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秋風の茶座【カフェ浪漫主義20】

【カフェ浪漫主義】
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鎌倉も真昼は相変わらずの暑さだが、夕暮には海風山風のお陰でだいぶ涼しくなって来た。そろそろ書房の床の掛軸を秋物にしても良いだろう。

秋風の詩歌では幸いにも我家に石田波郷の名句の軸がある。

直筆句軸 石田波郷
古瀬戸徳利 江戸時代

亡き父祖が若い頃に石田波郷に師事していた事もあり、彼の句には私も深い思い入れがある。むろん私も俳句の初学はその父から受けたので、私は石田波郷の孫弟子とも言える訳だ。

吹き起る秋風鶴を歩ましむ

波郷

古い写真を見ると波郷は俳人には珍しいほどの美丈夫で、その句柄も端正さが際立つ。戦地で患い長い闘病生活の末に若くして亡くなった悲劇性も加わり、私のイメージでは最も美しき俳人として深く敬愛している。

この句の技術的に優れている点は「吹き起る」が無用の用となって、鶴が歩むから風が吹き起こるとも解釈できる所だろう。

波郷は加藤楸邨らと共に人間探究派という変な名称で呼ばれていたが、私はもっとシンプルに俳句における浪漫派だと思っている。

俳壇には浪漫派と言う分類は無いが、短歌の与謝野晶子らの明星やスバルが明らかに浪漫主義を打ち出していたので、俳人達はその対抗上ロマンとは言い難かったのかもしれない。

波郷の句軸に山取りの穂草や団栗を供え、戦後間も無い頃の龍泉窯青磁の蓋付きマグで当時はかなりハイカラだった冷珈琲を味わいながら亡父とその師を偲びたい。

日が傾き夕風の吹く頃になれば外に出て、野末の草上で波郷の小さく粗末な句集を味わおう。

病雁 初版 石田波郷

戦後間もなく出版された『病雁』は波郷の出征から罹病、内地送還までを詠んだ句集だ。物資不足のために小さく薄く紙質も悪いにも関わらず、私にとってはこの上なく美しい句集なのだ。

雁やのこるものみな美しき

波郷

この句集の巻頭には芭蕉の句「病雁の夜さむに落て旅ね哉」を引き、遠く故国を離れ出征して行く己が身と雁を対比させている。

亡父の話では戦後の闘病生活の中でも小康を得た時期の波郷の句会は、それは楽しく明るく真摯な物だったと聞く。

秋草の上を渺渺と吹きゆく風の中で当時の俳人達の貧しくも明るい句会を観想すれば、俳句文芸の恩恵は芭蕉の昔から今の我々にまで遍く及んでいる。

この最も美しき俳人の稀少な句集を初版で味わえる夕べは、一文芸の徒として至福の時だろう。

彼岸近くともなれば流石に暑さも和らぎ、朝夕には我が谷戸にも秋らしい清風が吹き渡る。ようやく炎昼時以外は、チェロやヴァイオリンなど秋を彩るにふさわしい弦楽器の音色が好ましく聴こえる気温となった。

清冽なる石田波郷の句集を読みながら聴くBGMは、涼風のような清澄な響きで秋の雅趣を呼ぶ2Cellosの"Benedictus"(ベネディクトゥス)だ。

2Cellosはその名の通りステファン・ハウザーとルカ・スーリッチ2人のチェリストによるデュオだ。クラシック系にはあまり見られないエフェクターを駆使したサウンドと工夫を凝らしたビジュアルプロモーションで人気を獲得し、サッカー最高峰の舞台であるヨーロッパチャンピオンズリーグの決勝戦でも演奏を披露した。ハウザー(Hauser)はソロの演奏家としてYoutubeでも精力的に活動しており、今週新しいアルバムもリリースしている。

彼らの活動の中で、最も美しい演奏となったのがこの「ベネディクトゥス」だ。アディエマスをプロデュースしたカール・ジェンキンスによる原曲はオーケストラと合唱団で録音されたものだったが、2Cellosはその合唱パートをチェロにアレンジしている。それによってハーモニーはより落ち着いたものになり、祝福(ベネディクトゥス)されるような神秘性を増している。

吹き始めた秋の涼風に自然の祝福を感じ、名句と秀演を味わえる好機を愛おしく思う。知られざるチェロの名曲は数多くあるので、この秋はそれらを存分に紹介していきたい。

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