流離の冒険者 ♯23 大号令 【連載小説】(ファンタジー小説)
ヒルデさんとの初クエストで、本当に魔物のエサになるかもしれない戦いを乗り越えた。
剣を握る力が奪われるほどに、剣を振った。
傷は無くても、身体はすでに悲鳴をあげていた。
次に何が始まるかわからない‥‥‥
それでも、戦いに必要な力だけは確かに身についていた。
ーーギギギ‥‥‥パリーン!
魔物のエサから、解放され安堵する。
モンスターの群れを撃退した後、ヒルデさんがとってきてくれた食べ物を食べながら、休憩していた。
肌で感じた戦いから、ヒルデさんの言葉が深く繋がっていた。
「エール。きみはあれ以上のモンスターに襲われたとき、勝てると思うか?」
「‥‥‥剣だけでは‥‥‥それに魔法で対処しても、マナが尽きれば、もう‥‥‥」
「そうだ。きみが勝てると思っているのは、きみが万全の状態での話にすぎない。消耗させられては、それが覆ることもある」
ヒルデさんが言っていた、いづれ限界が来ると言っていたことのひとつに思えた。
どれだけ、ひとりで腕を磨いても、数で押されては勝ち目がないことがある。
仮にソロで戦うのであれば、敵の数を正確に把握し、余力を残した戦いをしなくてはいけないと。
わたしは、目の前の敵に全力で剣を振ってしまう。
見えている敵が二体であれば、その二体に全力で戦ってしまう。
けれども、ヒルデさんは、四や五‥‥‥あるいはもっと先の敵まで見えているという。
その先に三十体が見えているなら、三十体に合わせて力を調整するということだった。
わたしのように、結果的に三十体のような戦いをしていると、辿り着いた時には、疲弊し力尽きてしまうことが、今回で身にしみた。
「きみは、細く長く戦うことを覚えた方がいい。それは、目の前の敵に手を抜くということではない。全体に対して全力で戦うというイメージだ」
全体が見えるということが、ヒルデさんの経験なのかもしれない。
最初に見せてくれた、力の抜いた攻撃もそうだったように思えてくる。
「あの‥‥‥それが見えない時はどうすれば」
「すべて、ひとりで解決する必要はない」
「‥‥‥」
索敵が得意なだけでも、誰かのためになる。
わたしの剣だけでは、半日程度が限界。
今の状態で、わたしと同じ程度の力を持つモンスターが現れた時、勝てる気が全くしない。
魔法を織り交ぜながら、せめて一日。
最も大事なことは、帰る時の力を残して、戦うことだと教えられる。
これまでを静かに振り返りながら、焚火の大きさがだんだんと小さくなっていることを見つめていた。
◇
「さて、きみのその疲労感だが‥‥‥」
ーーゴソゴソ‥‥‥
また、何かを袋から取り出しておられる姿を見て、身構えてしまう。
「これで、治すことも可能ではある」
片手程の長細い透明の瓶に、液体が入っているものを見せられる。
淀んだ池、流れのない川のような、ドロドロとした緑色。
道具屋、いや市場で見たことのない、危険な香りがする。
「わたし特製のハーブティー、グリングリーンだ」
「‥‥‥」
名前からして、どこかを行き来するような代物であるのが伝わる。
それに、この色はおそらくわたしの苦手なあの‥‥‥
「きみの大好きな薬草ジュースだ。遠慮はいらぬ。これを作るには、少々素材の値は貼るが、効果は抜群ではある」
ーータプン♪タプン♪
ヒルデさんが瓶を軽く左右に振ると、底に溜まるモロモロが踊り暴れている。
「うっ‥‥‥」
この瓶におさまるだけの薬草を絞り出した液体だと思うと、ふたをしていても、何かがにおう。
わたしは、薬草の食感、におい、味、見た目、色、これらのすべてが、草いとしか感じない。
少し齧るだけでも、必死であるようなわたしにとって‥‥‥
これは、あまりにも、危険すぎる。
「ヒルデさん!それを今ここで使うのはもったいないです!命に関わる時だけ使うべきです!!」
「‥‥‥それもそうか」
少し寂しそうな表情を見て、レーラさんのハーブティーを飲んでいた時が平和だったと思い出す。
飲みやすいように精製された回復薬ですら、若干の抵抗のあるわたしが、こんなものを飲めばおそらく倒れる。
せっかく作ってもらったことに申し訳なささを感じつつ、この死線をギリギリ乗り切る。
「ヒルデさん!次のクエストです!行きましょう!」
わたしの中で小さくなっていた火が、再び燃え上がる。
◇
元気であることを伝えるように、ヒルデさんのほんの少し前を歩き、森を歩いていると、平原のような場所に来た。
