クリエイター向けに作っていた『FitCree』が終わって、それでも残った問い。
2026年5月11日の23時59分、FitCreeのサービス提供は正式に終了しました。
事前登録してくれた方々へのお知らせも、CEOから出ています。私はそれを、書いた側ではなく、受け取る側として読みました。
私は、FitCreeのCDO(Chief Design Officer)として、サービスのデザイン面に責任を持つ立場で1年ほど関わってきました。長くもなく、短くもない時間。それでも自分の中では、確かに濃い時間だったと思っています。
公式に書かれた終了の理由は、ここ数か月の生成AIの急速な発展により企業側の制作体制や発注行動が大きく変化していること。マッチングプラットフォームに対する需要を、当初想定していたよりも慎重に見極める必要が出てきたこと。
これは事実だし、CEOらしい誠実な文章だなと思いました。
ただ私は、CDOとして関わってきた立場から、もう少し別の角度でこの「終わり」を書いておきたいなと思っています。
そもそも、なぜ作ろうとしたのか
FitCreeは、「クリエイターの『稼げない』を世界から無くす」 というビジョンから始まったサービスでした。
詳しい原体験は以前のnoteに書いたので深追いはしませんが、私は10年以上バンドマンをやっていて、それなりに本気で「音楽で食べていきたい」と思っていた時期があります。
ライブをすれば赤字、CDを出しても赤字。情熱と体力がいくらあっても、収益化と継続はまったく別物でした。。。
その後Web制作会社でコーダー→ディレクターを経て独立し、並行してBULLETISという2人組のクリエイティブチームを続けてきましたが、ずっと同じ感覚がありました。
良いものを作っているクリエイターが、ちゃんと評価されて、続けていける世界。 それは、どうやったら作れるんだろうか。
FitCreeは、その問いに対する一つの答えとして始まったサービスでした。CEOが別の角度から同じ問題を考えていて、そこに合流するかたちで参加した、というのが正直なところです。
FitCree設立のご報告を書いたとき、私はまだ独立する前の会社員でした。それから1年。会社を辞め、子どもが生まれ、いろいろなことが同時並行で動いていたな、と振り返って思います。
CDOとして、やっていたこと
CDOとして自分が手を動かしていたのは、大きく分けて2つ。
1. FitCreeサービス自体のデザイン
最初はFigmaで作っていました。途中からCursor、Google AntigravityといったAIエディタに乗り換え、最後はClaude Codeで画面そのものをデザインしていく、という1年でした。
Cursorを使い始めたあたりから作成スピードが目に見えて変わったのを覚えています。Claude Codeを使い始めた頃には、Figmaでは絶対に出せないスピード感で、画面を動作込みで作っていた感覚があります。VercelとGitも繋いでいたので、FitCreeメンバーであれば誰でもWEB上から最新のデザインを見られる状態にしてあった。
ただ、「AIに言えばそれなりのものが出てくる時代」だからこそ、UIをただ並べるだけのデザインにはしたくなかった。参考を集めたり、実際に使うユーザーのUXや、その後のサービスの未来やユーザーの課題解決までを見据えて、それなりに試行錯誤して作っていたつもりです。
そして、これは自分がWebディレクター出身であるがゆえなのですが、見えないところにも目を向けていました。divをただ並べるのではなくちゃんとしたマークアップで書く、ホバー時のアニメーション、クリック時の挙動――そういう細部にも妥協したくなかった。Webサービスとして人に出す以上、セマンティックやアクセシビリティの部分も、抜け目なくやりたかったし、その熱意をメンバーにも見せたかったから。
けれど、デザイン環境から開発環境(開発は別の方が担当)に渡った時、それらの作り込みがほぼ失われていたり、デザインと違う実装になっていたりした。「無駄」とは言いたくないけれど、それに近い感覚はある。個人的にはもう少し「丁寧」に作っていきたかったのですが、この差分をうまく埋められなかったのは、CDOとしての反省、というか、力のなさを感じる部分です。
