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妙齢女性30人が一緒にお化粧したら世界が平和になった話

私は、化粧が苦手だ。

だって、お化粧はクリエイティブでイノベーティブでエモーショナルだから。創造性、それは私が最も苦手とする領域。

多くの女性にとって、お化粧は歯磨きと同じくらい当たり前の行為だが、あれは「顔という無地のキャンバスに唯一無二の美しい絵を描く創造的偉業」であることを忘れてはならない。

絵の具の配色はもちろん、筆の持ち方一つで全然違う絵になってしまうのが、お化粧の素晴らしいところでもあり、恐ろしいところでもある。

スペインの教会で修復されたキリスト画がどう見てもおさるさんだった大事件があったではないか。
我々の顔面は、常に同様のリスクに晒されている。

何の気なしに雑誌をめくれば、彼らは「春メイクのトレンドカラーはこれ」「夏の紫外線に負けない美肌メイク術」「深みカラーで魅せる大人の秋メイク」「ホリデーシーズンを彩る冬コスメ特集」など、季節ごとに化粧道具を全て刷新するよう脅してくる。

お願いだから、化粧にまで季節感を持ち込まないでほしい。

私は生まれてこの方日本に住み続けているが、化粧に対するマインドは「永久凍土の国」在住。つまり、私の化粧は年がら年中変わらない。

年中どころか、おそらく二十年くらい変わっていない。雑誌『セブンティーン』で田中美保のアヒル口を真似していた頃から、記憶もメイク知識も止まったまま。

いや、正確には、一度だけアップデートしようと試みたことがあった。
コロナ禍でどこにも行けない日々に嫌気がさし、オンラインで何か気の紛れるコンテンツを探す中で「オンラインのメイクレッスン」を受けたのだ。

メイクアップアーティストの方と一対一でzoomを繋ぎ、ブラシはこう使えとか、このアイシャドウがおすすめだとか、細かく教えていただくのだ。

総じて大変ためになったが、唯一の心残りはパーソナルカラーについてだった。パーソナルカラーは肌や瞳の色など、その人が生まれ持った体の色素と調和する色を見つける診断で、メイクの色とパーソナルカラーは密接に関連しているらしい。

しかし当時私がzoomを繋げていた部屋は暖色系のライトしかなく、かつ夜で画質も悪かったため、先生は「ナミキ様のパーソナルカラーですが…うーん。たぶん、イエローベース…かな…?」と、すべての歯に水菜が挟まったくらいの歯切れの悪さで診断してくれたのだった。

だからパーソナルカラーには納得感がないまま、先生に言われた通りの化粧道具を言われた通りに使うだけ。
とっくに飽きているのに毎日同じ絵を同じように描いている、そんな日々を過ごしていた。

アラフォーのファッション情報源は区民会報

そんなある日のこと。
私はポストに届いた区民会報を読んでいた。

二十代の頃はノールックでごみ箱直行便だった区民会報だが、出産後は子連れにぴったりのイベントが時折掲載されるため、毎回ちらりと目を通すようになった。

そこで、たまたま目に留まったのが「パーソナルカラー講座」。

へえ、区民会報にもこんな講座が掲載されているんだと詳細を見ると、パーソナルカラー診断から骨格診断まで、合計六時間の講座。結構しっかりやるな。しかも、受講料はたったの千円。

表参道の隠れ家サロンで行われているようなマンツーマン講座であれば、普通に渋沢(旧諭吉)が飛ぶ内容。
それが、区民会報経由なら千円だと!これはお得すぎる。

私の二十年変わらないメイクも少しはアップデートできるかもしれない。
ちょっくら申し込んでみるか。

そんな軽い気持ちで臨んだあの場で、あれほどの感動的な体験ができるなんて。当時の私にはそんなこと、知る由もなかった。

「色」を取り戻した私たち

講座の当日は木枯らしが頬をたたき、思わず首をすぼめるような寒い日だった。会場となる市民活動センターに到着すると、すでに多くの参加者が着座していた。

六人で一グループで、グループは全部で五つ。参加者は三十名程度。
席についてぐるりと見渡すと、子育て中と見受けられる三十代ママからリタイアされたであろう六十代までと年齢層は幅広かったが、ボリュームゾーンは四十代だろうか。多分二十代はひとりもいない。大学生や新社会人が区民会報を見るとは思えないから、当然か。

