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【創作】題名のない物語 第25話 乾杯

 着替えてリビングに入ると、テーブルの上に白いう箱が置いてあった。貼ってある送り状を確かめようとする間もなく、キッチンから声がかかる。
「あの子から送られてきたの。お父さん、開けてみてくれる」
 声に従い箱を開ける。中には手紙とワインボトルが二本。
『お父さん、お母さん、お元気ですか。私は元気です。児童相談所での初任給をいただきましたので、細やかですが、郡山産のワインを贈ります。二人で楽しんでください』
 ボトルを手にすると、風車、大地、川をモチーフとしたラベルに「Vin de Ollage」という文字が書いてある。フランス語だろうか、意味はわからない。
「あら、ワインなの。一緒に飲みましょう」
 料理を運んできた妻の嬉しそうな表情に、俺も嬉しくなる。
「何でワインなんだ。お酒を控えて欲しいと言ってたくせに」
「彼氏がワイナリーに勤めているから、そこの製品でしょ」
 眉間に皺が寄るのがわかる。
「もう彼氏ができたのか。郡山に引越しをして一ケ月にもならないのに。そんな、一人暮らしの女性をすぐに口説いてくるような男、俺は認めないぞ」
「一ケ月も何も、前の会社の時からお付き合いをしていて、彼を追いかけて郡山に行ったんだもの、もう一年以上になるんじゃない」

(………オレハ、ナニモ、キイテイナイ)

「もう、そんな顔をしてないで。せっかくだから、いただきましょう」
 ワイングラスがニつ、テーブルに置かれる。白ワインのキャップを開き、グラスに注ぐ。
「乾杯しましょう。あの子たちの未来に」
 チン!
 ワイングラスから、軽やかな響きが生まれる。
 爽やかな葡萄の香りが、心を躍らせる。
 若い。
 不味いとは言わないが軽過ぎる印象。まだ未成年の若者ような華奢なイメージ。将来への可能性を感じるが、未成熟な味わいと言わざるをえない。
「飲みやすくて美味しい。和食と相性が良さそうね」
 相性、マリアージュか。お酒と料理の相性が良ければ、未熟でも少し物足りないくらいでも、それもまた良いのかも知れない。大事なのはこれから、ということになるか。
「今から宿をとるのは難しいかも知れないが、ゴールデンウィークは、福島県に行かないか」
「いいですね。あの子と日程調整して、宿を探してみるわ、温泉がいいよね。会津地方の『裏磐梯』にある『五色沼』という場所が凄く素敵らしいの。まるで『モネ』が描く水辺の風景のようなんですって」
「そうか、それは楽しみだな」
 二人で旅行をするのは、いつ以来になるのだろう。あの子が生まれる前だからニ十五年以上前になるのか。
「なぁ、これからは『お父さん』『お母さん』というのは、辞めにしないか」
 妻は何も応えずに微笑みを浮かべた。頬がほんのりと紅い。
「乾杯しましょうか、子どもたちと、私たちの幸せな未来に。ねっ俊彦さん」
 ワイングラスから、再び軽やかな音色が生まれる。
 それは、再び始まる恋を祝福するかのように響いた。

(第25話 完)

第1話


#創作大賞2025
#恋愛小説部門

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