【創作】題名のない物語 第16話 耕耘
木元さんの契約は成立したみたいで、夕方に会社に戻ってきて、湯沸かし室にはお土産の笹かまぼこが「ご自由にお取りください」とのメモと一緒に置かれていた。お土産を見つけた中村さんが、素早く私の分も真空パック入りの笹かまぼこを持ってきてくれた。
「どうせなら萩の月よねぇ。三色最中でも良いけど、何で笹かまなのかしら」
いやいや中村さん、貰っておいて何を言うのですか。契約成立のお裾分けを有難くいただきましょう。とは言えないから
「変なセンスが木元さんらしいと言えば、木元さんらしいですねぇ」
と言うと
「ほんと、変わっているんだから」
と頬張りながら言うので
「そうですね」
今度は心から中村さんに同意した。あの変な人に確かめたい気持ちがフツフツとしてきた。塚原課長が沸騰した時に木元さんが水を差すのは、叱られている人を護るというよりも、塚原課長を護るために行っているのですか。と聞いてみたい。わからないことをそのままにはしておきたくない。けど、わざわざ聞きにいくような話でもないのよね。
端末に残業届のデータが流れて来る。木元さんは今日残業するのですか、営業では一人だけで予定時間は十九時まで。
「課長、残業ということでは無いのですが、整理したい資料があるので、今日は少し残っても良いですか」
課長に聞いてみる。
「仕事で遅くなるなら、残業届を出していいぞ。三十分でも一時間でも業務は業務だ。営業の連中は自分達が稼いで会社を支えているような気持ちらしいが、それを支えているのは我々だから、遠慮せず残業していいぞ」
優しそうな表情に見えるけど課長の目は笑っていない。
「そんなに時間をかけませんし、自分のための作業ですから、残業は無しでお願いします」
課長がにこやかな顔に変わる。もう充分承知しております、課長の言葉は額面どおり受け取ってはいけないということを。中村さんからも聞かされましたし、何度失敗させられたことか。口では優しいことを言うけれど、内心では上の方を見てますから、経費が増える残業は厳禁ですよね。それに比べると塚原課長はよくも悪くも部下のことをよく見ているし、部下を活かそうとしているように見えます。
なんやかんやで本日の業務は終業時間となりましたが、ちょっとだけ職場に残らせていただきます。残業じゃないから、あまり遅くまでは職場に残れないし、PCの稼働時間も管理されているから、残ったとしても十八時半までにしますか。もし、その時間までに木元さんが帰るようなら、自分も作業を終えて帰りがけに尋ねてみよう。それ以上の時間になれば、木元さんを待たずに帰ることにしましょう。
(第16話 おわり)
第1話
いいなと思ったら応援しよう!
サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。
また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。
皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。