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デザインサイエンス(04: 農業)「17_昆虫食プロジェクト・ENTOMFARM_2」

このデザインサイエンスは、デザインを学ぶ学生たちに広い知識と広い視野を持ってもらうために開講したシリーズものです。詳しくは(00: イントロ)を参照ください。

本講義は「身体」「建築」「都市」「農業」「環境」「エネルギー」のカテゴリーに分けて、学生たちから特にリアクションの良かったトピックをランダムに投下しています。どこから読んでも楽しい構成にしていますので、気軽に興味のあるトピックからどうぞ!
 
今回は「農業」です。

昆虫食プロジェクト「ENTOMFARM(コオロギ飼育システム開発)」シリーズの続きです。過去のトピックは下記リンクにありますので、確認ください。

 さて前回は、食料安全保障と環境の側面から、昆虫食プロジェクト「ENTOMFARM」を立ち上げた背景をお話ししました。今回からは、いよいよそのプロジェクトの内容に迫ります。
 

■ 養殖用昆虫の選定
本プロジェクトを進めるにあたり、どの昆虫を養殖するかの選定は重要な第一歩でした。昆虫に素人の我々でも取り組めるもの、また栄養価値が高く、市場価値のあるものでなければなりません。
 
ひとくちに昆虫食と言っても、世界で食されている昆虫の種類は1,500種にものぼります。その中から、身近で入手可能なもの、気候条件、生態、文化背景などから幾つかに絞り、最終的にコオロギを選定しました。ここではその理由について解説します。

図:コオロギと数種の食用昆虫(ミールワーム、トンボ、セミ、タガメ、)との比較一覧表
コオロギはアクセスが容易で飼育しやすい種であることが示されている。


  1)既にポピュラーな食材
コオロギは温帯、熱帯、サバンナ地域で既に人気食材として定着しており、ほぼ世界中で入手可能な昆虫です。東南アジアなどでは、昆虫食の屋台が普及しており、コオロギは人気の食材です。また、タイのコンビニにはコオロギ・スナック菓子が売られており、無印良品からコオロギせんべいが発売されていました。欧州ではコオロギパウダー入りのエナジーバーやパスタなど、コオロギを使った製品は既に多くあります。

図左:ALTIMATE NUTRITION 社のコオロギパウダー入りエナジー・バー
(参照:https://altimatenutrition.com/products/chocolate-banana-cricket-protein-bar)
図右:コオロギせんべい(無印良品)

またコオロギは、爬虫類、魚類、鳥類、などのペットの餌や、家畜などの飼料としても人気があり、国内ではインターネットでも簡単に入手できます。そして生物学、栄養学、昆虫学領域などでコオロギに関する研究や、その飼育方法に関する情報が豊富にあるため、専門家でなくても取り扱いが簡単です。

 2)高い繁殖力と成長スピード
多くのコオロギは、産卵期の初期に大量の卵を産むという高い繁殖能力があります。そして飼育温度を約30℃で維持した場合、その繁殖は安定して維持できます。コオロギは卵から孵化してから収穫までの飼育期間はわずか4~6週間です。

孵化直後のコオロギの体長は1 mm ほどで、収穫時期の成虫の体長は 25 ~ 30 mmで、わずか6週間で、バイオマス重量が1,000倍に成長するスピードはとてつもなく速いと言えます。昆虫食でコオロギとよく比較されるクロゴキブリなどは、長いもので成長に1年以上を要します。

このような繁殖・成長スピードは、コオロギの飼育システムの設計、試作、実験などを繰り返しやすく、デザイン開発・改良のスピードも速く進めることができ、また飼育の低コスト化が図りやすくなります。

 3)不完全変態昆虫(単一飼育環境)
多くの昆虫(蝶や蛾、甲虫やトンボなど)は卵から幼虫、蛹、成虫へとかたちを変えながら成長する「完全変態」です。そのため発育段階ごとに異なる飼育環境を必要とします。

例えば、トンボの幼虫は水中で生活し、蛹は地上の乾燥した環境を必要とし、成虫は飛翔のために広い空間を必要とします。またタガメなどの水中昆虫は水環境が必要となり、その環境維持には大きな設備が必要でそのためのメンテナンスも煩雑になってきます。

一方、「不完全変態」であるコオロギは、生まれてから収穫まで、脱皮はしますが、ずっとコオロギのかたちです。そのため成長・繁殖の全過程において単一の飼育環境を維持すれば良いため、飼育設備の設計・管理や環境制御が非常に容易になります。そのため限られた資金や人的資源を集中させやすくなります。

 4)起業のハードルと地域への適応性
コオロギ養殖は、畜産業のような複雑で高価な施設やインフラを必要としないため、小規模な初期投資で始められます。また飼育作業の身体的負担も軽いため、女性や高齢者などハードな労働ができなくても積極的に携わることができます。

