氷織屋先生と白犬 5.全員死亡【創作大賞2024】
Room B REC 名郷 衣乃利
沢丸、賢いなぁ。すぐ気づくなんて。でももう手遅れなんだよね。ちょっと、なんだよ、なんで私を録画してんの。撮ってもしょうがないでしょ。消してよそれ。撮るなら皆を撮りなよ。こんなに死体があるなんて、人生で一度きりだよ。
関係ないけどさ。この計画を最初に聞いたときに、本当にこれを実現したらショックを受けるかと思ったけど、意外と冷静だったよ。あれなのかな。皆のことをよっぽど憎んでいたのかもね。私、クラスで伯伏さんを食べるって決まってから本当に皆を許せなかったもん。そもそも白犬って呼ぶのすら嫌だった。なんであんなに先生の言いなりだったわけ?
亮子に声をかけられて、本当に安心したもん。私が間違ってたんじゃないって。
じゃあ、せっかくだから秘密の話をしとこうかな。この動画も削除するよね。今日はクラスのお葬式だからね。私の家に伯伏さんを連れて帰ったとき、実はすごく落ち込んだことがあって。だからみんなは伯伏さんにいたずらしたりしてたって聞いたけど、私は悩み事を聞いてもらっていた。伯伏さんは最後まで私の話を聞いてくれて、笑顔で頭を優しくなでてくれたの。
なんでこんなことになっちゃったんだろうね。正直いうと普通に卒業したかった。ワラオバだって体育祭だって本当は楽しかった。皆と一緒に過ごした高校生活は輝いているって思ってた。氷織屋のせいだ。氷織屋が私たちを無茶苦茶にしたんだ。そうでしょ。もうこれだけしかいなくなっちゃった。
そうだ、本当に伯伏さんって無罪になるの? 心神耗弱だっけ。これだけの人数を殺しておいて大丈夫なのかな。私不安だからさ、伯伏さんが被害に遭ってる時の写真とか撮ってあるの。これ警察とかに見せればいいよね。私心配だもん。
あ、伯伏さん戻ってきた。大変だった? お疲れさ……
えっ
23:20
Room B REC
恐怖におののく男はソファの背後に逃げ込んだが、既に死んでいる女性の足につまずき転倒した。彼は手を血溜まりに突っ込んだが、それを気にかける様子もなく、ソファの背後に隠れるために移動した。壁とソファの間には、屍体が重なるように放置されていた。男は屍体の上に立ち、近づく暗い影に向かって叫んだ。
しかし、黒い影は男の声に動じることなく、徐々に近づいてきた。手に持ったナイフがディスコボールの光を反射していた。
さらに男は何度も叫んだ。どんな言葉を叫んでいるか自分でもわからないほどに。そして男が叫び疲れた時に、黒い影が俊敏に男へ近づいた。そして、他の屍と同様に首元にナイフを一突きされた。男は口を鯉のようにパクパクと動かしながら、死体の上で倒れた。黒い影は満足そうに男の太ももにナイフを突き立てた。男は苦悶の表情を浮かべた。そしてしばらくのたうち回った後、動かなくなった。
23:25
Room B REC 鳴鬼 舜貴
え?
嘘だろ、おい。
なんで白犬は衣乃利まで殺すんだよ。違うだろ。
俺を撮るのやめろよ、何してんだよ。
俺は仲間だよな。葛根! 浄見!
おい、待てよ。白犬を止めてくれよ。
仲間だろ。俺まで殺したら意味がわかんないだろ!
氷織屋への復讐じゃなかったのかよ!
おい!
23:30
Room B REC 浄見 亮子 映像には人の姿はなく、声だけが聞こえる。
ねえ、葛根くん。
葛根くんが告白してくれた日のこと覚えてる? 私嬉しかったんだよ。手紙って初めてもらったからドキドキしちゃって。私もあの時すでに葛根くんのことが好きだったから。なんでだったっけな。葛根くんが体育の授業の前に遊びでバレーボールやってたでしょ。あの時のサーブしている葛根くんがかっこよかったんだよね。
たったそれだけなんだけど。運命の人だって思ったんだよね。運命って推しのライブチケットより簡単に手に入るんだってびっくりした。
私一つ提案があるの。ここで終わりにしない?
