英中折衷カフェ【カフェ浪漫主義32】
先週末の鎌倉は早くも春一番の荒東風が吹き渡り陽射しも暖かかった。この様子では寒椿に次いで寒梅が咲くのも早そうだ。
春一番の後はまた冴返り三寒四温の日々となるが、古壺に活けた玉椿に待春の想いを膨らませながら新着の春用の珈琲碗で一服を楽しんでいる。
あまり詳しくは知らないがアジアから中近東にかけては、それぞれの国で独自の紅茶や珈琲の文化が発達している。
インドやマレーシア辺りは英国文化の影響か、チャイやコーヒーに硬めのビスケットを浸して食べる習慣らしい。

メイソンズ カップ&ソーサー 英国19世紀末
私も貴族的なティー&ケーキは特別な日だけで、常々は鎌倉武士の伝統である質実剛健な煎茶と煎餅の方が好みだから、この英国やアジア圏の硬くて甘みの少ないビスケットと珈琲の取合わせは気に入った。
まずは向こうの伝統の形に従い19世紀末英国メイソンズ製のカップ&ソーサーで、日本でもポピュラーな英国マクビティ社のダイジェスティブ・ビスケットを試してみよう。
すると聞いていた通りパサついたビスケットが珈琲に浸す(ダンキング)と全く別格の美味さになり、これはこの食べ方を前提に作られた菓子だとわかる。
大多数の日本人はクッキーやケーキ等の元々甘くて柔らかい菓子を好むだろうが、食べ方が下品だと軽蔑せず試してみると、適度な熱さで生地やジャムが口の中でとろけて驚くほど味が変わる。
今でも英国では親しい間柄でダンキング・ビスケットの食べ比べを楽しむことがあるようだ。
紅茶党ならスパイスの効いたインドやマレーシア風のチャイやテタレ(スパイス入りミルクティー)を濃いめに淹れた物でも合うかもしれない。
また、季節の和菓子やショートケーキほど洗練されていない見た目も珈琲らしい野趣に通じ、徳川家康考案の湯漬けのような戦場食を思わせる無骨さも当地鎌倉にはぴったり合うのではないか。
一方で茶の本家中国も今では各国各地の長所を取り入れて、多種多彩な飲茶や珈琲の様式がある。

ブラスマグ 英国20世紀前期
陶淵明詩集 中華民国時代
さすが陸羽の茶経以来1300年も営々と茶文化の工夫を重ねて来た国だけあり、伝統の烏龍茶から日本の緑茶まで茶菓子も中華から洋菓子まで各種あるそうだ。
ただし鎌倉に来る中国人観光客達は、口を揃えて日本のコンビニ菓子の安さ美味さには遠く及ばないと言っている。
前述のビスケットを珈琲に浸して食べるには器は口が広めの碗形が良く、カフェオレボウルや抹茶碗が最適で次に半筒形の珈琲碗が良いだろう。
写真は、中国の古染付ティーボウルに、花入は英国の真鍮製ビアマグ、後ろはアジア全域で広く読まれている陶淵明詩集の民国版全4巻で、この詩書は私に取っても文人主義や隠遁思想の原点とも言える。
花器は銀や錫より暖色系の真鍮の方が春の花には合わせ易いが、業者の取扱い数は銀より遥かに少ないので花器食器とも真鍮物は見付けたら即買いだ。
これで卓上は古き良き英中折衷様式でまとまり、マグカップに投入れたヨーロッパ原産の春咲きの雛菊も生きるだろう。
中国民族楽器の大家・吴彤(ウートン)老師の楽曲は陶淵明や屈原の古詩を用いており、笙や塤(陶製オカリナ)といった伝統楽器の幽遠な演奏が特徴で、文人風の喫茶にもよく合う。
琵琶や哨吶など民族楽器のバリエーションも豊富だが、吴彤の嗄れつつ厚みのあるヴォーカルも際立っており、武侠ファンタジーに登場する長老のような出立ちが詩中の暮らしを想わせる。
漢詩では専ら酒が詠まれてきたが、陸羽以降は茶を詠む詩も多い。古詩や民俗音楽を活かした曲を聴きながら各地の様式で珈琲・紅茶を味わうだけでも、その土地に根ざした文化性や香りに深く感じ入ることができる。多彩な茶器やお茶請けを比べながら肌に合うものを選んでいく過程もまた楽しい。
春に向け我がカフェ浪漫主義では各国各時代の様式や道具を調べ、古今東西の器や卓飾りを集め、東夷の古都らしい珈琲様式を目指し研鑽を始めた。
禅文化や桃山茶陶の伝統、武家文化の幽玄なる詩歌水墨画、大正の鎌倉文士達の和洋折衷様式の暮らし、そして現代日本が世界に誇るコンビニ食と好条件は今こそ此処に揃った。いざ夢幻なる珈琲座の建立や如何に。
