デザインサイエンス(06: エネルギー)「07_新・エネルギー革命7&8」
このデザインサイエンスは、デザインを学ぶ学生たちに広い知識と広い視野を持ってもらうために開講したシリーズものです。詳しくは(00: イントロ)を参照ください。
本講義は「身体」「建築」「都市」「農業」「環境」「エネルギー」のカテゴリーに分けて、学生たちから特にリアクションの良かったトピックをランダムに投下しています。どこから読んでも楽しい構成にしていますので、気軽に興味のあるトピックからどうぞ!
今回は「エネルギー」です。
前回の第六次エネルギー革命「石炭・蒸気」では、ついに人類は地中のより深いところまで資源獲得の手を伸ばし、Deep Earth(地球の深いところ)とより密接な関係をもつようになったことを説明しました。
今回はより深くその貪欲な手を伸ばすことになる資源との出会いです。
・第七次エネルギー革命 「オイル・ガス・電気」(19世紀・世界人口約15億人)
石油の存在は昔から認知されていました。昔から地面から染み出している黒くて揮発性の高い粘りのある液体は引火しやすいものとして知られていましたが、これの商業的価値を見出すまで、人類はしばらく時間を要しました。
・石油時代のはじまり
古代から炭化水素(原油・天然ガス)は瀝青として建物などの保護塗料として使われていたそうです。現代のアスファルトもこの化合物由来のものですので人類は昔からこの化合物の利用を行ってきました。「エネルギー」つまり燃料としての事例として古いものは、ローマ帝国末期コンスタンチノープルでのテルマエの暖房用などに使われていたそうです。しかし近代的な石油時代の到来までは長く待たなくてはなりません。
時代が進み、19 世紀ごろ西欧諸国では照明ランプに使用する燃料としてマッコウクジラの油が重宝されていました。しかしクジラの乱獲により価格上昇がおこりました。そこで代替油として石油が注目されはじめたのでした。
1859 年8 月27 日、アメリカ、ペンシルベニア州で、ついにエドウィンL. ドレークが蒸気機関式の掘削機を用いて岩盤下約21 m の深さで石油(ロック・オイル)の油田を掘り当てたのでした。この日が近代的な石油時代の始まりとされる理由は、この発掘によって大規模な商業的ブームが起こったからでしょう。
この発掘を機にペンシルバニア州ではオイル・ラッシュが始まり、1859 年に2,000 バレルだった採掘量が、わずか数年で2,000,000 バレルと激増し、2 年で1000 倍の成長を達成したのでした。
そしてこの勢いに乗ったのが、あの有名なロックフェラーです。「スタンダード・オイル」という会社を立ち上げ、油田の買い占め、採掘から運搬、精製までを独占するほどにまで成長させました。
・石油争奪戦
この新しいエネルギーである石油は、石炭と比べてエネルギー密度が非常に高いため、同じ貯蔵体積に対して発揮できるエネルギー量は石油の方が大きく優れています。また副産物として加工が簡単なプラスチックなどが作ることができます。
この石油がいかに便利であるかは、もうみなさん日常生活から体験的に理解していることと思います。どこかに出かけるときの交通手段、海外旅行の際の快適な飛行機、調理された美味しい食べ物、おしゃれな衣類やバッグ、便利なプラスチック製のプロダクトなど、石油の恩恵を受けずに今日の便利な生活を送ることは不可能といえます。
それほど重要な資源である石油ですが、これも他の資源と同じく限られた資源です。そして採掘できる油田の場所も限られていますので、当然奪い合いになります。近代史における戦争、紛争の多くは石油と関係していますし、アメリカやヨーロッパ諸国が国外干渉を行う場合のほとんどはエネルギー政策つまり石油や天然ガスなどと関連していることがわかります。
石油を手に入れるために、先進国の企業や政府は、国境を越えて「調査」を行い「外交」で好条件の取引を行い「採掘」「運搬」「精製」「流通」そして「消費」まで一貫した管理を行うことで巨大な世界マーケットを独占しています。この一貫プロセスを途切れさせないために、時に「戦争」で問題を排除し自分たちのマーケットを守ってきました。