それでも、Claude CodeのようなAIを使って画面そのものをデザインしていく経験は、これから別の現場でも間違いなく生きると思っています。
2. 公式サイト(STUDIO)の制作
公式サイトは、STUDIOで作りました。STUDIOは、BULLETISのサイトでも使っていて、別案件でも構築経験がある。なので、主に私がメインで作成・更新を担当していました。
事前登録、本登録、お知らせ、FAQ――FitCreeのいろんな入口になる場所なので、文言ひとつひとつ、それなりに試行錯誤しました。他のメンバーが書いてくれることもあって、ありがたくはあったんだけど、「いや、そうじゃないんだよな」と思うことも結構あって。。。私がなかなか動けなかったというのが一番の理由ですが、難しいですね。
ただ、いろいろやっていて改めて感じたのは、自分はサービスそのもののデザインより、こういう公式サイトでどう見せるか、どう窓口を作るか、という部分のほうが得意なんだろうな、ということ。 1年やってみて、自分の輪郭が少し見えた気がします。
並行して、本も読んだし、勉強した
FitCreeをやっていた1年、今まで読まなかった本を読んだり、今まで見なかったような記事を見たりと、学びも多かったなと思います。
2025年の読書ログにも書きましたが、「闘うための武器を磨く」のあたりに並んでいる本に加えて、リストに載せていないものを足すと、たぶんその倍くらい。FitCreeのためでもあったし、BULLETISのほうでも起業を考えていた時期だったので、せっかくだから読んでおこうか、という気持ちもありました。
読んでみて、「サービスを作るとはなんなのか」ということは、それなりに分かった気がします。と同時に、痛感したのは「普通に難しいな」ということ・・・(いい表現が見つからないが、ホント「普通に」「至極妥当に」難しい)
ただ結局のところ、ブルーオーシャンを見つけるか、椅子取りゲームに勝つかしかないんじゃないかって。
サービスを出して、ユーザーの反応を見ながら少しずつ改善してPMFを目指す――というよくあるスタートアップの動き方をしたところで、市場の構造として難しい場所、というのは確かに存在する。
そしてもう一つ、繰り返し考えていたのは、いまのAI時代、不完全な状態でサービスを出したところで、誰も見ない、ということでした。
たぶん一昔前なら、最低限のMVPを出してユーザーの反応を見る、というやり方が「正解」だったはずなんですよね。けれど、AIで誰でも一定のクオリティのものをすぐに作れる今、「動くのは当たり前」「体験が良くないと数秒で離脱される」時代に入ってきている。
少し作って、出して、反応を見て――という前提そのものが、たぶんもう変わってきている。1年かけて作ってフルローンチを目指す動き方は、今のスピード感だと、それ自体が時代に合っていない気もする。
このあたりを、本を読みながら、開発を進めながら、ずっと考えていました。3か月後にローンチできるかたちじゃないサービスを、それでも作り続ける意味って、なんだろう。 ――これが、後半の自分のなかでいちばん大きかった問いだったかもしれません。
それでも、終わった
公式に書かれたとおり、AIが大きな要因の一つ です。
これは、ある意味で皮肉でもあって。私たちは「AI時代だからこそクリエイターの価値を守りたい」と言ってサービスを作ろうとしていたのに、結局そのAIが、サービスが立つ土台のほうを揺らがせた。
クライアント側が、これまで外注していた制作の一部をAIで内製化していく流れ。マッチングプラットフォームに乗る「案件」自体が、構造として変わってきている。
これは恨み言ではなく、事実としてそう動いている。
ただ、CDOとして1年間関わってきた身として、AIだけが理由だとも思っていません。
開発を進める中で、私自身、サービスの品質ラインをどこに置くかについて、ずいぶん考え込んでいた時期がありました。クリエイターに見せても恥ずかしくない体験を、どこまで担保できるか。発信する以上、責任が発生する、ということ。
