流離の冒険者 ♯2 邂逅 【連載小説】(ファンタジー小説)
【あらすじ】
怪しきスライムクエストをクリアし、一週間程経っていた。
新たなクエストを探すため、わたしは、ギルドの掲示板を訪れていた。
前回の反省を活かすため、より慎重に募集要項を眺めるように意識する。
たとえ「どんぐりクエスト」であっても、一瞬も隙を許さない覚悟で臨む。
そう、あの過去の教訓から‥‥‥
ーー警戒モードが最高潮に達している今のわたしは、掲示板に張られている内容をまじまじと眺める。
前回の、「どんぐり」から学んだことを考慮し、わたしの得意とする魔法がいつ無効化されるかわからない、恐怖が脳裏をよぎる。
「うむ‥‥‥あのにわとりモンスターの討伐か‥‥‥いや、こっちのカエルモンスターの方が楽か‥‥‥」
わたしにとって、これらのモンスターは脅威ではない。
だが、万が一、いや、兆が一の可能性を考慮すると‥‥‥
急にこの手が止まる。
ーーコツコツコツ‥‥‥しーん。
「うーん、やはり剣士としての腕を考えると‥‥‥こっちのほうが‥‥‥いや、もう一度ゴブリンあたりから‥‥‥」
「おい。スライム小僧は、貴様だったのか」
「え?‥‥‥」
あたりを見渡すと、さっきまでざわざわとしていた空気が静まりかえっている。気づけば、この空間に人の姿が誰も見えない。
背後を、振り返ってもさっきの声の者が見当たらない。
「どこをみている」
肩をつかまれるその手からは、グギグギと音がなる。
聞いたことのある‥‥‥いや、忘れようとしていたあの声だと。
「あの‥‥‥もしや‥‥‥」
「ようやく見つけたぞ、少年」
◇
ーーわたしはかつて、王国の士官学校にいた。
そこは、魔物・魔族に対抗するための鍛錬をする場である。
わたしはそこで魔法に特化した教練を受け、その技を磨いていた。
将来多くの人を守るために、ここを乗り越えることを目標としている。
だが、現実はそうではない。
この場をやり過ごし、この期間をのびのびと過ごしたい。
そういった場所であるのが現状でもある。
モンスターを倒すのはなぜか?それは、わたしが生きるためである。
しかし、生きるためなら他にも選択肢はある。
わたしの場合、魔法が好きだからここを選んだ。
騎士として活躍したいという気持ちはあまりない。
むしろ、そのような前線に行くことは危険でもあると‥‥‥
「次の講義は何だっけ?」
「魔法の実技だったかな?新しい教官が来るって!」
「どんな教官だろうねー、楽な人ならいいけど」
周囲は、今日から来る教官の話題で盛り上がっている。
誰もその講義の内容には触れていない。
わたしは、教官がどんな魔法が使えるのか興味があった。
◇
ーーザワザワ。
日差しが強く、いつもより暑い中、外の広い土の教練場に集められたわたしたちはあたりを見渡す。
しかし、教官の姿が見えない。
待っている間、地面から照り返す熱で焼けそうになる。
ただ暑い。
顔から落ちる汗が、一瞬で蒸発する。
「ここであってるんだよね?」
「張り紙にはそう書いてあったけど‥‥‥みんな間違っている?」
いや、間違ってなどいないはず。わたしも確認した。
では、いったい何が起こっているのか。
「わたし、教官を呼びに行ってくる!」
ひとりの真面目な者が動こうとしたその時‥‥‥
「その必要はない」
前から声がする。
しかし、姿が見えない。これはいったい。
「どこをみている」
その声の見つめると、うっすらと姿が見える。
「えっ、もしかして‥‥‥」
砂煙が舞う中、徐々にぼんやりと人影が見える。
はっきりと見えた時、皆息を飲んだ。
女傑将軍『ヒルデ・バレット』通称『魔法戦車』
王国が誇る、最高戦力の一人。知らないものなど、この世にいない。
椅子に座り、鋭い目つきでこちらを見ていた。
飽きれたような、退屈なような。
頬杖をつき、足を組んで空を見ている。
「誰か、これがわかるか?」
これは、意地悪な質問だ。
わかっていたなら、なぜ気づかないのだと言われている。
当然、誰も答えられない。
「貴様ら、命が惜しくないのか?」
この時、皆がハッとする。
この方が、おそらく教官となるということに。
「熱と光を使って、幻を見せた。古典的な技だ」
『魔法戦車』とはそういうことだったのか。
ただ、待っているだけでいい。いつもより、暑く感じたのも‥‥‥
「今から、訓練を行う、全員魔法の準備をせよ」
教官は椅子から立ち上がる。
クッションにしていた、ぬいぐるみがふにゃりと姿を現す。
スライムの形をしている。ところどころ糸がほつれ、まるで少女が作ったような、かわいい顔をしている。
「フッ‥‥‥」
鼻で笑ったような声が、どこかから漏れた。
その瞬間、その方向を、この方は一瞬見つめる。
「これに向かって、魔法を当てよ。それができれば、今日の訓練は終わる」
ぬいぐるみで緊張感をほぐそうとしていると思えなくもない。
だが、放たれる殺気のような、おぞましいオーラから真剣さが伝わる。
教官の指示を聞いて、すぐに魔法を唱えようとする者が前に出る。
「ファ‥‥‥」
目の前にいた姿が、突如消える。
ーーバーン!ズドドドーン‥‥‥ぐはっ‥‥‥バタッ‥‥‥
「えぇっ‥‥‥」
「あぁ、すまない。魔法を唱えていると思っていたが、ただの不快な笑いだったようだ」
何が起こったのか、全く見えなかった。
飛ばされた先の、遠い茂みから声が聞こえる。
「ピヨピヨ‥‥‥」
さっき笑った者の姿を見て、これが遊びではないことを察する。
皆の顔が引きつり、脚が小刻みに震える。
地面に顔をうずめ、うつ伏せになっている姿を横目で眺めておられる。
「裏か‥‥‥先攻はそちらに譲る。安心していい。これはただの遊びだ」
この世で最も恐ろしい、コイントスであった。
訓練が始まろうとしたその時、教官はふと何かを思い出したようだ。
「おっと、失礼。自己紹介を忘れていた。わたしは『ヒルデ・バレット』」
「‥‥‥諸君らより、ほんの少しばかり、『先を生きている者』の名だ」
ーーつづく。
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