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流離の冒険者  ♯2 邂逅 【連載小説】(ファンタジー小説)

【あらすじ】

怪しきスライムクエストをクリアし、一週間程経っていた。
新たなクエストを探すため、わたしは、ギルドの掲示板を訪れていた。

前回の反省を活かすため、より慎重に募集要項を眺めるように意識する。

たとえ「どんぐりクエスト」であっても、一瞬も隙を許さない覚悟で臨む。

そう、あの過去の教訓から‥‥‥

流離の冒険者  ♯2 邂逅【あらすじ】

ーー警戒モードが最高潮に達している今のわたしは、掲示板に張られている内容をまじまじと眺める。

前回の、「どんぐり」から学んだことを考慮し、わたしの得意とする魔法がいつ無効化されるかわからない、恐怖が脳裏をよぎる。

「うむ‥‥‥あのにわとりモンスターの討伐か‥‥‥いや、こっちのカエルモンスターの方が楽か‥‥‥」

わたしにとって、これらのモンスターは脅威ではない。
だが、万が一、いや、兆が一の可能性を考慮すると‥‥‥

急にこの手が止まる。

ーーコツコツコツ‥‥‥しーん。

「うーん、やはり剣士としての腕を考えると‥‥‥こっちのほうが‥‥‥いや、もう一度ゴブリンあたりから‥‥‥」

「おい。スライム小僧は、貴様だったのか」

「え?‥‥‥」

あたりを見渡すと、さっきまでざわざわとしていた空気が静まりかえっている。気づけば、この空間に人の姿が誰も見えない。

背後を、振り返ってもさっきの声の者が見当たらない。

「どこをみている」

肩をつかまれるその手からは、グギグギと音がなる。

聞いたことのある‥‥‥いや、忘れようとしていたあの声だと。

「あの‥‥‥もしや‥‥‥」

「ようやく見つけたぞ、少年」

ーーわたしはかつて、王国の士官学校にいた。
そこは、魔物・魔族に対抗するための鍛錬をする場である。

わたしはそこで魔法に特化した教練を受け、その技を磨いていた。
将来多くの人を守るために、ここを乗り越えることを目標としている。

だが、現実はそうではない。
この場をやり過ごし、この期間をのびのびと過ごしたい。
そういった場所であるのが現状でもある。

モンスターを倒すのはなぜか?それは、わたしが生きるためである。
しかし、生きるためなら他にも選択肢はある。

わたしの場合、魔法が好きだからここを選んだ。
騎士として活躍したいという気持ちはあまりない。

むしろ、そのような前線に行くことは危険でもあると‥‥‥

「次の講義は何だっけ?」

「魔法の実技だったかな?新しい教官が来るって!」

「どんな教官だろうねー、楽な人ならいいけど」

周囲は、今日から来る教官の話題で盛り上がっている。
誰もその講義の内容には触れていない。

わたしは、教官がどんな魔法が使えるのか興味があった。

ーーザワザワ。
日差しが強く、いつもより暑い中、外の広い土の教練場に集められたわたしたちはあたりを見渡す。

しかし、教官の姿が見えない。

待っている間、地面から照り返す熱で焼けそうになる。
ただ暑い。
顔から落ちる汗が、一瞬で蒸発する。

「ここであってるんだよね?」

「張り紙にはそう書いてあったけど‥‥‥みんな間違っている?」

いや、間違ってなどいないはず。わたしも確認した。
では、いったい何が起こっているのか。

「わたし、教官を呼びに行ってくる!」

ひとりの真面目な者が動こうとしたその時‥‥‥

「その必要はない」

前から声がする。
しかし、姿が見えない。これはいったい。

「どこをみている」

その声の見つめると、うっすらと姿が見える。

「えっ、もしかして‥‥‥」

砂煙が舞う中、徐々にぼんやりと人影が見える。
はっきりと見えた時、皆息を飲んだ。

女傑将軍『ヒルデ・バレット』通称『魔法戦車』

王国が誇る、最高戦力の一人。知らないものなど、この世にいない。
椅子に座り、鋭い目つきでこちらを見ていた。

飽きれたような、退屈なような。
頬杖をつき、足を組んで空を見ている。

「誰か、これがわかるか?」

これは、意地悪な質問だ。
わかっていたなら、なぜ気づかないのだと言われている。

当然、誰も答えられない。

「貴様ら、命が惜しくないのか?」

この時、皆がハッとする。
この方が、おそらく教官となるということに。

「熱と光を使って、幻を見せた。古典的な技だ」

『魔法戦車』とはそういうことだったのか。
ただ、待っているだけでいい。いつもより、暑く感じたのも‥‥‥

「今から、訓練を行う、全員魔法の準備をせよ」

教官は椅子から立ち上がる。
クッションにしていた、ぬいぐるみがふにゃりと姿を現す。

スライムの形をしている。ところどころ糸がほつれ、まるで少女が作ったような、かわいい顔をしている。

「フッ‥‥‥」

鼻で笑ったような声が、どこかから漏れた。
その瞬間、その方向を、この方は一瞬見つめる。

「これに向かって、魔法を当てよ。それができれば、今日の訓練は終わる」

ぬいぐるみで緊張感をほぐそうとしていると思えなくもない。
だが、放たれる殺気のような、おぞましいオーラから真剣さが伝わる。

教官の指示を聞いて、すぐに魔法を唱えようとする者が前に出る。

「ファ‥‥‥」

目の前にいた姿が、突如消える。

ーーバーン!ズドドドーン‥‥‥ぐはっ‥‥‥バタッ‥‥‥

「えぇっ‥‥‥」

「あぁ、すまない。魔法を唱えていると思っていたが、ただの不快な笑いだったようだ」

何が起こったのか、全く見えなかった。
飛ばされた先の、遠い茂みから声が聞こえる。

「ピヨピヨ‥‥‥」

さっき笑った者の姿を見て、これが遊びではないことを察する。

皆の顔が引きつり、脚が小刻みに震える。
地面に顔をうずめ、うつ伏せになっている姿を横目で眺めておられる。

「裏か‥‥‥先攻はそちらに譲る。安心していい。これはただの遊びだ」

この世で最も恐ろしい、コイントスであった。

訓練が始まろうとしたその時、教官はふと何かを思い出したようだ。


「おっと、失礼。自己紹介を忘れていた。わたしは『ヒルデ・バレット』」

「‥‥‥諸君らより、ほんの少しばかり、『先を生きている者』の名だ」


ーーつづく。


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