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第30回 毎月短歌 【テーマ詠部門:甘酸っぱい】選評結果 谷たにし選

画像を見て口が酸っぱくなったそこのあなた!
ようこそ、毎月短歌の世界へ!

…なんか怪しい勧誘みたいなので、この辺りにしてオープニングトークをします。


受験シーズンですね。共通テストも終わり、これからは国公立大学2次試験や私立大学の試験が待っています。国家資格試験ももうすぐです。

4年前に国家試験を受験したとき、会場が他県だったこともあり、前泊することになりました。
それこそ人生のターニングポイントとなるような大きな試験です、街全体の空気がどこか静かで緊張していたように記憶していますが、単純に僕自身の緊張を街のせいにしたかったのでしょう。

試験前日の夜、どうやら同級生はシャワーを手短に済ませて最終確認をしていたみたいです。僕にはそんな情報は一切入っていませんでした。
体調こそ成績であると信じていた僕は、前夜にゆったりと大浴場で温泉に浸かり、会場の地元名物のおうどんを地元であろうお爺さんの隣の席で楽しんでおりました。いまだに親は、人生の大勝負のときに人生を謳歌していた僕のこのエピソードが好みのようです。

そんな僕でもギリギリ試験に受かるのですから、今受験に挑もうとする皆さん、やりすぎなくらい整えてください。学生じゃないよ、という歌人の皆さまにおいても、この毎月短歌は毎月受験シーズンのようなものですから。
無理のない範囲で、でも本気で、戦っていただければ幸いです。
僕も拙い選評ですが頑張っていきます。
温泉も入ります。

そんなこんなで皆さまこんばんは、谷たにしと申します。
今月は毎月短歌も2つ、年間自選2025もあるので選評祭りです。読むのに飽き飽きするかもしれませんが、あなたの一首がどこかに見つかるかもしれませんので根気強くお付き合いください。


この記事では毎月短歌30【テーマ詠部門:甘酸っぱい】の選評結果を発表致します。


選評に際しましてはお名前を伏せた状態で選びましたので、同じ方が複数回選ばれることがありますがご容赦ください。

《選評結果の内容》:102首
・金のたにし賞(特選)  1首
・銀のたにし賞(入選)  1首
・銅のたにし賞(佳作)  1首
+ もうすぐたにし賞(今月のスポットライト)

Xのスペース( 21:30〜)の方でも、ラジオ感覚で毎月短歌の選評結果やその他感想を放送しております。お時間が合う方は是非。

※アーカイブも毎回残してありますので、過去の放送は「#短歌のきもち」or「#谷スペ」にてお探しください。



記事の中で★が付いているお歌はスペース内で扱わせて頂きますが、今回はおそらく金のたにし賞だけになってしまいそうです。

それでは、第30回毎月短歌【テーマ詠部門:甘酸っぱい】谷たにし選の結果発表です!

https://twitter.com/i/spaces/1ypKdqkWVWyGW


テーマ:「甘酸っぱい」について

お題が難しすぎましたね。出詠数がいつもの半数弱になっている要因のひとつだと思います。1月は全員忙しいというのもきっとありますよね。

今回のような難しいお題のときには、まずそも挑戦すること自体に意味があるのだと思います。仮に満足した歌ができてなかったとしても何かしらの脚力は付いているはずです。

甘酸っぱいと聞いて思い浮かぶのは、ほぼほぼ柑橘系でしょうか。それがみかんであれ、レモンであれ、晩白柚であれ、グレープフルーツであれ。
比喩として柑橘系を選ぶことはそれはそれでいいと思うのですが、そこに「甘酸っぱい恋」をただなんの接着剤もなしに乗せてしまうのは勿体無いようにぼくは感じます。
甘酸っぱい恋をテーマにすること自体をありきたりだからすぐに否定するつもりはありません。
ただテーマから浮かんだ単語に引っ張られ、そこに自動的に連想された感情を乗せていくのは短歌としてはどこか単調になりやすいかなと思いました。

もうひとつの今回のお題が難問であった理由は、
柑橘系からの恋という鉄板から外そうと必死になりすぎて今までできていた短歌の基本形のようなものが崩れそうになるからです。

繰り返しになりますが、難しいお題でしたので僕ならサジを投げていたでしょう。このお題に向き合ったあなたには必ず見えない経験値が増えていると確信しています。


金のたにし賞(特選)🥇

リプトンのぬるんだ黄色三十秒先の未来も知りたくないよ/きいろい           ★

まず「甘酸っぱい」の物理的なワードとして柑橘系ではなくリプトンという紅茶の商品名を選んだ点がさすがです。なかなか紅茶から甘酸っぱいという要素を抽出できる人は少ないと思います。確かに茶葉の説明書きにも柑橘系の香りとか書いてありますし、フレーバーティーもありますね。

このお歌を金のたにし賞に選んだ最大の理由は、甘酸っぱさを「リプトン」だけで満たしたと慢心していないことに尽きます。第二句の「ぬるんだ」にも甘酸っぱさがしっかり感じられます。
甘酸っぱいというテーマが恋につながりやすいのは、酸いだけでも甘いだけでもない混ざり切った、境目のない状態という共通性があるからではないでしょうか。ティーバッグからゆっくりと抽出された成分が透明なお湯に徐々にもやもやと広がっていく様は、まるではじめは小さな想いだったものが音もなく静かに、でも確かに、大きく膨らんでいく初々しさを思わせます。