ようは、AIの話がなかったとしても、もう少し時間が必要だったかもしれないし、形を変える必要があったかもしれない。そういう手応えは、サービス開発を開始してから半年くらい経った頃だったか、内側にずっとありました。
このタイミングで一度立ち止まる、という選択。それを、私はわりと静かに受け止めています。
無理にやり続けないこともまた、誠実さの一つのかたちだと思う。
いま振り返って、思うこと
少し正直に書いておくと、FitCreeにかけた時間は、雑に計算すれば年間で300時間あるかないかでしょうか。
会社員を辞め、子どもが生まれ、独立後の仕事もあって、全体を均せば週5時間。月20時間。打ち合わせも含めて、年あたり300時間くらい。最初の数ヶ月はもっと使っていたけれど、後半はかなり波があった、というのが正直なところです。
使った時間そのものは、私はあまり気にしていません。すべて経験にはなったし、「何かを真面目に作る」ということに関して言えば、かけた時間は本質ではないと思っているから。
ただ、ひとりの「経営者(と呼べるものでもないけれど)」として見れば、その300時間で何も世に出せなかった、というのは、ある意味では「何にもならなかった」時間だった、とも言えます。
その間、BULLETISのほうにもっと時間を使えたかもしれないし、子どもや家族との時間にも、普段お仕事をくださっている方々にももっと返せていたかもしれない。
あのときFitCreeの開発を始めたのが正解だったかどうか、いまの自分にはまだ判断がつきません。ただ、このAIの速度は、さすがに1年前の自分には想像できなかった。それはきちんと書いておきたいなと思います。
そしてもう一つ、いま振り返って思うのは――「クリエイターの『稼げない』を世界から無くす」というビジョンのニュアンスが、少し違ったのかもしれない、ということです。
ポートフォリオ起点のサービスを作っても、結局のところ、自分の作品を文章や見せ方で伝えられるクリエイターは仕事につながっていって、ただ案件で作った画像を並べただけのクリエイターは埋もれていく、という構造そのものは、たぶん変わらない。前者だけが残る、という流れに手をつけられたわけではなかった。
もちろん、そこをサポートするサービスにするつもりではあったけれど、「サポートって、具体的にどうやるんだっけ」 というところまで、議論を広げる時間と体力が、自分にはなかった。
このあたりは、いまも自分のなかで宿題のように残っています。
それでも、残った問い
ただ、サービスは終わっても、起点になっていた問いはそのまま残っています。
クリエイターの「稼げない」「評価されない」「自信が持てない」を、当たり前にしない世界。
これはFitCreeというサービスが解決するはずだった話だけれど、FitCreeが終わっただけで、問題が消えたわけではない。むしろ、AIによってコンテンツが大量に生まれていく時代だからこそ、人が時間と感性を注いで作ったもの の意味は、より際立っていくはずだと思っています。
去年、自分はクラウドファンディングにも挑戦しました(当時のnote)。びっくりするくらい目を向いてもらえなかったのですが、あのとき書いた「クリエイターが創った良いモノが、埋もれることなくチャンスに変わる世界」という言葉は、いまも自分のなかに残っています。
たぶん、サービスの形が正解じゃなかっただけで、問い自体は、まだ自分のなかで生きている。
区切りとして
サービスが一つ終わるのは、たぶん「失敗」ではなくて、「区切り」なんだと思います。
私はこれからもBULLETISや個人事業主としての仕事を通じて、クリエイティブの現場にいます。FitCreeが解こうとしていた問いは、これからは別のかたちで、自分のなかで考え続けることになる。
サービスとしての形は終わっても、考えてきたことは、ちゃんと自分の中に積まれている。そう感じています。
事前登録してくださった方、応援してくださった方、本当にありがとうございました。
そしてCEOをはじめとするFitCreeのメンバーへ。一緒に考えてきた時間そのものは、私にとっては財産でした。
まだ答えは出ていません。それでも、しばらく考えていたいなと思っています。
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