【6-2】逆襲のシャアラストシーン解説②君は知っていたか。知っているはずだ。ニュータイプの理想とは具体的にコレなのだ。
友達が作れないシャアが嬉しそうに言う「それでこそ私のライバルだ」
理不尽に、たくさんの人の期待を乗せられてきたシャアが、逆に人類に理不尽を被せ返す。彼の「忌まわしい記憶」をアクシズに仮託して、人類にぶつける逆襲が、このアクシズ落としだ。(と、本解説では考えます)
これを前提に、最後の戦闘を観ていこう。
クエスやギュネイ、ハサウェイ、そしてチェーンのことが描かれるが、本解説はシャアに焦点を当てたいので、これらは省略する。
チェーンが死んだ物語の最終戦闘から、彼の考えを読み解いていこう。
状況としては、落下するアクシズを破壊(分割)するため、ブライトたちが爆弾をもってその内部に侵入し、シャアのサザビーと、アムロのνガンダムが、アクシズの地表面で会敵するところからだ。
俗にいう「置きバズーカ」で盾を吹っ飛ばされるサザビー。「避けた」と感嘆するアムロに、シャアは「それでこそ私のライバルだ」と燃える。
シャアは、ライバルどころか、そもそも友人を作るのが苦手だ。
ジンバ・ラルからザビ家への復讐を願われ、いつしかそれが自分の願いであるかのように錯覚して少年期を過ごしているが、ザビ家が支配しているジオンの中にあって、それは決して知られてはならない本心なのだ。彼は知らないうちに、自分の本心を明かさず、常に精神に仮面を被って生きてきた。
「目的遂行のためのもっともらしい挙動」しかできない彼に、友人ができるはずもない。しかし、シャアは本心ではそれを渇望した。現ジオンの支配者ザビ家に復讐するという、とんでもなく無謀な偉業。少年の身には過ぎたプレッシャーの中で。
仮初めでもいいから、シャアはそれを分かち合える友人が欲しかった。(できるにはできたが、そのガルマは自分で殺している)
加えて、シャアの卓越した戦闘能力もまた、彼を孤独にしている。腕前がいい上に並外れて思考力があって、二手三手先を読む天才の孤立と孤独だ。
ジオンの中に、ライバルはいない。
だが、ただ一人いたのだ。
連邦のガンダム。そして、そのパイロットであるアムロ・レイだ。
シャアがアムロに執着するのは、決着をつけたいからではない。
できれば、決着などつけずに、アムロと一生ずっと戦っていたい。
彼は、同じ立場の友人を求めているからだ。
だが、同時にシャアは行動が早い。先を読むし、先手を打つのはもう彼の性格だ。ともに歩いてくれる人を求めながら、その相手と、すぐにハッキリ決着をつけたがる。「急ぎすぎだ」とアムロからも言われている通りだ。
逆襲のシャアの現在でも、ネオジオンの総帥として、シャアは多くの人間から距離をおいてあがめられ、また遠くから敵視されている。
どこにも対等な人間などいない。能力、血筋、地位、どれをとってもだ。
しかし、ここに至っても一人だけ、総帥でも大佐でもなく、面と向かって「シャア」と呼び捨てて、ビームサーベルが触れる距離まで迫ってきてくれる人間がいる。
シャアが致命弾を回避することを予測しつつ「これくらいじゃ死なないだろう」という所を正確に品定めして仕留めにかかっているνガンダムのパイロットだ。
嬉しくてシャアの声が弾む。
「それでこそ私のライバルだ!」
どうみても普通の軍艦なんだけど、アムロは一瞥して中に隠してある核を見抜いたよどうなってるの
戦闘中、アクシズの艀(はしけ)に接舷しているネオジオンの戦艦(核兵器搭載の四番艦)をチラリと見て、アムロはシャアの意図を瞬間に理解する。
アクシズ落下時には、地球を何周もするであろう衝撃波が巻き起こる。落下直前に、アクシズ表面に固定してある四番艦の核を爆発させれば、放射性物質は爆風に乗って地球全土にまき散らされるだろう。
「もう本当に地球には住めない」という環境をつくる作戦だ。
これを、まだ大気圏にも触れていない段階でアムロが撃沈した。