そんな想い(あえてなんの思いかは伏せます)を受けての下の句がまた憎いんですよね。もしかすると、思いの丈を伝えた直後の沈黙としての30秒かもしれません。でも、沈黙だから何もないわけではなくそこには緊張やらスッキリやら色々な脳内の激しい動きがあるはずです。ついつい「答えを早く教えてよ」みたいになりそうなものを、「知りたくないよ」という否定を選んだ点に技が光っています。繰り返しになりますが、甘酸っぱさとはある意味、相反するものの共存と解釈できそうです。そう思えば、想いを外へ放出したというアクションと、「知りたくないよ」という真逆のベクトルを持った本心が、主体さんという同一人物に内包されている。
「甘酸っぱい」とは単純に甘い+酸っぱいではなく、そこに「矛盾の共存」という要素も隠れていることを教えてくれた一首でした。

P.S. あとからお名前を拝見して思ったのですが、
伊達に「きいろく」ないですね。
傑作です。


銀のたにし賞(入選)🥈

最新のスイーツとして流行っても一口だけにかぎる酢豆腐/汐留ライス

ズバリぶっ飛んでいます。甘酸っぱさといえば酢豆腐だ!となる発想力に脱帽します(というか甘酸っぱいのかさえ分かりません)。

お恥ずかしながら酢豆腐とはどういったものか存じ上げなかったので、選評のときに調べました。
※このお歌に限らず、知らない単語については極力全て調べた上で読ませて頂いております。

「ゆかり」と砂糖で豆腐を漬ける、居酒屋メニューのようなものだそうで、最近はその甘酸っぱさからスイーツとしての地位も確立しつつあるようです。

このお歌に深い恋愛情緒は全くないと言い切ってもいいでしょう。なんなら単純に酢豆腐が口に合わなかっただけの話です。でもそれが頭に残るお歌になった理由ではないでしょうか。
第3句、第4句「はやっても」「一口だけに限る」に主体さんのメッセージがギュッと凝縮されており、短歌なのにブログ・エッセイを読んでいるような気持ちになりました。三十一文字という限られた制約でひとつのエッセイを読んだ気持ちになるならば、それはひとつの短歌の才能なのだと思います。そして、この記事を読んだあなたが酢豆腐なるものを一度食べてみようと思ったのならこの短歌の影響力は大きなものだと言えるでしょう。
酢豆腐情報をお持ちの方はお便りお待ちしております。



銅のたにし賞(佳作)🥉

酢の物の砂糖の量を知らなくてあちらこちらが滞る家/非常口ドット

甘酸っぱさとは「矛盾の内包」という面があるということは金のたにし賞で触れましたが、このお歌にも「矛盾ならでは」が感じ取れます。
下の句「あちらこちらが滞る家」から想像されるのは、主体さんが砂糖の量が分からなくて家族(母親?)に尋ねている様子、母親がそれに答えていることで他の人(例えば、兄弟)が母に話しかけられずまごついている様子…などでしょうか。
一見すると、滞っていると聞くと不便などのマイナスイメージがあり、実際に「なんで分からないの!」みたいな口論やストレスなども出てくるのかもしれません。

そして、そんな家族を俯瞰してみれば、あちらこちらに会話(やりとり)があふれていて、そもそも酢の物を作るのが母親ではないあたりにお手伝いをしている様子も感じられて、家族の営みそのものができている気がします。「滞る」と「家族としての生き方」という共存に甘酸っぱさをみました。



もうすぐたにし賞(本日のスポットライト)💡

惜しくも入賞には至らなかった最終候補のお歌コーナーですが、せっかくですので一言だけ書かせて頂きます!


背伸びして梅酒にしてみる先輩と後輩じゃない名前がほしい/ume

下の句「後輩じゃない名前がほしい」というストレートさにチャンカワイもビックリの甘酸っぱさです(チャンカワイ云々は気にしないでください)。上の句は区切れなのか、第三区の「先輩」にかかる修飾なのかで読み方が割れそうです。


セルフレジが混んでいたから悪いんだ君の指先冷たかったな/北乃銀猫

感情とは自発的に生まれるものではなく、非自己(外部)からの感情の原因が自分にぶつかってくることで生じるもの。ということを英語の授業で習いました(I'm surprisedが「びっくりした」という受動的な訳になる話)。
「悪いんだ」から感情の生まれ方が想像されました。


切り分けたショートケーキにささやかなお疲れさまを添えて差し出す/茶葉

愛とは彼氏彼女の関係だけではないことを再認識させられます。夫婦になっても、形は変わっても、変わらない想いは形を変えて現れるのですね。ちゃんとこの文を読めていますか、谷おまめ。


伝説の木の下にいて告白を毎年聞かされる地縛霊/汐留ライス

主体が人間じゃないからこそ、人間の甘酸っぱい感情がみえてきます。そして、甘酸っぱさは時に見てられないくらい「キツい」ときもあって、地縛霊に1票(何の?)。


きみが笑ってぼくも笑って平行に吊り合っていくケーキボックス/金井水月

味覚としての甘酸っぱさではなく、箱が平行になっていくという物理的な水平と主体さんと相手の思いが繋がって心情的な水平が重なっています。位置関係から甘酸っぱさを見出していた唯一のお歌でした。


お知らせ📢

毎月短歌だけではなく、今年は「自選短歌2025」という年間短歌の方も選者を務めさせて頂くことになりました。

結果については別途NOTEにて発表致します。
いつもの「金・銀・銅」とは異なるシステムで選ぼうと思っていますのでお楽しみに!
今月のスペースでは、自選短歌2025も触れたいと思います!

それでは、また短歌でお逢いしましょう。

2025.01.25
谷 たにし

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