窓の向こうの気配
空は青く、透き通るよう。
雲一つない寒空の下、太陽の光は煌めき、居間から見える駐車場の車がところどころ光っている。
これは、ある冬の晴れた朝のこと。
その日は、いつものように居間の見晴台で、背中をこんもりさせながら、猫は外を眺めていた。
シャルトリューズの瞳はぐっと見開かれ、黒目が縦に細く入った、ハンターの目をしている。
薄い耳をピンと立て、やや前のめりでじーっと外を見ていた猫が、視線を固定したまま、突如むくっと起き上がる。
「どしたん? なんかいたん?」
猫が何かを見つけたときの動き。
獲物から目を離さないように一点を見つめながら、ゆっくり、次いで階段をスタタタタっと滑るように降り、スッタタタットンッと炬燵の上を軽やかに通過して、外を見下ろせる掃き出し窓の定位置へ。
こういうときの猫は、驚くほど素早く、滑らかだ。
先っぽが雪のように白い両前足を綺麗に揃え、真っ白な胸毛をふぁさっと広げ、前方に目を据える姿は、凛々しく、美しい。
「何いてるん? 猫?」
あぁ、可愛いなぁ。
しみじみ見惚れながら、猫の隣に立ち、一緒に外を眺めてみる。
この地域はまだまだ田舎で、完全なおうち猫よりも、家で飼いながら外に出られるようにしている家が多い。
どこのおうちの猫かは知らないけれど、黒猫や白黒の猫が、ときどき我が家の周りを闊歩する。
艶やかな毛並み、たっぷりとした体躯は、野良猫とは程遠い。
今回は、白黒の猫だった。
遠目でよく分からないけれど、きりりとした顔つきで、貫録がある。
その猫が、じっとこちらを見つめている。
あ、目が合った……ような気がする。
ふと異変を感じて隣を振り向けば、猫がぶるぶると小刻みに震えていた。
「どうしたん? 大丈夫?」
ぶるぶる、ぶるぶる。
ぶるぶるぶるぶるぶる。
全身が小刻みに震え、長いふさふさの尻尾は大きく左右に振れている。
初めて見る光景に、思わず心配になる。
「大丈夫?」
「しんどくない?」
猫は外を凝視したまま。
……あれ?
もしかして、あのお外猫を見て、警戒してる?
白黒猫はもう何度も見たことがある。
我が家から見える、そう遠くない駐車場や庭で。
最初は、うちの子が熱心に見つめているだけだった。
猫はお外猫を見るたびに目をまんまるにして注視する。
そしてお外猫が動き出すと、その姿を家の中から追おうと、行方を予測して先回りするように、部屋から部屋へと猛ダッシュ。
ふわふわの毛をぼふぼふ揺らし、私の言葉なんて上の空。
ダダダダダッ、ズダダダダッ。
「待って待って、待ってぇええ!」
追いつくのに必死。
あまりの熱意に、てっきりお外猫に惹かれるのかと思っていた。
「猫も、兄弟ほしい?」
一人ぼっちじゃ寂しいかもと、私は自称デカ猫として、家にいるときは猫と行動をともにしている。
でも、他にも猫がいたほうがいいのだろうか。
これだけの愛を他の猫に注げる気はしない。
だから、未だにもうひと猫、という気にはなれない。
でも猫が寂しいのかもと思って、問いかけることは何度かあった。
だけど、今日の反応は今までとは全く違う。
ぷるぷる、ぷるぷる。
いまだ小刻みに震える猫。
ふわふわの柔らかい毛を先っぽまで揺らしながら、小刻みに震えている。
視線は固定。
私の声も届かないみたい。
初めて見る猫の様子に驚いたけれど……。
もしかして、警戒してる?
慌てて調べてみると、ストレスや恐怖でも震えるらしい。
そういえば、と思い出す。
数日前、座敷の掃き出し窓から猫と並んで外を眺めていたとき、悠然と歩く白黒猫が通りがかった。
そしてーーじっと、こちらを見つめたのだ。
真ん丸な目で、逃げもせず、私を見ているのかうちの子を見ているのか分からなかった。
視線はぶれることなく、真っ直ぐ注がれている。
うちの猫は、私の隣で白黒猫を見つめて固まったまま。
しばらく見つめあった気になった後、白黒猫はゆっくり、堂々と我が家の庭を横切って行った。
今もまた、あの白黒猫はじっとこちらを見つめている。
ぷるぷる震える猫に「大丈夫やで」と声をかける。
少しでも震えが収まればいいのに。
返事もせず、猫は視線を注いだまま震えるばかり。
やがて、白黒猫が去ると、猫はいつもの猫に戻った。
震えは収まり、名残惜しそうに白黒猫のいた場所を見つめた後、のっそりと動き出す。
震えたのはあの時だけ。
ただ、あれ以来、猫はお外猫を見つけると目をがっと見開き、ダダダダッと走り込んで、すたっと後ろ足で華麗に二本立ち。
窓に取り付けてある父お手製の木製柵に両手をかけ、白いひげもピンと立たせ、じっとお外猫を見つめる。
以前は、ただその姿を追いかけるだけだったのに、これまで以上に興奮するようになった。
何だったんだろう。
可愛くて。
心配で。
愛おしい。
謎だけが残る、
とってもとっても不思議な出来事だったのでした。
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