流離の冒険者 ♯4 大災厄の魔法 【連載小説】(ファンタジー小説)
【あらすじ】
絶貌の光。目の前のそれはあまりにも大きい。
しかし、まだはっきりと見えていない。
モンスターとの戦闘を想定した、地獄のような訓練はまだ始まったばかり。
「魔法戦車」ヒルデ・バレット。
この日、わたしたちは知ることとなる。
「ほんの少し、先を生きている」熱い想いが、皆の胸に刻まれる。
わたしたちの姿を見て、バラバラだった者がペアをつくり始める。
各々が得意とする魔法を、恐る恐るあのスライムに向けて放つ。
ーーどーん!パリン!シュー‥‥‥
当たったと思った直前で、すべて守られる。
「フッ‥‥‥」
ヒルデ教官は、さっきよりも少し楽しそうにも見える‥‥‥
発動のタイミングを合わせれば、さすがにあの将軍でも‥‥‥
わたしたちの中で、かすかな希望がよぎる。
「協力して、皆で攻撃を合わせよう!」
「低位の魔法ならば、皆発動のタイミングを合わせやすいかも!」
どこからか聞こえるこの声を聞いて、その提案に乗ろうと皆が視線を送る。
わたしたちも、それに合わせようと目を合わせる。
全員でかかれば、無数の攻撃が一斉に降りかかる。
動かない何かを守るという状況なら、ひとつの上位の魔法よりも、この場では有効に想えた。
「いくよ!」
ーーかくかくしかじか‥‥‥
「ーー!!!」
一斉にさまざまな魔法が、一点に向かい放たれる‥‥‥
ーーしーん。
「‥‥‥消えた」
「確かに放った感覚はあった‥‥‥どうなってるの‥‥‥」
わたしも確実に、魔法を唱え放った。
皆の魔法が、あのスライムに向かうのも目にした。
でも、途中その魔法が静かに消えた。
「諸君は、魔法を正しく理解しているのか?」
火を使えば、火の魔法。
わたしが、すぐ思い浮かぶのはこの程度‥‥‥
「何故、集中しているのだ?それは、魔法を発現させることか?それは、魔力を込めることか?それは‥‥‥」
無意識にただやっていたことを問われる。
わたしは、何に集中して魔法を唱えているのか‥‥‥
「今のは、魔法を持続させる力を消した。まあ、魔力を分散させ、形を保てなくしたと言った方がいいか‥‥‥」
「マナ・ブレイク」‥‥‥低位の魔法を無効化するスキル。
ヒルデ将軍がこれを持っている限り、絶対に届かない。
「低位の魔法ではダメだ!消される!」
知っている知識で叫ぶ者が出る。
皆思い出したかのようにハッとする。
「フッ‥‥‥」
◇
中位の魔法は、この場に居るものなら扱える。
むしろ、その先に上位魔法がある。
ふるいにかけられる際、試験で問われた内容だ。
教官はそれを確認したいのかと。
ーーかくかくしかじか‥‥‥
また、皆の詠唱が始まる。
わたしも合わせて唱える。
「ーー!!!」
さっきよりも、強い魔法が一斉に降りかかる。
ーーしーん。
「‥‥‥どうして」
自信を失い崩れる者が出る。
これまでの努力が無であったように‥‥‥
ーーパチン!
ヒルデ教官が指を鳴らすと、周囲の音が消える‥‥‥
「マインド・シェア」
声が脳に直接届く。
これは、発動した者の心の声が、ある一定の距離までの者に届く技。
「マナ・ブレイクだ」
「魔法とは、我々が持つマナの集合体によって、想いが具現化したもの」
「それは、無数の糸のようなもので繋がっている。その糸が切れると魔法は散り、消えてしまう」
わたしも、幼き頃教えてもらった気がする。
でも、感覚で魔法を発動させられた。
以来、その仕組みを正しく理解するのをやめた。
だから、それとこれがどう繋がるのかわからない‥‥‥
「元来、マナ・ブレイクは、低位の魔法を無効化するものだと思われていた。だが、わたしはそうは思わない。マナを繋ぐ力が弱いと解除されるという発見をした」
「低位の魔法を時間をかけ丁寧に磨き、中位、上位へと成長していくものだ。その過程で先人たちはマナを繋ぐ力を高めていた。だが、昨今、より早く上位の魔法を身に着けることを目標としてきたため、ここが見落とされている」
「諸君らの中で、上位魔法が取得できない者がいるだろう。それは、マナを繋ぐ力が不足しているからだ。だから、再現できない」
意識してできない壁に出会った時。
無意識で出来ることを疑い考える。
魔法に対する向き合い方が、あまりにも違いすぎた。
◇
ーーパチン!