また、コオロギ養殖産業は、地域農業との共存も適応しやすいと言われています。例えば、家庭や農業から出る有機廃棄物はコオロギの飼料として利用できるものも多いため、地域の不要な有機廃棄物を、貴重なタンパク質という資源に変換できる新しい産業としても期待されています。

5)環境へのメリット
同量のタンパク質を作るという条件で比較した場合、コオロギ飼育産業は、既存の畜産業と比較して環境負荷が非常に小さいと言われています。一例としてコオロギと牛の比較を見てみましょう。

図:環境負荷が非常に大きいと指摘されている畜産業


「飼料変換効率」
飼料変換効率とは、与えた餌に対して、収穫できる肉(可食部位)や乳、卵など生産量の比率を言います。

1 kg の牛肉を作るのに必要な餌の量がおよそ25 kg と言われており、それに対してコオロギ肉 1 kg には 2 kg 程度の餌で良いと試算されています。

これは牛の新陳代謝(体温調整や消化などに大きなエネルギーが消費され、大量の排泄物が排出される)がとても大きいことも要因として挙げられますが、その他には、血液や骨、皮膚など、食べられない部分の成長にも飼料が消費されていることも大きな要因です。

それに対し、コオロギの新陳代謝は非常に小さく、排泄物の量も圧倒的に少ないです。つまり食べた餌は、ほとんど排出されずに肉体へと変換されていることになります。また、基本的には全身が可食部位ですので捨てるところがありません。これも最終的に飼料変換効率を上げている要因です。

 「可食部位」
コオロギの可食部位は(まれに後脚を取り除く場合を除き)100%ですので、食資源として無駄がありません。一方、牛の場合、一部の内蔵や、角、骨、皮(産業資源として一部利用されますが)は食べられないため、最終的に食用となるのは、牛全体のわずか40%程度です。食資源として牛という個体を見ると、食べられない部位が多すぎるということになります。

 「淡水量消費量」
1 kg の牛肉を作るのに必要な淡水の量がおよそ20,000 L と言われており、それに対してコオロギ肉 1 kg にはわずか8 L 程度の淡水量で良いと試算されます。

これは、牛に与える餌、主に穀物(とうもろこしや小麦など)の栽培に必要な水の量も含まれています。また牛は膨大な量の糞尿を排出しますので、清掃、処理などに大量の水を使用しなくてはいけません。

それに対し、コオロギに与える水の量はとても少なくて良いです。後で触れますが、コオロギ飼育においては、逆に水を与えすぎないように注意が必要なほど、淡水消費量は少ないと言えます。

この大きな差は、特に淡水不足地域において、コオロギ産業が環境面で大きな優位性を持つことを示唆しています。

 「温室効果ガス(メタン)排出量」
同量の肉(可食部位)を得るために、排出される温室効果ガス(メタン)の量は、牛肉の方がコオロギに対して100倍多いと試算されています。牛は反芻動物で胃袋を4つ持っており、その胃の中で植物繊維であるセルロースを発酵分解するためのバクテリアを保有しています。その分解作業が活発に行われることで多くのゲップを出します。これらのメタン排出量は世界規模で試算すると大きな数字になり、地球温暖化の原因のひとつとまで言われています。それに対してコオロギのメタン排出量はとても少ないです。

図:牛肉とコオロギの環境インパクトの比較表


6)栄養成分
5大栄養素(タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラル)の中で、窒素を含むのはタンパク質だけであることは、とても重要です。特に動物性タンパク質は、バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニンといった必須アミノ酸を豊富に含んでいます。人間が体内で生成できない、これら必須アミノ酸を食事から摂取するために、動物性タンパク質は非常に重要な役割を果たしています。

コオロギのタンパク質は、必須アミノ酸の含有量において優れたスコアを示し、世界保健機関(WHO)が定めた基準を上回っています。また熱処理されたコオロギ粉末でもスコアが良いという試験結果も報告されています。

 7)政策:GAPとコオロギ養殖の将来展望
以前の「昆虫食の未来」でも触れたように、2023年に欧州 ( EU ) では、コオロギおよびコオロギパウダー、そしてミールワームなどが新規食品として認定され、食品流通のハードルが取り除かれました。

それに先駆け、コオロギ食の先進国であるタイでは、2017年にタイ政府主導で、より高品質で安全なコオロギ食製品の普及と、生産者の労働条件の改善を目的とした、持続可能な農業として、コオロギ養殖に関する世界初のガイドラインを発表しました。

このように、世界はコオロギ食品に関して市場が開かれていく可能性を秘めています。


 ■ ここまでのまとめ
ここまで、昆虫食が注目される背景を詳しく解説してきました。そこでデザイン領域からも積極的に挑戦できる可能性も、デザイン事例を通して説明しました。多くの食用昆虫の中から、なぜ「コオロギ」を選んだのかも説明しました。

 さて、次回からはいよいよ、我々が取り組んできたデザイン・プロジェクトの具体的なアクションを紹介します。お楽しみに!


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