だって全部白犬がやったことなんだから、私たちは関係ないでしょ。白犬はしゃべれないし、書けないし、私達のことがバレるわけないし。私考えたの。ここで白犬処理して二人で黙っておけば全てがなかったことになるの。完全犯罪でしょ。
先生は完全犯罪のためには、秘密が永久に漏れないために犯人も殺さなきゃって言ってたでしょ。一人で秘密を隠し通すことは難しいってことよね。でも、二人なら秘密は守り続けることができるの。
ううん。命が惜しいわけじゃないよ。氷織屋先生の思いもわかるし、葛根くんが望むならそれでいいって思ってる。でもね、また葛根くんと行ってない場所があるし、食べてないご飯もあるし、もっとエッチなこともしたいし、もっと話したいよ。
そう、そうなの。
ありがとう。葛根くん。
あ、0時過ぎたね。今日、卒業式だね。葛根くんは、どんな髪型する? かっこいいだろうな。
うん、うん。私も愛してる。
0:02
Room B REC 葛根安信
物事は一面で見たら、答えにたどり着けないって氷織屋先生があれほど言ってたでしょ。誰も答えにたどり着けないよ。しょうがないか。受験しないで大学行くつもりだったんだもんな、みんな。
先生は言ってたじゃないか。既成概念で物事を判断してはいけないと。
僕はずっと考えていたんだ。
なぜ複数の人間を本気で愛してはいけないのか。国によっては重婚だって合法だ。なのにこの国は違法だ。
これは、人間が本来持っている感情を無理矢理法律によって規制しているだけなのではと。
僕は、氷織屋先生も浄見も同じくらい本気で愛していた。
氷織屋先生は、完全犯罪を成し遂げることに自分の命を懸けた。僕は何度もそれは自殺だと反対した。でもそれを達成することが先生の本質なのだから、それを拒否したらそのことこそが自殺なのだといった。だから僕は、愛する先生が愛する姿のままでいて欲しいから納得した。そして僕たちは先生の希望通りに完全犯罪を遂行した。
しかし先生殺害の前日に気がついた。僕たちの方法にはまだ穴が残っている。この方法では全員無事に卒業するのは難しい。完全とは漏れがないことだ。先生の完全犯罪という願いが崩れてしまう。漏れのない方法を僕は思いついた。
全員普通に卒業すればいい。それは一人残らず全員死んでいること。
一部の生者がいてしまったら格差が出てしまい、普通の卒業にはならない。死んだ生徒と生き延びた生徒には、性質の違うかわいそうが与えられる。これは普通じゃない。普通というのは、皆平等に卒業することだ。
解体班と協力して、白犬を使って全員を殺害する。その後、白犬は解体班も処理したあと、僕は白犬を殺害する。最後に白犬のナイフで自分の頚動脈を切る。それで全てが終わる。これで氷織屋先生の望んだ完全犯罪は達成される。
でも浄見は、チャンスを上げようと思う。
僕を束縛しようとするなら終わりだけど。
さ、お葬式の始まり始まり。
20:00
Room A STOP
映像は止まっていた。
カラオケルームの壁に飾られているのはお葬式と書かれたポスター。床には首から血を流した死体が二体。津波が激しく岸壁に打ちつけるかのように壁に激しく血飛沫が飛んでいた。画面の中央で映像を撮影していたスマートフォンの電源スイッチに手を伸ばしている男がいる。彼の表情は何かを達成できたかのように、幸せそうな笑顔を浮かべている。
しかし、彼は自分の背後にクラスメイトが一人立っていることに気付いていなかった。
そして画像はゆっくりと暗くなっていった。
この作品は、事実を参考にしたフィクションです。
全て、実際の人物や団体とは関係ない映像です。
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