「なぞったものを磨けば、詠唱など必要でなくなる。わたしが詠唱するときは、本当に必要な時だけだ」
「ごくり‥‥‥」
「魔法とは、その者が抱く魂の叫び‥‥‥」
ーーギュッ。ググッ。
ヒルデ教官は、強く拳を握っている。
この瞬間、何かをわたしたちに伝えようと真剣なのだと‥‥‥
その拳から、熱いものを感じる。
「一度しか見せぬ、その目に焼き付けよ!」
ーーバリバリ!ビリビリ!グゴゴゴ!カタカタ‥‥‥
高らかな声とともに紫電が弾け、巨大な魔法陣が出現する。
大地が揺れ、野生の動物たちが逃げ騒ぐ‥‥
一緒に逃げたくなる気持ちが溢れる。
これが、「魔法戦車」と呼ばれる真の姿なのだと、皆の足元が震える。
この瞬間、この場で立っているだけで勝利のようにも‥‥‥
ヒルデ将軍は、遠方の山を見つめ、静かに目を閉じる。
ーーフゥー‥‥‥カッ!
「深淵を貫く一筋の閃光‥‥‥」
「来たれ!この身に宿りし傲慢なる正義の雷!」
「‥‥‥届かぬ数多の想いとともに、絶貌せよ!」
ーーキーン!‥‥‥
「カラミティ・ライトニング!(大災厄の聖なる雷)」
ーーピカッ!‥‥‥‥‥‥ジュッー‥‥‥
発動の際、まぶしすぎる光で目を閉じてしまった。
目を開けた時には、山の山頂が丸くえぐれ、雲が消えていた。
三日月のような山の形を確認した後、遅れて爆音が響く。
ーーズドーン!ゴゴゴ!‥‥‥
あまりの衝撃でわたしの背中に、嫌な汗が流れる。
「‥‥‥これが‥‥‥ヒルデ将軍の魔法‥‥‥」
◇
まだ、脚の震えが完全に止まらない。
ヒルデ教官は、やさしい瞳をしていた。
少し嬉しそうな表情にも見える‥‥‥
今の教官が何を考えているのかわからない。
かすかに聞こえるくらいで、わたしたちにそっと呟く。
「こんなことが‥‥‥奇跡だ」
わたしたちは、「大災厄の魔法」を目の当たりしていた。
この場から、逃げなかっただけでも、自分を勇敢だと褒めたい。
あの不安の中、全員がこの場に残った。
この経験は大きな自信になったと思える。
もしかして、わたしたちのこの姿を見て‥‥‥
「諸君!あれを見たまえ!」
教官の指の先を全員が見つめる。
気づけば夕暮れになっていた。
「イメージ通り!夕暮れの太陽と、三日月の山が完全にあわさっている!」
目をキラキラとさせて感動しておられる。
確かにこの光景は、あまりにも奇跡すぎた。
その先には、「三日月の山が太陽を支えている絵」が出来ていた。
でも、あの魔法の衝撃の後で、この感動がイマイチ共感できなくなっている‥‥‥
「なんという芸術的な光景‥‥‥魔法を磨いてきた甲斐があったというものだ!」
「‥‥‥」
「早速、この感動を報告書に書こう!今日の訓練はここまでだ!」
ーーテクテク♪‥‥‥むにゅ。ササッ‥‥‥
スライムのぬいぐるみを抱きかかえ、気分良くお帰りになられた。
教官の報告書により、後にこの場所は、太陽と月が仲良くなれるという観光名所となる。
ほんの少し「先を生きている」畏怖。
これは、まだ訓練初日の出来事にすぎない。
ーーつづく。
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