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【創作】題名のない物語 第3話 京橋

 頻繁という感じではないものの、何度かLINEでやりとりをした流れで「休日の過ごし方」の話題となり、東京駅の東側、京橋にある美術館を一緒に観覧することになった。木元は自宅から近いこともあり時々観覧に行くことがあるが、西野は観覧したことがないとのことで「直接話したいこともあるので一緒に行きませんか」となったのである。

 待ち合わせ場所に指定したロビーに現れた西野の職場とは違う可愛いらしい服を見て
(もう少し、ちゃんとした格好すればよかった)
 と木元は焦りながらも、そもそもお洒落な服を持ってないことを思い出し、気を取り直して「石橋コレクション」と言われる印象派の絵画や彫刻をひととおり観覧した後に一階のカフェに入った。オーダーを済ませた直後に、木元は気になっていたことを切り出した。
「直接話したいことがある、とのことでしたが、ここで聞いても大丈夫ですか」
 西野が笑顔を浮かべつつ、姿勢を正す動きに釣られて、木元も姿勢を整える。
「この前食事をした時は、すぐにお酒を飲んでしまったので『酔って聞くのもちょっとなぁ』と言えなくなってしました。今更で申し訳ないのですが、四月に塚原課長に叱られていたときに、助けていただきありがとうございました」
 静かに頭を下げた。
(恋愛要素は無いと考えていたので誘われたことが不思議でしたが、そういうことですか)
「そんなことありましたか。覚えてなくてすいません、けど、ご丁寧にありがとうございます。たいしたことじゃないですし頭は上げてください」
 言いながら西野が理不尽な理由で塚原課長に叱責されていた時に話を遮った時のことを思いだした。塚原は他の部署の人間に対しても厳しい態度が多い。
「その時は、単純に『木元さん、急ぎの用事なのかしら』と考えてその場を離れてしまいましたが、あれは、私を助けるためにしたのではと、後から気がついて、御礼を言わなくてはとずっと考えていました。ようやく言えて良かったです」
「西野さんのためというか、日常的なんで」
 ケーキセットが運ばれてきて、少し話が中断する。木元が紅茶を口に運んだ。
「木元さんにとっては普通のことかも知れませんが、入社したばかりで、毎日緊張と不安だらけなのに、塚原課長に強く叱られて『じゃあ仕事を辞めます』と言う寸前でしたが、席に戻ったら他の方々から優しく声をかけていただき、思いとどまることができました。それから時々、塚原課長と木元さんのことを見ていたら、私の時だけじゃなく木元さんがちょくちょく課長の邪魔をしているのが可笑しくて、真相を聞きたいと思ったのです。あれは、塚原課長を護るために邪魔をしているのですか」
 木元の心に古い漫画「ガラスの仮面」の月影先生の姿が浮かぶ『マヤ、恐ろしい子』。ただ他の社員も気づいている話なので、否定することもない。
「そのとおりです。塚原課長が暴走しないように、話に水を差すことがあります。課長もなんとなく気づいていて、受け入れている気がします。職場の様式美みたいなものなので、気にしないでください。ですが『ありがとう』と言われることは、正直嬉しいです。こちらこそありがとうございます」
「あぁして課長と職場を護っているのですね。確かめることができて嬉しいです」
 得意気な表情を浮かべる。名探偵風に決めの台詞を言ってもよさそうなところであるが、構わずにケーキに手をつけ始める。
(課長のギャーギャーという声を聞かされるのが嫌で邪魔をしている面もありますから、一番救われているのは、自分自身です)
 ということは黙っておくことにした。
(第3話 おわり)

第1話

#創作大賞2025
#恋愛小説部門

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