流離の冒険者 ♯3 絶貌の光 【連載小説】(ファンタジー小説)
【あらすじ】
ほんの少し「先を生きている」女傑将軍「ヒルデ・バレット」
全身から放たれる、圧倒的な存在感と威圧感。
一切の隙と甘えを許さない。
目の前に立ちはだかるその姿は、まさに「絶貌」である。
その言葉の真意は、いったいどこに‥‥‥
ーーーーゴゴゴゴゴゴゴー!
「ほんの少し」先を生きている‥‥‥
その差はあまりにも大きすぎる。
「さっきの愚か者は、致命的なミスを犯した」
あの者のミス‥‥‥
おそらく、あの無礼に対する報復だろうと察する。
この方は、これまで人々を笑顔にすることがあっても、笑われることなどありえないと、王国の歴史がそう言っている。
「ひとつ。近接戦闘を苦手とする魔法職が、戦いの最前線に『のこのこ』と出てきたこと」
この言葉を聞いて、皆が周囲を見渡し、教官から数歩下がる。
確かにそうだと。しかし、この状況では‥‥‥とも。
「ひとつ。魔物に最初に狙われるのは、諸君らのような非力な身体能力の人間からだということ」
この場にいるのは、横の誰かよりも少し先を目指してきた者たちの集まり。だが、今この場で皆が気にしているのは、その逆である。
いかに、教官から距離を取るか。
それも、横に並ぶ者よりも、ほんの少しでも後ろに居る位置をちらちらと意識している。
その狙いはたった一つ‥‥‥
教官に当てられたくない。
指名されたときのダメージが、あまりにも大きすぎる。
公開処刑とは、まさにあのことである。
あの光景を見た後だ。無意識に湧き出る生命の危機感。
しびれを切らした数名が、勢いよくさがる。
その姿につられ、気づいた時には、全体が教官との距離を大きく取れる位置に広がっていた。
わたしも皆につられて、すでに教官との距離が遠くなっていた。
◇
ーーヒュー‥‥‥
静かな風の音が聞こえる。
ほんの少しどころではなかった。
今、この距離を詰められる者はわたしを含めて誰もいない。
絶貌的な差が、目に見えている。
「どうした。それでは、いつまで経っても訓練は終われないぞ」
誰かが魔法を放ち、あのぬいぐるみにたった一発当てればいいだけ。
誰でもいい、誰かが‥‥‥
「わかった、諸君らが魔法を放つまで、わたしは魔法を発動しない」
この言葉を聞いて、安心する。だが、安心していいのかとも。
そういった油断が、またあの者と同様に、何かの見せしめになる可能性すらある。
よって、誰も動けない。
魔法の弱点は、発動の際に隙がうまれること。
上位の魔法ほど、時間がかかる。長い詠唱が必要なものもある。
協力すれば、この状況が変わるような。
わたしは、近くの者に声をかける。
「あの‥‥‥ちょっといいかな?」
「はい!?なんでしょう?」
今日、始めて話しかけた。ちょっと照れくさい。
だが、この状況でこんなことに恥ずかしがっている場合ではない。
「下位の魔法を、あれに向かって放とうと思う。ほんのわずかな間、ぼくに防御の魔法を展開してくれないかな?」
「えっーと‥‥‥」
少し戸惑っている。その時に無防備になるのは、彼女自身にもなる。
だが、教官はそこまで狙ってくるのかとも‥‥‥
「ぼくの魔法が発動したら、確実にきみを守る」
こくりとうなずき、手のひらをわたしに向けている。
わたしは、彼女の数歩前に立ち、何かが飛んできても受け止めれるように。
そして、玉座に座るスライムに、教官が盾にならない位置を取る。
ーーフゥー‥‥‥ごくり。
「‥‥‥ファイアボール!」
「マジックガード!」
一発の火の玉が、ぬいぐるみに向かって走る。
ヒルデ将軍は一切の動きを見せない。
だんだんと、火の玉がスライムに近づく。
皆の視線が、その一点に集中していた。
「よし!いける!」
ーーどーん!
「‥‥‥」
煙の中から、スライムがにっこりとかわいい顔をして姿を魅せる。
ヒルデ将軍は、ずっとこちらを見ている。
一本の指先だけが、「火の玉」の方を指していた。
周囲にどよめきがはしる。
「おい‥‥‥今、何が起こった?」
「火の玉に気を取られてよく見ていなかった‥‥‥」
「教官は、何かしたのか?」
撃ったわたしですら、見えなかった。
でも、何かによって、わたしの魔法が打ち消されたのは確かだ。
もちろん、これは‥‥‥あの指先からの魔法だと。
「‥‥‥もう一回。試したい」
背後でわたしを守ってくれている、彼女に向けて囁く。
ふりかえると、すでに構えてくれていた。
集中が研ぎ澄まされ、わずかに手が震えていた。
ーーフゥー‥‥‥
「ファイアボール!」
「マジックアップ!」
攻撃が来ないと察した彼女の機転によって、魔法の威力があがる。
さっきよりも、大きな、そして素早い「炎の弾」が突き進む。
ヒルデ将軍は、止まっている。
その指先を、今度はじっくりと見る。
ーーピカッ!‥‥‥ドーン!!
この時、ようやくわかった。
ヒルデ将軍は、最初からわたしを狙っていない。
ただ、玉座に座るモノを守ることだけを考え、飛んできたものを打ち落とすことに集中している‥‥‥ようには見えない。
指先が、さっきと同じ。一切動いていない。
わかっていたかのように、ただ待ち構えている。
そのタイミングだけを、合わせているように。
それ以上に、恐ろしいことがある。
教官は、指先を光らせる際に‥‥‥何も詠唱をしていない。
これは、誰が見ても理解できる。
なぜなら、その時のヒルデ教官は‥‥‥
「ふぁ~‥‥‥あん?」
大きなあくびをしていたからだ。
おそらく、これまでずっと‥‥‥そして、この瞬間も。
ただ退屈だったのだと。
ーーつづく
▼異世界ファンタジー小説、『流離の冒険者』に関する記事はこちらから。
▼異世界ファンタジー小説、『滅国の英雄』に関する記事はこちらから。
創作大賞2026 ファンタジー小説部門 応募作品
▼「ただの読者モード」への道 全4話
創作大賞2026 オールカテゴリー部門
▼「クリエイター能」への道 全3話
創作大賞2026 オールカテゴリー部門
