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流離の冒険者 ♯5 底知れぬ畏怖 【連載小説】(ファンタジー小説)

【あらすじ】

その日の夜、全身に重みを感じた。
ヒルデ教官との戦闘訓練で、疲れ果てていた。

明日から、これが続くと思うと眠れない。
しかし、眠らないと魔力が回復しない。

どこかに意識はあるものの、身体が動かない。
そんな風に感じていると、気がつけば朝になっていた。

流離の冒険者 ♯5 底知れぬ畏怖【あらすじ】

ーーチュンチュン♪

小鳥たちが鳴いている、心地の良い朝。

この世の終わりのような光景を見た昨日を乗り越え、いつものように士官学校に向かう。

だが、疲労だけではない脚の重みを感じる。
昨日の訓練から、今見えている景色がまるで違う。

ーーざわざわ‥‥‥

建物に入る前の掲示板に、人が集まっている。

各担当教官からの連絡事項がある時、そこに張り紙が出されることになっている。

何か重要な知らせがあるのだろう。

「ラッキー!今日は、午後の戦闘訓練が休みだってよ!」

「じゃあ、午後からは自由時間ってこと!?」

別のクラスの者たちが、いきいきとしている。
担当の教官に急用ができ、休みになったようなのだ。

もちろん、わたしには関係のないことだとすぐにわかった。

わたしの仲間は‥‥‥

「‥‥‥嘘だよな?昨日の訓練の後だぞ!」

「どうして‥‥‥こんなことって‥‥‥」

反対の掲示板に人が集まっている。
明らかに、さっきの者たちと雰囲気が違う。

ともに、あの死線を見てきた者たちの姿だとすぐにわかった。
何かに怯えているようだ。

わたしは、ゆっくりその方へ向かう。

『屋外訓練場が空いたため、午後からの講義を変更し、戦闘訓練を行う。以上。ヒルデ・バレット』

ーードサッ‥‥‥ドスッ‥‥‥

後からこれを見た者が手荷物を落とし、膝から崩れ落ちた。

「‥‥‥」

言葉を失うほどのショックを受けている。

この変更の理由は、すぐに察した。
反対側にいるこの者たちによるものであると。

皆が一斉に無言の視線を送ると、散り散りになっていった。

チームとしてまとまってきたと感じた瞬間だった。

ーーザッザッザッ‥‥‥ジリジリ‥‥‥コクコク‥‥‥

訓練の時間が近づいていた。
暑い日差しの中、始まりよりも少し早く、みんな昨日のここに集まっていた。

念入りに警戒をしている。
だが、あたりを見渡してもヒルデ教官の姿は見えない。

遅れてひとりやってきた。

「おっ、みんな早いな。俺さ、今日初めてこの訓練するんだ。よろしくな!」

「えっ‥‥‥うそ‥‥‥」

目の前の衝撃に全員の顔が青ざめる。手で口を覆う者もいる。
冗談にしては、笑えない。

いや、確かにこの者は訓練をしていないとも‥‥‥

こんなことになってしまうのかと。
知らないことが、幸か不幸か。

この者は‥‥‥

最初にヒルデ教官に飛ばされた者である。

「昨日、寝坊してしまったみたいでな。起きたら朝だったんだよなー」

だから、こんなにも元気なのかと、皆少しあきれている。

「おっ、あのぬいぐるみは何だ?」

「えっ、ちょっと‥‥‥」

仲間の制止を振り切り、玉座に君臨するスライムに向かって歩いていく。
踏み込んではいけないような聖域に近づき、手を出そうとしたその時。

ーーゴゴゴ!!ドドドドド!!

遠くから、物凄い勢いで何かがこちらに向かってくる。
砂煙を立てる、人影が見えた。

ーーシュッ!