「アムロ、まだ早い。この位置で爆発させても地球は汚染させられない」
シャアが焦る。
しかし、思えばシャアもギュネイも、かなり精神集中してカムランさんが決死の覚悟でご用意した核ミサイルを発見したのに対して、チラッとみただけで、艤装からは判別できないはずの核の有無を見抜いたアムロのニュータイプ能力は、やはりシャアとは段違いの高さにある。
ただ、この度を超えた勘の良さは、νガンダムに搭載されたサイコフレームの恩恵かもしれない。両モビルスーツにはサイコフレームが搭載されており、二人の意思は比較的つながりやすい状態にある。
シャアは、ビームトマホークを投擲し、アムロのビームライフルを両断。すぐさまビームサーベルを抜いたガンダムを見て、シャアが口走る。ララアを殺したのは、このビームサーベルなのだ。
「ララアが死んだときの苦しみ、存分に思い出せ」
一聞して私憤だ。恨み言に聞こえる。だが、この後でシャアは「アムロが能力を無駄に消耗していること」を嘆いている。
それはララアの死を通じて、アムロが獲得した高度なニュータイプ能力のことだ。ア・バオア・クー内部で「その力をララアが与えた」とシャアが言っている通り、アムロの能力の異常な高まりは、ララアの死による恩恵だと、シャアは思っている。
「情けない奴」
アムロが吐き捨てる。シャア、お前はもっと世直しを思慮深く考える男だと思っていたよ。ダカール演説すごくよかったのに。ニュータイプの理想の世界の実現にまい進するのかと思っていたのに、個人の恨みで戦っているのか、とアムロ。
「なにが」
───なにが情けないだ。貴様こそ、私より素晴らしいニュータイプ能力をララアからもらっているのに、情けない人生を歩んでるではないか、の意味であろう。そして
「貴様こそ、その力を無駄に消耗しているとなんで気づかん」
と訴える。
「貴様こそ」とアムロも言い返す。
彼は、シャアの力を認めているのだ。
お前はすごい男だ。なのに、どうしてこんなことをする。
両者とも、相手を「そのニュータイプ能力を無駄に消耗している」と非難している。
では、二人が考える「無駄で無い理想的なニュータイプ能力の使い道」とはなんだろう。
それは、遠い宇宙にむかって飛翔する力だ。
飛び出していけ宇宙の彼方
宇宙世紀において、人口は増え続けている。地球の資源は掘り尽くされて、発展どころか戦争に使われている。いずれ役に立つものは食い尽くされて、地球には何もなくなる。
宇宙で、資源衛星や木星からヘリウム等を採取できても、地球でしか採れない資源は、天然ゴム(0093当時まだあるはず)をはじめたくさんある。宇宙の資源だけで宇宙船を建造するのは、この時代でも効率が悪く、環境が悪化すれば、早々に行き詰まるだろう。
そうなってから第二の地球を探しに行こうにも、満足な宇宙船も建造できないのだ。
そうでなくとも、太陽は50億年後には膨張して赤色巨星となり地球を呑み込む。地球を出られなくなった人類の滅亡は、それよりはるか以前にやってくる。戦争をしている場合ではないのだ。
人類は、もっと早くに宇宙の彼方に進出するはずだった。
だが、戦争に人材も資源も浪費しすぎた。もし争いのない人類だったら、もっともっと早くロケットは打ち上がり、もっと早くより負担無く宇宙を旅する方法が見つかり、お互いの考えが通じ合えたら、もっと早く、より巨大な宇宙進出のプランができていただろう。
これをシャアもアムロも、分かっている。
地球から月、火星、アステロイドベルト、そして木星圏にまで人類は進出した。しかし、これがゴールでは無い。ここまではオールドタイプにもできた。
ニュータイプの理想を描く「機動戦士ガンダム」はどこを目指すか。
これは1979年放映の最初の「機動戦士ガンダム」放送1分で宣言されている。
銀河へ向かって飛べよガンダム(「翔べ! ガンダム」より)、なのだ。
