【創作】題名のない物語 第10話 夢路
故郷のために働きたい。夢と共に12月から郡山市に戻った木元だったが「忙殺」という言葉を毎日感じる日々を過ごしていた。クリスマス、年末年始の商戦に向けて、営業、イベント出店、ラベル貼りや箱詰めという製造補助など、何でも屋として残業が続き、その日のうちに帰宅するのが精一杯だった。
仕事を終えて帰宅しようとしていた木元のスマホが、ポケットの中で軽い音を告げた。
(こんな時間に何故)
LINEを送ってくる友人の顔が一人だけ浮かぶ。(もしかしたら、好きな男性とのデートの後か)
スルーしようかと考えたが画面を確認した。
「紫蘇が枯れてしまったの」
一行だけの文字が表示されていた。
(屋内のポット栽培とはいえ、紫蘇を枯らしたの。あんなに強い植物なのに)
青空の下、紫蘇が溢れるように葉を実らせていた地元の風景を考えた。都会では、紫蘇を育てることさえ難しいのかもしれない。木元の心に「ハチミツとクローバー」という古い漫画の一場面が心に浮かんだ。
『実らなかった恋に意味はあるのだろうか』
(答えはわからないけれど、僕らが過ごす日々は戻らないけれど西野さんに伝えなきゃ)
「紫蘇は、西野さん一緒に暮らせて幸せだったと思う」
マナーモードにして、スマホをポケットに戻した。これ以上はLINEをしたくない。想いが止まらなくなる。逢いたくなる気持ちが溢れてしまうと感じていた。
車に乗り込んだ。
(逢いたい、だから早く眠りたい。夢で君に逢えることに期待したい。もう夢でしか逢えないけれど、いつも、いつまでも君の幸せを祈っている)
車のヘッドライトが暗闇に一本の線を作り出していた。
スマホが震えることはなかった。
(第10話 おわり)
第1話
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