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流離の冒険者 ♯3 絶貌の光 【連載小説】(ファンタジー小説)

【あらすじ】

ほんの少し「先を生きている」女傑将軍「ヒルデ・バレット」
全身から放たれる、圧倒的な存在感と威圧感。

一切の隙と甘えを許さない。
目の前に立ちはだかるその姿は、まさに「絶貌」である。

その言葉の真意は、いったいどこに‥‥‥

流離の冒険者 ♯3 絶貌の光【あらすじ】

ーーーーゴゴゴゴゴゴゴー!

「ほんの少し」先を生きている‥‥‥

その差はあまりにも大きすぎる。

「さっきの愚か者は、致命的なミスを犯した」

あの者のミス‥‥‥

おそらく、あの無礼に対する報復だろうと察する。

この方は、これまで人々を笑顔にすることがあっても、笑われることなどありえないと、王国の歴史がそう言っている。

「ひとつ。近接戦闘を苦手とする魔法職が、戦いの最前線に『のこのこ』と出てきたこと」

この言葉を聞いて、皆が周囲を見渡し、教官から数歩下がる。
確かにそうだと。しかし、この状況では‥‥‥とも。

「ひとつ。魔物に最初に狙われるのは、諸君らのような非力な身体能力の人間からだということ」

この場にいるのは、横の誰かよりも少し先を目指してきた者たちの集まり。だが、今この場で皆が気にしているのは、その逆である。

いかに、教官から距離を取るか。

それも、横に並ぶ者よりも、ほんの少しでも後ろに居る位置をちらちらと意識している。

その狙いはたった一つ‥‥‥

教官に当てられたくない。

指名されたときのダメージが、あまりにも大きすぎる。

公開処刑とは、まさにあのことである。

あの光景を見た後だ。無意識に湧き出る生命の危機感。
しびれを切らした数名が、勢いよくさがる。

その姿につられ、気づいた時には、全体が教官との距離を大きく取れる位置に広がっていた。

わたしも皆につられて、すでに教官との距離が遠くなっていた。

ーーヒュー‥‥‥

静かな風の音が聞こえる。

ほんの少しどころではなかった。
今、この距離を詰められる者はわたしを含めて誰もいない。

絶貌的な差が、目に見えている。

「どうした。それでは、いつまで経っても訓練は終われないぞ」

誰かが魔法を放ち、あのぬいぐるみにたった一発当てればいいだけ。

誰でもいい、誰かが‥‥‥

「わかった、諸君らが魔法を放つまで、わたしは魔法を発動しない」

この言葉を聞いて、安心する。だが、安心していいのかとも。

そういった油断が、またあの者と同様に、何かの見せしめになる可能性すらある。

よって、誰も動けない。

魔法の弱点は、発動の際に隙がうまれること。
上位の魔法ほど、時間がかかる。長い詠唱が必要なものもある。

協力すれば、この状況が変わるような。
わたしは、近くの者に声をかける。

「あの‥‥‥ちょっといいかな?」

「はい!?なんでしょう?」

今日、始めて話しかけた。ちょっと照れくさい。
だが、この状況でこんなことに恥ずかしがっている場合ではない。

「下位の魔法を、あれに向かって放とうと思う。ほんのわずかな間、ぼくに防御の魔法を展開してくれないかな?」

「えっーと‥‥‥」

少し戸惑っている。その時に無防備になるのは、彼女自身にもなる。
だが、教官はそこまで狙ってくるのかとも‥‥‥

「ぼくの魔法が発動したら、確実にきみを守る」

こくりとうなずき、手のひらをわたしに向けている。
わたしは、彼女の数歩前に立ち、何かが飛んできても受け止めれるように。

そして、玉座に座るスライムに、教官が盾にならない位置を取る。

ーーフゥー‥‥‥ごくり。

「‥‥‥ファイアボール!」

「マジックガード!」

一発の火の玉が、ぬいぐるみに向かって走る。
ヒルデ将軍は一切の動きを見せない。
だんだんと、火の玉がスライムに近づく。

皆の視線が、その一点に集中していた。

「よし!いける!」

ーーどーん!

「‥‥‥」

煙の中から、スライムがにっこりとかわいい顔をして姿を魅せる。
ヒルデ将軍は、ずっとこちらを見ている。

一本の指先だけが、「火の玉」の方を指していた。

周囲にどよめきがはしる。

「おい‥‥‥今、何が起こった?」

「火の玉に気を取られてよく見ていなかった‥‥‥」

「教官は、何かしたのか?」

撃ったわたしですら、見えなかった。
でも、何かによって、わたしの魔法が打ち消されたのは確かだ。

もちろん、これは‥‥‥あの指先からの魔法だと。

「‥‥‥もう一回。試したい」

背後でわたしを守ってくれている、彼女に向けて囁く。
ふりかえると、すでに構えてくれていた。

集中が研ぎ澄まされ、わずかに手が震えていた。

ーーフゥー‥‥‥

「ファイアボール!」

「マジックアップ!」

攻撃が来ないと察した彼女の機転によって、魔法の威力があがる。
さっきよりも、大きな、そして素早い「炎の弾」が突き進む。

ヒルデ将軍は、止まっている。
その指先を、今度はじっくりと見る。

ーーピカッ!‥‥‥ドーン!!

この時、ようやくわかった。

ヒルデ将軍は、最初からわたしを狙っていない。

ただ、玉座に座るモノを守ることだけを考え、飛んできたものを打ち落とすことに集中している‥‥‥ようには見えない。

指先が、さっきと同じ。一切動いていない。
わかっていたかのように、ただ待ち構えている。
そのタイミングだけを、合わせているように。

それ以上に、恐ろしいことがある。

教官は、指先を光らせる際に‥‥‥何も詠唱をしていない。
これは、誰が見ても理解できる。

なぜなら、その時のヒルデ教官は‥‥‥

「ふぁ~‥‥‥あん?」

大きなあくびをしていたからだ。

おそらく、これまでずっと‥‥‥そして、この瞬間も。


ただ退屈だったのだと。

ーーつづく


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