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【創作】題名のない物語 第23話 結実

 タクシーを降りて塚原課長が渡してくれたメモを確認する。
「西野君への餞別、新生活の御守りだ。コンプライアンス違反だけど、木元も喜ぶと思う」
  優しい笑顔で渡してくれた小さな紙には木元さんの自宅住所が書かれていた。
 メモとスマホの地図アプリを何度も確認したし、表札の苗字も間違いない。けど、チャイムを押すには勇気が足りない。自宅にいるかどうかも確認していない。いたとしても迷惑な顔をされるかも知れない。少し下がって、家の写真を撮りLINEを送る。
「この家で間違いないですか」
 すぐに既読がついたけどレスはこない。

 突然、玄関のドアが開いた。

 寝ぐせで無精髭という姿を見るのは初めてね、逢いたかった人。
 彼は何も言わずに、空を見上げる。彼のスマホからはSEKAINO OWARI「RPG」が流れていた。泣きたい気持ちは我慢してちゃんと挨拶しなきゃ。
「四月から郡山児童相談所への採用が決まり、郡山市に越してきましたので、ご挨拶に参りました。突然ですいません。
 児童福祉の分野で働きたくて転職先を探していたら、偶然、木元さんの故郷で採用された。偶然、退職するのが同じ年度になったというのも運命的な感じですけど、そうなるように頑張った子がいた。というのもいじらしいと思いませんか」
 木元さんは何も言わずに私の体を引き寄せた。頭の上から声が響く。
「偶然にしても、必然にしても、生涯、あなたを大事にします」
 馬鹿、この優しい馬鹿。お互いに好きも何も言ってないのにいきなりプロポーズみたいなこ言葉ですか、変な人。けど、木元さんの言葉を否定する気にはなれない。ご縁を大事にしてくださいね、今度こそ。じゃないと再会をアシストしてくれた塚原課長に怒られますよ。
「そうですね。大事なことは、これからどうしていくかですかね」
 背中に手を回して、ギュッと力を入れる。この声をずっと聞きたかった。このぬくもりをずっと感じたかった。
「西野さんが好きだったという人は」
 頭の上で囁くような声が聞こえた。気づかないんですか、今、それを聞いてくるんですか。もう、泣けてきます。
「好きな男性は、ずっと木元さんだけです。こんないい女を東京に置いていく悪い人ですけど」

 見上げると、木元さんが泣き笑いしている先に、青く澄み渡る空があり、天からは微笑むような柔らかな光が降り注いでいた。

 ここで、ここから始めましょう。「幸せになる二人の物語」を。新しい職場も、新しい土地も、何も恐くないです。
 もう、一人じゃない。

(第23話 西野編最終話 おわり)

第1話

#創作大賞2025
#恋愛小説部門

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