見えていた姿が、一瞬消えた‥‥‥

「わたしのスラピーちゃんに触るなー!!!」

声とともに姿が現れ、ゆっくりと時が流れる。

この瞬間に、はっきりと理解する。
あの者が最初に吹き飛ばされたトリック。

あれは、ヒルデ教官の‥‥‥

単なる物理攻撃であったと。

目にもとまらぬ、魂の蹴りが直撃する。

ーーバーン!ズドドドーン!コロコロ‥‥‥バタッ‥‥‥

「うっー!!‥‥‥」

教官の強さは、あの魔法だけではなかった。
そのことに皆、呆然とする。

前回の訓練が急に恐ろしく感じる。
ヒルデ教官はずっとこうだった。

私たちが魔法を放たない限り、魔法で反撃をしない。

でも、それは魔法に限ると言われていたのだと。
迂闊に近づいていたら、この攻撃が飛んできたのだと思うと震える。

いや、その警告は一番最初に伝えていたにも関わらず、誰も見えていなかったのだと。

今回はわかりやすく、注意を集めていたようにも‥‥‥

「ふぅー」

あれだけの一連の動きの中、教官の呼吸に乱れが一切ない。
スラピーちゃんは、女傑将軍の両腕にやさしく抱えられる。

ーーむにゅ‥‥‥

「邪に触れられるところであった。このむにゅむみゅに付いた砂埃が気になる‥‥‥帰ってアワアワにしてあげねば‥‥‥」

やさしいまなざしも束の間、鋭い目つきでこちらを見渡している。

「お前たち、よく覚えておけ。命を守るとはこういうことだ」

「ごくり‥‥‥」

こんな方が味方であるという安心感と、絶対に敵に回したくないという気持ちで困惑する。

「あの‥‥‥」

心配そうに、飛ばされた先を見つめている者たちがいる。

近接による渾身の一撃‥‥‥
あれを喰らったと想像するだけで、呼吸が早くなる。

教官は大時計の方を見ていた。
時間を気にしておられる様子。

「仕方あるまい。おい、あの愚か者をここに運んで来い!」

ーーダッダッ‥‥‥

教官の命を受けて数人がすぐに、走っていった。
運ばれてきた姿を見ると、ピヨピヨとのびていた。

ヒルデ教官が、近くにしゃがみ見つめている。

「ひよっこが‥‥‥」

手際よく、顔と手を近づけ、身体に異常がないか確認されている。
さっと立ち上がり、手のひらを寝ている顔に向けている。

ーーザバーン‥‥‥ザバーン‥‥‥

無慈悲なほどに、顔に向け無言で水魔法をかけていた。
この場合、治癒魔法なのではないかと心の中で思う。

しかし、余計なことを口にするほどの知恵も勇気もない。

ただ、これで大丈夫なのかと不安だけがはしる‥‥‥

「‥‥‥ぶはっ!」

すぐに教官が声をかける。

「立て」

もはや、やさしいのか冷たいのかわからない。

座るのが精いっぱいの様子だ。
状況がつかめず、困惑している様子を見て、ヒルデ教官はそっと手を差し出される。

ーーギギギ‥‥‥

片手で、頭を鷲掴みにして立たせていた。

どこに、そんな力があるのかと静かに絶貌ぜつぼうする。

「これでわかったか?」

こちらを振り向き問われる。

「‥‥‥」

何を問われているのかがわからない。
皆、お互いの顔を伺っている。

「ここまで見て、わからないのか。ならば教えてやる‥‥‥」

「‥‥‥」

また、とてつもないものを魅せられるのではないかと身構える。
山の次は、何を消し去られるのかと。

わたしたちは、衝撃に備える。

ーーむにゅ‥‥‥

「ふぅー」

片手で抱えていた、スラピーちゃんを両腕で抱えられている。

一呼吸おいて、教官が静かにゆっくりと皆に向かって告げる。


「わたしは、魔法が専門ではない」


「わたしの主たる上位職ジョブは‥‥‥」


「レンジャーだ」


ーーつづく。


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