この物語は、最初から銀河へ、宇宙の彼方に人類が羽ばたくことを夢見ている。ニュータイプとして目覚めたアムロは、その先駆者たる使命を持っているのだ。
これも、第一回放映ラスト1分で語られている。
アムロ、振り向くなアムロ(「永遠のアムロ」より)、だ。
エンディングのこの曲では、アムロが、生まれた故郷、輝く地球を宇宙の彼方に見ている。歌の中で彼は、遠く宇宙の彼方を目指して進んでいるのだ。
これが「機動戦士ガンダム」が最初に放送されたときから示されてきたニュータイプの理想だ。
遠く宇宙の彼方を開拓していく、人類の可能性そのものなのだ。
余談 人類絶滅まっさかりの1970年代「ガンダム以前」
この頃のアニメは、とにかく地球がダメになって宇宙の彼方に旅立つ物語が多い。
「宇宙戦艦ヤマト(1974)」が14万8000光年の旅をし、「超電磁マシーン ボルテスⅤ(1977)」の敵ボアザン星も14000光年、蠍座の球状星団内にある恒星系で、ここまで戦いに行っている。
「宇宙の騎士 テッカマン(1975)」では、回復不能の環境汚染に達した地球から、全人類を他の天体に移住させる計画を実行させるため、超光速航法(リープ航法)で旅立つし、「UFO戦士 ダイアポロン(1976)」の敵、タザーン軍団の地球侵略も、母星の環境破壊による滅亡に苦悩した総統の暴挙だった。ダイアポロンもそこまで行って戦っている。
「合身戦隊 メカンダーロボ(1977)」も、地球から1500光年離れたオリオン星系惑星ガニメデが公害や大気汚染によって荒廃し、第二の生存地を求めて地球に侵攻してくる話だ。「惑星ロボ ダンガードA(1977)」も、太陽系第十番惑星プロメテに移住する物語。
機動戦士ガンダム(1979)以前のアニメには、当時の、終末からの地球脱出テーマの作品が多い。ガンダムも、これを下敷きにしており、また影響を受けている「2001年宇宙の旅(1968)」が示すように、人類が宇宙に出て進化する未来を見ている。
この土台の上で、ニュータイプに課せられた使命が語られる。
3倍はやく急ぎすぎている総帥シャアと、足踏みしているように見える大尉どまりのアムロ
シャアが、人類にニュータイプの覚醒をうながしたいのは、根底にこれがあるからだ。ところが、人類はなかなか飛び立とうとしない。
宇宙に住むスペースノイドも、地球に縛られている。地球にある資源が欲しくて、コロニーは地球に従っている側面があるのだ。
もしコロニーだけで完全に自給自足できて、事故にも対応できて、嗜好品なども作れるようになっていたら、地球の影響力は低く、独立できるはずだ。
ところが現状、コロニーでは、細々(ほそぼそ)と酸素を作り、水を作って、生きていくのがやっとの夢も希望も無い生活をしなければならない。なのに、いまだに戦争をして貴重な地球資源を食い潰してる連中がいる。
これが理由で地球に縛られているなら、これもいっそ断ち切ろうと、シャアは考えているのだ。
シャアも、人類が地球にしがみつかず、自らの可能性を信じて飛び出すことで、ニュータイプに変わっていくと信じている。
だが、シャアは急ぎすぎているので、これを強制的にやろうとする。
飛翔できない地球連邦政府を叩いて、地球を潰し、人類が無理矢理にでも宇宙に出れば、それを第一歩として人の革新は起き、人類はニュータイプになり、銀河の彼方を目指すようになる。
(この無理矢理な進め方を決めたのは、エウーゴを通過して、地球連邦の腐敗を間近で見て絶望したのが大きいのでは)
一方でアムロは、人の知恵を信じている。
人類が目覚めれば、化石燃料を燃やした推進物の先端に人間をくくりつけてぶっ飛ばす以外の想像もしていなかった方法で、ニュータイプには青く見えるという、海原のような、宇宙のどこかにある新天地を目指せるはずなのだ。
かつて、大航海時代に人々が新大陸や新航路を開拓したように、宇宙そのものが開拓すべきフロンティアなのだという考えがある。
年老いた大地を思い切り蹴って、星たちの彼方へ飛び立つ。
