこと。

 ・ダニ(害虫)の発生予防には、ハーブを混ぜた水(ダニは嫌うが無害の水)を与えるところも。

 ・近親交配を防ぐため、コオロギ農家どうしで卵の交換を行う。

コオロギ飼育は基本的に家畜動物の飼育よりも容易なため、改善に取り組みやすく、抱えている課題は比較的少ない産業ではないでしょうか。しかし当然、幾つかの課題点も見られましたので、その中から特に「デザイン領域」から貢献できる点についてまとめます。

 
■ 視察を通して見えてきたコオロギ養殖産業の課題と、今後の取り組み
これら4か所のコオロギ養殖場の見学を終えて「衛生管理」「飼育効率」に課題が残されていることが分かりましたので、詳しく見ていきましょう。

 「衛生管理」
それぞれの養殖場によって、飼育期間中の掃除の頻度が違っており、それによって飼育空間の構成もまちまちでした。また収穫後の飼育箱の清掃方法もそれぞれ違っていました。明らかに養殖環境の衛生管理の差異によって、収穫されるコオロギの質も影響を受けると考えられます。

コオロギの居住空間となる紙製の卵パックの傷みや汚れが、全ての飼育現場で見られました。これは水や糞尿で湿った箇所が汚れたり、柔らかくなったところをコオロギが齧っていることが原因でした(下図左)。

養殖農家は利益率を少しでも上げるため、少々汚れていても、天日干しなどして再利用する傾向が見られました(下図右)。

このような環境での大量・密度飼育は安全面のリスクが存在しますので、改善の余地が残されています。ただ紙製の卵パックは安価なため、この課題解決策も低コスト化を実現する必要があります。

図左:コオロギが齧った跡が残っている卵パックの巣
図右:使用済みの卵パックを天日干しして再利用する(汚れが目立つものもある)


「飼育効率を上げる空間デザイン」
コオロギ養殖分野でも産業として収穫効率の最適化、歩留まりの把握やその改善はとても重要な課題です。これは今のところ、飼育箱の大きさに対して、コオロギの巣になる紙製の卵パックの密度がまちまちなため、収穫効率の最適化が見極められない状況にあります。

ある養殖場はギチギチに卵パックを敷き詰めて飼育し、収穫まで掃除は行わないところや、卵パックを高床台に乗せ、その下をまめに掃除するところ、また二酸化炭素やアンモニアの排気のため、わざと空間を残しているところなど、様々でした。

将来の成長産業として成果を向上させるには、このようなまちまちのやり方ではなく、生産効率を上げるためのコオロギ飼育空間の標準化(スタンダード規格)の確立や、その最適化を進めるためのシステムが必要となります。そのため、これまでの伝統的だが曖昧であったコオロギの飼育空間ではなく、現代的な産業に適した飼育空間のスタンダード・デザインを確立させることが必要です。

この飼育空間のスタンダード・デザインによって、コオロギ養殖産業全体での飼育空間に関する知見の統合が可能となり、ひいてはこの飼育空間のデザイン最適化が促されることが期待できます。

またコオロギを食する地域は世界中に所在しており、それぞれのコオロギの種類は様々です。習性や特徴は似ていますが、体長のサイズがまちまちですので、それぞれのコオロギ種にも最適化できるようなスタンダード・デザインの考え方を提示する必要があります。

図:卵パックで構成された巣の上に餌場や水飲み場を設置している。
また真中の空間はアンモニアなどの排気のためにあけてある。

 

 「知見を共有できるネットワーク」
これまで特に資本主義社会での産業は、市場で優位に立つために、様々な開発をクローズ(閉鎖的)な環境で行ってきました。

しかし、この昆虫食プロジェクトは市場独占を目指すものではなく、世界の全ての人々に栄養価の高いタンパク質を安価に安定的に供給するプロジェクトです。そのため、このプロジェクトの知見が世界中の人々の財産になるような、オープン・ネットワークを構築する必要があります。さらにこのネットワークによって、コオロギ飼育のノウハウが最適化されていくことが理想となります。

■ これから
ここまで、コオロギ養殖場の視察から見えてきた課題「衛生管理」「飼育効率を上げる空間デザイン」「知見を共有できるネットワーク」の3つを解説し、今後の取り組みで考えられる方向性も示しました。

さて、次回から具体的なデザインのお話になります!


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