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【創作】題名のない物語 第21話 落花

 最初は「変な人」という印象しか無かったのに、二人で過ごしたら意外にも心地良い時間が多くて、子どもみたいな純粋さと頑なさを感じながら、先生のような気持ちで友達として過ごしてきたけれど、木元さんは私のことを異性として意識しているような気がする。
 木元さんは故郷での就職活動を続けているけれど、再三の不採用通知に自信を無くしているように見えて、故郷に帰ることを諦め始めているような雰囲気も感じる。そしたらこのまま一緒に過ごすことができるのかしら。

 それは嫌。

 うん、これは正直な気持ち。前に木元さんから聞いた話を思い出す。
『遠距離恋愛をしたり、相手の人生を望まない方向に変えたくない』
 共感しますよ、木元さんには愚直なくらい真っ直ぐに生きて欲しい。不器用だけれど誰に対しても誠実でいようとする木元さんを好きになったのだからその生き方を変えないで欲しい。

 そうか、私は木元さんのことが好きなんだ。

 気づかないように、見ないようにしていた気持ちを自覚してしまった。変な人が恋しい人に育っていたということですか。
 なら、それなら、もう友達でいることは止めなきゃ。同僚として後輩として木元さんの就職活動、夢を応援しましょう。そして自分も夢を諦めずに行動しよう。木元さんから学んだ気持ちを大事することが大切な未来に繋がる気がするから。
 そんなことを考えながら葛西臨海水族館に向かって家を出た。

 生き生きとした海の生き物を木元さんと楽しんだ後、夕暮れの街を駅に向かい歩きながら覚悟を決めるというか勇気を振り絞る、頑張れ私。木元さんの前に進んでから振り返り正面から彼を見つめる。
「唐突に感じるかも知れませんが、こうして一緒に過ごすのは、今日で終わりにしていただけますか。勝手な女と思うかもですが………好きな人ができました。その人のために、木元さんとは会わないようにしたいのです」
 木元さんがキョトンとした顔をした後、泣きだしそうな顔をする。泣きたいのはこっちですよ。こんな風にちゃんと送り出そうとする、良い女はそうはいませんからね。
「わかりました。これからはLINEもしない方が良いですよね」
 はい、仰るとおりです。お互いに変に引きずらないようにスパっとした方が良いとは思いますよ。けど、第一声はそうじゃないでしょう。「嫌」とか「駄目」とか、必要な通過儀礼があるんじゃないですか、と考えながらやんわりと諭す。
「そういう素直なところを私は思いやりと理解していますけど、普通の子ならガッカリするところですからね。これからは気をつけた方が良いと思いますよ」
 木元さんは苦い顔をしながら全然違うことを答えてきた。
「夕食はどうしますか。予約はしてないから、食べずに解散しても大丈夫です」
 そういう人とは知っているけど、駄目、怒りが抑えられない。今、諭したばかりなのにどの口がそんなことを言うのですか。
「ちゃんと話を聞いていますか『今日で終わりに』と言いました。今日はまだまだ終わらないですよ。余裕で晩御飯を食べる時間がありますよね。罰として夕食の場所は私が指定します。良いですね」
「もちろんです。どんな高い店でもエスコートさせていただきましょう」
 人の気も知らず嬉しそうな顔をして、まったくですよ。これが木元さんの良いところというか人を惹きつけるところなんでしょうね。どんな無茶ぶりをしても答えは必ず「Yes」から始まる。いつも相手の想いに応えようとする優しい人。皆に好かれるわけですよ。
 では本日、お別れを告げることに合わせて考えていたことを実行することにしましょう。友達としての最後の晩餐になるのであれば、御馳走してあげましょう、私の渾身の手料理を。
「素直で何よりです。では、今夜はリストランテ ウエストフィールドにします」
「行ったことがない店ですね。フレンチ、それともイタリアンですか」
 私も行ったことが無いです。場所も雰囲気も知りません。
「ジャンルはこれから決めます。材料とお客様次第になりますから」
「無国籍料理という感じですか、珍しいですね」
「うーん、国籍は日本ですから、和食ベースかも知れません。決めるのはお客様です」
「何とも、不思議な店ですね。場所はどこになりますか」
「八丁堀です」
「八丁堀にそんな店がありましたか。全く知りませんでした。最近出来た店ですか」
 悲しい気分なのに笑いを堪えられなくなり、噴き出しちゃった。後は、複雑な感情には蓋をして、木元さんと二人で楽しい時間を過ごしましょう。
「最近も何も、リストランテ ウエストフィールド、本日オープン、本日閉店です。一夜限りのレストラン、チーフシェフは私、スーシェフは木元さんです」
 そう、本日で閉店です。予想はしていたけれど、覚悟もしていたけれど、お別れも素直に受け入れる人だから今日で閉店。本当は何度でも食べさせてあげたかったけど。
「では、シェフ、これから仕入れに同行していただいてよろしいですか」
 はい、素直でよろしい。一緒に買い物をして、一緒にご飯を食べる。そんな何でもないような幸せの味を二人で楽しみましょう。
(第20話 おわり)

第1話


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#恋愛小説部門
 


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