飛び出していけ、宇宙の彼方。
そういう、故郷を離れてより広く遠い世界に行きたいというスピリットが人類にはある。
そして、それがいつか実現することをアムロは信じ、地球連邦軍の内部から、そのための政治的変革を起こそうとしている。彼は、人類に絶望してはいないからだ。
しかし現状、地球連邦はやる気がなく、ロンドベルが孤軍奮闘している感じだ。5thルナへのレーザー攻撃も、政府の圧が十分にはかかっていない。
そして、アムロはいまだに大尉どまりである。
同じ理想を持ちながら、二人はそのやり方で対立しているのだ。
バズーカをぶっ放してもギリギリ死なないダメージを計算して、ノーマルスーツで直接シャアを説教してやろうとするアムロ
激しい戦闘の背後で、ブライトたちが、アクシズを分断するための爆弾を仕掛け終えて、小惑星の坑内から脱出していく。
邪魔なギラ・ドーガ排除など、ア・バオア・クー戦の再現が随所に見られる戦闘。(実はこのときギラ・ドーガを始末しながら、同時にマシンガンを拝借している)モビルスーツを降りて、アムロがアクシズ内部にノーマルスーツで入っていく。シャアもそれを追う。
「アクシズを内部から爆破しようというのか。させるか」
シャアはそう思って追跡するが、アムロはおそらくここで対話がしたかったのだと思う。
そういう割には、アムロはバズーカなどでだまし討ちしようとしている。
おそらく直撃が当たるとは思っていない。
先のモビルスーツ戦で、アムロは「シャアは置きバズくらいよける」と戦力見積もりを修正している。
連射できる機関銃や、散弾銃などでノーマルスーツに修復不能な穴や、致命傷を与えるつもりはない。バズーカ弾の爆圧や破片などで、間接的なダメージを与えて説得したかったのだろう。
アクシズ内部で、ノーマルスーツでの戦闘と会話が続く。
「世直しのこと、知らないんだな」
アムロは、シャアが世直しを動機として行動していると信じている。ダカール演説を聴いていたからだ。
人間の可能性、能力が広がること、地球を食い潰さないよう、宇宙に出よう。これはいい。アムロにもわかる共通の理想だ。
ただ、いますぐ地球をぶっ壊してみんな宇宙に来ようぜという手法が間違っている。
アムロはそれを正そうとしているのだ。
チェーンの前ではシャアに始末をつけるとも言ったが、アムロにとっても、シャアは同じニュータイプの最先端を走る仲間である。
それと、単純にアムロはシャアが好きなのだ。
「革命はいつもインテリがはじめるが、夢みたいな目標をもってやるから、いつも過激なことしかやらない。しかし、革命の後では 気高い革命のこころだって、官僚主義と大衆にの呑み込まれていくから、インテリはそれを嫌って世間からも政治からも身を引いて、世捨て人になる。だったら」
だったら───、の後に続くはずだった言葉は何だろうか。アムロは、何と言ってシャアを説得し、自分の方法論を伝えようとしたのだろうか。
「知らないんだな」と笑うくらいなので、アムロはわかっている。
シャアに遮られるが、これはのちに語られる通り、
「人の心の光をみせること」だ。
ニュータイプとして先駆けた自分は、人類を見守り、希望の光をみせていく。そしてそれは、シャアの仕事でもある、とアムロは言っているのだ。
アムロは、人類の可能性を信じている。シャアのように強制的にいますぐ進化せよと迫るのではなく、時間と可能性を残そうとして戦っているのだ。
一人で機械いじりばかりだった少年が、一年戦争を戦い抜き、最後に帰る場所があると、戦友のところにもどっていった。アムロは、この経験で大きく成長している。
そして、ホワイトベースのクルーが力を合わせて生き抜いていくなかで、ニュータイプに目覚めていく感動的な事実を、その目で見ているのだ。
だから、アムロはシャアのやり方に危険性を感じている。
どんな世界でも言えることだが(緊急避難以外で)強制された前進にろくなことはない。
