【創作】題名のない物語 第18話 収穫
木元さんが選んだ中華料理屋は、有楽町からほど近い銀座一丁目にあった。国分寺までの帰路を考えると東京駅が近いのはありがたい。あまり綺麗とは言えないビルのニ階へと登る。
「餃子が美味しいので時々利用しているのです。今日は西野さんと来ることができて嬉しいです」
そんなことを話しながら木元さんがドアを開けると、中華料理屋の特有のスパイシーな香りが鼻を突く。店内は清掃が行き届いている感じで悪くない。中国訛りが残るウエイトレスがテーブルに案内してくれた。
「西野さん、お願いがあります。お金は僕が出しますので、この『コース料理』を頼んで良いですか。嫌いなものがあれば止めてもらって大丈夫です。来る度に気になっていたのですが、ニ人前からなので今まで注文できずにいました」
真剣な表情で、何を言うのかと思えばそういうことですか。「西野さんと来ることができて嬉しい」というのは、私が必要ではなくコース料理のために誰かもう一人が欲しかったということなの。
今まで毎回一人で来てるって、一緒にご飯を食べる友達がいないんですか。とは聞けないよね。
「はい、コースで良いですよ。ビールも頼みましょうか。けど割り勘にしましょう。私もちゃんと食べますから」
「ありがとうございます。じゃぁそうしましょう」
木元さんはニコニコしながらウエイトレスを呼んで注文を始めた。クリスマスプレゼントを貰った子どものような無邪気な表情。この顔を前に塚原課長のことを聞くのはちょっと申し訳ないですね。
今日のところは、老舗っぽい中華料理屋の味を楽しむことにしましょう、割り勘だし。これまでご飯を誘ってきたり奢ろうとする人は、優しさではなくて、やらしさがセットになっている感じがしていたけど、木元さんからそういう邪気を感じることがないのは、女性よりも男性に魅力を感じるタイプなのかしら。そういう世界を否定するつもりはないけれど、そうだとしたらこれまで関わりをもったことがないからどう対応しようかな。仕事のことも聞けないけど、恋愛の嗜好についてはもっと聞けない。
単純にいい人なのかも知れない。もしかしたら私のことを「どうでも」をつけた「いい人」と見ているのかも知れないけれど。
運ばれてきた料理はどれも予想以上に美味しかったから、少しだけ木元さんを見直すことにした。
(第18話 おわり)
第1話
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