周りは木で囲まれているにも関わらず、ここだけは丸く穴のような場所になっていた。
「ここがいい。おそらく、過去に火の魔法で燃えた場所だろう。見通しがよく戦いやすい」
「ここで、また‥‥‥」
「わかっている。今回はわたしも協力しよう」
「ありがとうございます!」
とは言ったものの、周りを見てもモンスターの気配は感じない。
本当にここが、戦いの場になるのだろうか‥‥‥
先に中央の方に、行くように指示され、一度森の方に入っていかれる。
もしや、と思いつつも、すぐ帰って来られるだけで安堵してしまう。
その手には、何かの葉っぱを持っておられた。
「では、始めようか。魔法の準備をしておけ」
「ゴクリ‥‥‥」
その葉っぱを、ゆっくりと口元にあてられる。
ーーブオオー ブオオ―‥‥‥ぶおお~ ぶおお~
空気が揺れるような大きさの戦いの合図が出る。
しばらくすると、周囲の遠い茂みから何か気配を感じた。
「ここから動く必要はない。来たものからひとつずつ制圧する」
襲いかかってきたモンスターを、ヒルデさんが弾き、弱まった状態のとどめをわたしが魔法で刺すという作戦だった。
強さはいらない‥‥‥ただ、正確に当てるということだけに集中する。
ーーバーン!ビリビリ。バーン!ボワッ。バーン!ヒュー‥‥‥
どれだけ近くまで襲ってきても、一定の距離からは入って来れない。
そうわかっていても、近接攻撃が十分にできない今のわたしは不安になる。
目だけは瞑るなという助言だけを信じて、ひたすら弾かれたモンスターにめがけて魔法を放つ。
早さと正確さだけを求めるようなこの魔法は、ヒルデさんと最初に出会ったあの日の訓練と重なるように思えた。
◇
ーーヒュー‥‥‥
「まあ、こんなものだろう」
「はぁ‥‥‥無事に終わった」
すでに体力も精神も、限界に近づいていた。
あとは、帰るだけだという気持ちでわたしはその場に座る。
「さて、ここからが本番なわけだが」
ーーピリピリ‥‥‥
目の前に立ちはだかる、ヒルデさんの指先から、小さな電流が弾けわたしに向けられる。
「回復の魔法を、今すぐ発動させよ」
「回復の魔法?」
「十秒待つ、十、九、八‥‥‥」
どういうことかわからない、けど、この目の時だけはマズい!
「四、三」
「‥‥‥ヒール!ポワーン♪」
回復したにも関わらず、むしろ疲労感を感じる。
ーービリビリ‥‥‥
続けてさっきより、威力が大きいものが向けられていることが伝わる。
「五、四、三、」
「ヒール!ポワーン♪」
ーーバリバリ‥‥‥
「三、二、」
「プチヒール!ポワッ♪」
ーーゴゴゴゴゴゴ‥‥‥
「深淵を貫く、一筋の」
「それは無理です!!!」
ーー‥‥‥ポワッ♪
「あれ‥‥‥今のって」
わたしの姿を見て、ヒルデさんから出ていた険しい空気が、穏やかな雰囲気に変わる。
ーーヒュー‥‥‥
「フッ‥‥‥断れないが故に、わたしは、将にまで、昇ってしまったのかもしれないな‥‥‥」
風にかき消されるような、静かな声で空を見上げておられた。
訓練の後、あの水が出せるようになったと話した時に、この可能性を感じていたと話される。
小さなものだったけれど、また初めてできた。
帰り道、歩きながらでも練習するように告げられる。
どこまでもいけそうな‥‥‥歩くと気分がよくなり、音を奏でるようで楽しくなる。
当初ギルドから受けていなかったクエストの分も、いくつか達成していたようで、ヒルデさんが報告してくれていた。
ギルドへの報告を済ませた後、あの装備屋の倉庫まで帰ってきていた。
建物の中に入ると、ヒルデさんは羊皮紙を持って、真剣な表情の中、魔法で何かを記していた。
どこか神聖な雰囲気が、この羊皮紙から出ている。
「きみのこれまでの成果だ。受け取ってくれないか」
そこに難しい言葉が、たくさん並んでいる。けれど‥‥‥
「‥‥‥あの、これって」
ーーパタッ‥‥‥
今日の、いや、この半年の疲れからか、腰が抜けて上手く立てない。
何がどうなれば、こうなるのだろうか、何も思いつかない。
穏やかな視線だけが向けられる。
「エール・ルクス。我々は、きみを歓迎する」
何かで視界がにじみ、上手く読み取れないけれど、この差し出された手から想いがすぐに伝わった。
不安はあるけれど、わたしは、立ち上がるため、迷わずこの手をとる。
「ようこそ。我らが誇り高き、ブレイロア王国騎士団へ」
ーーつづく。
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