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【創作】題名のない物語 第15話 防護

 社会人一年目の季節は慌ただしく過ぎてしまい、気がつけば冬のコーディネートが必要になっていた。仕事はまだまだ未熟だと思うけど、仕事にも人間関係にもしっかり慣れて、中村さんや他の同僚たちとボーナスの使い道や年末年始の過ごし方などの話題で盛り上がることも多くなっていた。
 わが社は例年同様のボーナスが出るとの通知があった。経理を担当しているから、経営状況が悪くないことを知ってはいたけど、正式な通知が出たことで安堵した。

 久しぶりに塚原課長の雷が鳴ったので、振り返ると見たことがない男性が机の前に立たされていた。どこかの営業所の人かしら。
「あー、タイミングの悪い子ね。木元さんの居ない時に来るなんて。木元さん、昨日から出張なのよ」
 中村さんが呟いた。確かに朝から木元さんの姿を見ていない気がする。ハッキリはしないけど、塚原課長の周りはかなり険悪なムードが漂っているみたい。思わず席を立って塚原課長の席に向かった。
「塚原課長、ちょっとよろしいですか」
「西野君か、どうしたね」
 塚原課長が温和な笑顔を見せてくれた。何も考えずに声をかけてしまったけど、どうしようか。
「木元さんは出張ということですが、お戻りはいつになりますか」
「あぁ木元のこと。まだ報告は無いけど、契約が取れたら今日中に帰社して、急ぎ報告書と契約書を作成する。契約に至らない場合は直帰する予定。何か用事があった」
「急ぎの案件ではないので大丈夫です。後で木元さんに確認させていただきます」
 塚原課長に頭を下げてから後ろに下がった。大丈夫、不自然じゃ無かったよね。塚原課長が落ち着いたような雰囲気を背中に感じながら席に戻ると、中村さんが何だか嬉しそうな表情をしていた。
「やるじゃない助けに入るなんて。カッコ良かったわよ。ただ、営業所の人間だからアプローチしても、恋に繋げるのは難しいと思うけど」
 自称「恋愛マスター」の中村さんは、営業所の男性を助けるために私が行ったと考えたのね。ここでそれを否定しても、却って尾鰭がついて話が広がることは、この数ヶ月で十分に学んでいますよ。
「そうですね、戦略を間違えたかもです」
 曖昧に応えて席に着く。確かに営業所の男性を「可哀そう」と感じた部分もあるけれど、それよりも「塚原課長を助けなきゃ」という想いの方が強かったんだけどな。塚原課長は瞬間的に強く叱責することもあるけれど、部下想いで、部下を心配する強すぎる熱い感情が「叱責」に見えてしまう人。最初は理不尽と誤解したけど、部下思いの塚原課長を悪く言う人がいたり、塚原課長の真似をして揶揄する人がいることの方に理不尽さを感じていたから「塚原課長を護りたい」と考えて動いてしまったんですよ。と中村さんには言わずにおくけど、こういう感情を何と言うのだろう。もしかしたら木元さんも同じように塚原課長を護るために、普段から行動しているのかしら。気にはなるけど聞きに行くわけにもいかないし、今は仕事に集中しなきゃ。

(第14話 おわり)

#創作大賞2025
#恋愛小説部門


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