【創作】題名のない物語 第19話 花唄
二人とも黙々と食べ続けたせいか早めに食事を食べ終えてしまい、まだ聞きたいことを確認してないし、ちょっと酔った勢いもあり木元さんにカラオケをオーダーしたら、カラオケボックスではなくスナックみたいな店に連れてこられた。小さな店でカウンターと少しのテーブルだけ。
木元さんの行きつけのようで、カウンターに座るとママさんらしい妙齢の女性が何も聞かずに木元さんの前にウイスキーのボトルと水を置いた。ママの視線に促されて私はビールを頼んだ。
ビールを口の中に流し入れた後、一曲歌ってからカウンターに戻り、木元さんに聞いてみた。
「いかがでした」
どうせ気がきかない言葉なんでしょうね。
「語彙力が少なくて申し訳ない。素敵だったという言葉しか出ないです」
照れも飾りもない真っ直ぐな感想みたいですね。「良かった、安心した」
女性に対して全く気が利かない木元さんから「素敵」という言葉を引き出したので良しとしましょう。さて、この後に連絡先を聞かれたらどういう風に断りましょうか。そんなことを考えながら他愛もない話をする。木元さんは歌うつもりがないみたいで、話の合間にチビチビとグラスを口にしていた。
グラスの量が減ったところで水割りを作ろうとしたら「自分でやります」と断られてしまった。ほんと変な人。まぁ、自分で作ろうとしないで、女性に「気が利かない」とか言う人よりは良いと思いますよ。
家族のこと、最近のドラマや読んだ本のこと。他愛も無い会話が続いた。コミュ障というわけではなくて普通に会話はできるのね。人を不快にさせるような話題もすることがないし、変な人だけど悪い人じゃないのね。
「今日は素敵な歌が聴けて良かったです。ありがとうございました」
木元さんが目で「店を出ましょう」と伝えながらて椅子から降りる。
「お会計は」
「済ませてあります。歌のお礼にここは出させてください」
伊達に営業をしているわけではないのね、その自然な対応に敬意を表して素直に奢られることにしたましょう。なんななら、御褒美に連絡先ぐらい交換しても良いですよ。今日は聞くことができなかった塚原課長との関係も聞きたいし。
木元さんが「連絡先」とか「次回」とかを切り出してくるのを待ちながらも、何も言われないまま駅に着いてしまう。
「今日は御馳走様でした、また、会社で」
木元さんは無言のまま、笑顔で右手を軽く上げて、人混みに埋もれて行った。
お父さんが家にいたら聞いてみよう、若い女性と食事とカラオケをしながら、何のアプローチもしてこない男というのは、男性に魅力を感じる嗜好の持ち主と考えた方が良いのでしょうか。それとも、私が男性を惹き付けるような魅力に欠けるのかな。歌は素敵と認めてくれたし、容姿も変じゃないし、会話もそれなりにしていた。うん、私に魅力が無いわけじゃなくて木元さんが変なんだよね。そんなことを考えているうちに電車は国分寺駅に着いた。
(第19話 おわり)
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