この石油にまつわる緊張感を見事に映像化した作品があります。ピーター・バーグ監督の作品「The Kingdom (2007) 」のオープニング映像です。わずか4分足らずで、アメリカがサウジアラビアで行ってきた石油に関わる70年にも及ぶ活動、そこから生まれる摩擦、アラブ諸国の緊張関係、そして2001年アメリカで起こった同時多発テロへの道筋を、歴史的資料映像やインフォグラフィックスのアニメーションを駆使してひとつの連続したストーリーとして説明しています。これが凄い!オープニングでノックアウトされて本編の内容をほとんど覚えていないくらいです。
動画リンク:https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=LKppKRnM7cU
・第八次エネルギー革命 「原子力」(20世紀・世界人口約25億人)
究極的なエネルギー効率を実現したエネルギー革命です。つまりより少ない資源でより大きなエネルギーを獲得するという点において、この原子力は他を圧倒しています。しかし、すさまじいエネルギー量の放出と致命的な放射線のコントロールが非常に難しいことから、国家レベルでの運用が主でブラックボックス化しやすいエネルギーと言えます。みなさんも知っている通り、この危険性とブラックボックス化した業界などが原因で、多くの議論や問題を引き起こしています。
環境問題に関しては、極めて環境負荷の低いエネルギー源だと公言されています。ここでの意味は、原子力発電所からの二酸化炭素の排出量は火力発電所と比べて極めて少ないと説明されています。
ここで、環境問題や環境負荷を考える際に「ライフサイクル・アセスメント(LCA)」という言葉を覚えておいてください。これはある製品の環境負荷を定量的に測るもので、資源の採掘から加工、流通、そして廃棄までを含めた全てのプロセスに着目して計測を行う手法のことです。
この「ライフサイクル・アセスメント(LCA)」の観点で言うと、原子力発電所での二酸化炭素の排出は非常に少なく環境に優しいですが、燃料のウランの採掘、精錬、濃縮、加工、運搬の工程、また冷却、維持、管理、廃棄において、多くの化石燃料が使用されているとも指摘されています。これに関して、様々な調査研究が発表されていますが、いずれも包括的に全体を捉え切れていません。みなさんもこのような環境に関わる情報などと出会うことが多いと思いますが、ライフサイクル・アセスメントを意識してこれらの情報を咀嚼してみましょう。
2010 年頃の日本では54 基の原子力発電所が稼働し、日本の総発電量の25%を占めていました。そして2011 年の原発事故以降この数字は低くなりますが、少しずつ安全確認の承認を得て再稼働を始める発電所が出てきており、2025 年現在では総発電電力量の10 %程度になっています。減った分は、石炭や天然ガスによる火力発電、そして新エネルギー分野(再生可能エネルギー)が補っています。
発電の種類による死者数の統計で興味深いものがあります。国際環境経済研究所のサイトにも掲載されていますが、1テラワットアワーの発電量あたりの死者数で一番多いのが石炭(つまり火力発電)で161人です。次に石油(つまり火力発電)で36人、原子力発電では0.04人です。屋根上の太陽光で0.44人ですので、屋根へのパネル設置で発生する死亡事故のさらに10分の1ほどの死亡者数ということになります。もちろん1テラワットアワー発電当たりの数字ですので、作業時間の差が大きいと言えますが。
最後に、世界的には地球温暖化の原因といわれている二酸化炭素の排出量削減を目指さなければなりません。火力発電を見直す時代にも突入しています。またプラントや近隣エリアの安全性も重視しなくてはなりません。もしみなさんが日本のエネルギー政策を考える立場にあれば、どのようなエネルギー計画を立てますか?
