あと十六分(解答編)

「Mさん、この箱には何が入ってるんですか?」
「古古古古古米よ。あ、それも一緒に並べておいて」
「ももクロじゃないんですから、ココココ言わないでください」
 Aは倉庫の奥に大量に積まれた二メートル四方の段ボールの脇に青と白のツートンカラーの箱を置いた。
「ちゃんと縄で縛っといてね」
 箱は逃げないと思うが、王様とMの言う事は絶対だ。Aは持参していた縄で、青と白の箱を倉庫の柱に括りつけた。

「これで逃げないと思いますよ」
「ありがとう、これで終わりね。お疲れ様」
 気がつけば21時を過ぎていた。Aはようやく仕事を終えて、その場に座り込んだ。そしてポケットから一枚の紙を取り出した。
「Mさん、これ。さっきの箱に挟まってたんです」
「挟まってた?」
「挟まってたというか、なんというか。青と白の境目に刺さってたんです。紙を引き抜いたら、もう元に戻せなくて。紙が挟まる隙間もないのにおかしいんですよね」
「気持ち悪いわね。捨てちゃえば」
「でも、中身が気になるんですよ。ほら」

 AはMへ紙を渡すと、まるで名探偵のように流暢なペースで話し始めた。「さっきからずっと考えてるんですけど、わからないんですよね。いくつか候補があるんですけど」
「どのあたり?」
「『鼓動が早まる。』が怪しいと思うんです。この辺りから、文章の展開がゆっくりになるような気がして。それか、個人的には『あの夜、自分に向けた言葉〜』からかな。AIの文章って読点が多い印象じゃないんですか。それが増えたのと、体言止めと「──」もよく使うので、それが出てくるあたりが怪しいんですよ」
「ふーん。そうかしら」
「違いますかね。『あなたがやるって言ったんでしょ。できなかったら全てを終わらせるからね』とか『背後に立っている男が笑っている』も納豆を焼いた時くらいにぷんぷん匂うし、そもそも全部AIで書かせたというどんでん返し的な奴かもしれないかなとか」
「結局どこなのよ」
「どこなんでしょうね。全然わからないです。じゃあ直感で『言葉を続けようとした瞬間』にします!
「します!って私に言われても出題者じゃないし、突然ボールドにされても困るし」
 Mは紙を折りたたむと、Aのポケットに戻した。
「とはいえ、そんな推理力だから、あなたはAなのよ」
「え?」
「A。名前もないモブキャラ」
「じゃ、じゃあ答えわかるんですか?」
 Mは垂れている耳をピンと尖らせた。
「『なんでこんなことをしなくてはいけないのだ』までとりあえず書いて、やっぱり詰まって『この先の物語を千文字で書いて完結させてください。少しホラー仕立てで。必ずオチをつけてください』と入力したのよ。そこから急に物語に入っているでしょ」
「すごい、さすがMさん」
 AはMの推理を聞きながら、改めて紙に書かれている文章を読み直した。
「しかし、凄いですねAIって。人が書いたのかAIが書いたのかすぐにわからないんですから」
「あと五年もしたら、人が書いた文章とAIが書いた文章に差がなくなるわよ。私たちが読む文章のほとんどはAIが書いたものになるかもしれない。既に広告の写真はAIに置き換わってるからね」
「なんだか寂しいですね」
「これからの小説家は文章を書かない。AIに文章を書かせるのが主流になるのよ」
「秋田犬が書いた文章でAIが書いたー、みたいな文章だったら読むかもしれませんけど」
「そんな犬の惑星みたいな事が突然起きるわけないでしょ」
「だったら読みませんよ。AIが書いた文章なんて」
「そう思うでしょ。つまりAIが書いた小説を読ませるにはAIに書かせたことをばれないようすることが重要なのよ。そしてすぐその時代が来る」
「もう人間は小説家になれないのですか?」
「そんなことないわよ。AIは模倣と組み合わせしかできないからね。人間しかできない発想というのがあるから。物語の種になるような発想をしていくのが人間の役目ね」
 倉庫に積まれた段ボールの一つが、突然横に倒れた。その拍子に中から看護師の服を着た女性が飛び出した。女性の頭には得体のしれない器具が装着されている。Mは女性を再び箱に戻した。
「Mさん、今のは?」
「古古古古古米」
「じゃないですよね、人ですよね。私の大好きな小説家に似ています。ちょっと待ってください。もしかしてMさんは発想を集めようとしてます? ここの段ボール全部に小説家が入ってるんじゃないですか? ここに集めた人たちに発想させて、それを拝借してAIに書かせて小説家になるつもりですか?」
 気がつけば、大量に積まれた段ボールの中から唸り声が聞こえる。
 Mはバレてはしょうがないと言わんばかりに笑い始めた。
「あなたの直感は怖い」
 Aは体を縛られ、箱に詰め込まれた。
「ちなみに教えてあげる。問題の答え、本当はあなたが合ってたわよ。困るのよね、AIが書いてるって気づく人がいると」
 Mはこれから始まる小説の新時代へ向けて高笑いをした。そしてゆっくりと青と白の箱に近づいた。
「あんたも小説のアイディア、発想してもらうわよ」
 青と白の箱は隠していた口を開けた。
「発想は任せてください。箱だけに、発送が得意なんです」
「えっと、そういうのは要らないわ」

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