申し込み時点で「当日はメイクを薄めにして来てください」というお触れがあったため、私を含めた全員がすっぴん状態。

人のことを言えたたちではないのは重々承知のうえで、すっぴんの妙齢女性が三十人そろうと、なかなかに重苦しい雰囲気だった。

全員顔色が悪く、肌ツヤがなく、唇は土気色。部屋の空気までが「なんらかの疲れ」に浸食されていた。

講義が始まると、参加者は皆うなずきながらメモを取る。人の印象は九十パーセントが視覚に依存するとか、第一印象はたったの七秒で決まるとか、興味深い内容だった。

その後、「これから実技をします」と講師が声をかけると、各グループに先生が一人ずつ付いてくださり、参加者は様々なカラーの布をあてられる。

「このカラーの布をあてると顔色がよく見えますね」「逆にこの色だと、どっと疲れてみえますね」「総合すると、あなたは"イエローベースの春"ですね」という要領で、一人ひとりパーソナルカラーを診断してもらう。

その後、診断結果に合わせたチークとリップを先生がその場で選び、参加者に化粧をしてくれるのだ。

私の番が来て布をあてられると、他の参加者からも「あら~ナミキさんこの色似合う!」「逆にこっちだと死人みたいよ」「そのリップつけると上戸彩みたい!」という感じで、おばさんたちは盛り上がる盛り上がる。私もテンションが上がる上がる。

そして確かに先生の言う通り、「合わない」とされる色の布をあてられた人の印象はなんとなく血色が悪く見えるし、逆に「合う」ものだと顔色がパッと明るくなる感じがした。

色ひとつで、こんなに顔色って変わるのか。

でも、私が何よりも驚いたのは、おばさまたちの様子だった。

私含めほとんどの人が、自分に合うとされない色の化粧道具を使っていることが発覚。娘の化粧道具のおさがりを適当に使っていたというおばさまは、似合うとされるリップを付けただけで血色がよくなり、目の輝きや髪の毛のツヤまであるように見えた。え、別人じゃん。

そして似合う化粧を施されると、鏡の中にいる自分の口角が不思議と上がる。チークやリップひとつで、こんなに前向きな気持ちになれるのかと思うほど、皆笑顔になっていく。

この過程は、色を持たない我々が、個々に似合う色を見つけて自信を取り戻していく、いわばセラピーだった。

我々世代は、かつてのように「流行最先端のオシャレ」や「"可愛いね"と言ってもらうためのカレ好みのお化粧」なんて、もうしない。

逆に「いい年して色気づいたと揶揄されるかも」とか「若造りに必死だと思われるかも」とか、他人からの評価に怯えて自分の心を押入れに閉じ込める必要も、ない。

我々にとってのこれからの化粧は、自分が気分良く、楽しく生きていくためのライフハックである。

だから私は、「私の、私による、私のための化粧」をする。

そう思ったら、なんだか新しいコスメを探すのも楽しくなりそうだ。
そんな風に思わせてくれた千円講座、本当にありがとう。個人的には百万円の価値がある講座だった。

そして何より素晴らしかったのは、どのおばさまも互いに似合う色を褒めて和やかな雰囲気をつくり、終了後は先生方に丁寧にお礼をし、互いに「お疲れ様でした」と労いあったのに。

誰一人「お茶していきましょう」と誘うわけでもなく、LINEを交換するわけでもなく、

「それではごめんください」と言って各自の世界にさっさと帰って行ったところ

最高!!!


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