お説教をされて、罰を与えられても、人間はより善くはなっていかないのだ。人間は身勝手なものだ。例え、自分たちのせいで状況が悪くなっても贖罪しようなどとは思わない。罰を強いた者に対して(それが善意であっても)恨みが残るだけだ。
人間は、立派な行動をする人をみて、それではじめて自分を正そうとする。
ホワイトベース時代、ブライトに何と言われようといじけていたアムロも、ランバラルに会って前を向くようになったのだ。
アムロは、見せるべき「心の光」の力を知っている。
そのアムロにイライラするシャアが「察してくれよ」と叫ぶ
アムロの「だったら」をシャアが遮る。
「私は、世直しなど考えていない」
ここは、アムロとシャアしか聞いていない環境なので、これはシャアの(それなりに)本音である。
強制的にニュータイプの世界を作り、人類を目覚めさせる。そのためのアクシズ落とし(地球寒冷化作戦)は、やり過ぎではあるが、「世直し」に入るだろう。
だが、シャア自身が違うというなら、ここで叫ばれたのは、もう一つのシャアの本音だ。
つまり、ここでシャアは「誰も聞いていない環境でアムロと二人っきり」なのだから、世直しの話ではなく、自分の被ってきた理不尽についての話がしたいのだ。
シャアはイラつく。
私が何をいいたいか、わかるか。アムロ。
地球に落ちようとしているアクシズ。これは、私がお前達に与える理不尽の権化だ。ララアの死という理不尽を、ともに味わったお前ならわかるだろう。察してくれ。さっき、ララアの話題を振っておいたろうが。
サイコフレーム搭載モビルスーツ同士で接近戦をしているときには、変な風に意思が通じて核の使い道が読み取られてしまったのに、ノーマルスーツ同士だとまるで意思が通じない。そこにも、シャアは苛立つ。
とにかくアムロに一発くらわせてやろう。
シャアはアムロの居場所が、直感では分からない。複数ある電波中継器を経て、四方から電波が発信されているのは分かった。ヘルメットにはその発信源の遠近が音量として再現されるシステムがついているのだろう。頭を振って「四方から電波が来る」と、シャアはアムロと対話しながら、同時に攻略を開始する。
発見した中継器のひとつを無効化したため、残り三方のバランスが変わり、聞こえてくる音量に明確な差が出る。そこからシャアはアムロの位置に見当をつけ、苛立ちを込めてグレネードを発射。
アムロが、明らかに見えていない位置から直観でシャアにバズーカを見舞ったのと違って、シャアにそれほどの直観力はない。科学的な攻略が必要なのだ。
しかし、これによって、アムロはヘルメット(バイザー)にダメージを受け、シールで応急修理をすることになる。
「世直しについて語るだと?」という前置きが省略されて
「愚民共にその才能を利用されている者の言うことか」
と、シャアが言い返す。
先述の通り、この才能とは、遠く銀河に飛べるような才能のことだ。ついさっきのモビルスーツ戦でぶつけ合った「貴様こそ、その力を無駄に消耗しているとなんで気づかん」と同じ主張である。シャアは頑として意見を変えない。
「そうかい」
と、アムロ。そうかい、分かったよ頑固者め。もうここでの説得は無しだ。モビルスーツで叩きのめした後で、もう一回説得してやるからな。
そう決めて、アムロはνガンダムに戻る。
シャアが連邦と(ウソの)和平交渉をしたのは、5thルナを落としてからだ。ただのテロリストでは相手にされない。勝負は常に力学だ。力を見せつけてからでないと、交渉のテーブルにそもそも着けないのである。
そのことを本作冒頭でシャアが示している。
アムロも同じ行動に移ったのだ。
νガンダムにもどって、アムロはヘルメットを外し、放り捨てる。シールド面にヒビが入っているので、どのみち長くは保たない。ブライトに「みんなの命をくれ」と言われたときから、生きて帰ろうとも思っていない。
同時に、ここからは、何も隠さず内面を出すという演出的な宣言だ。
アクシズ脱出後に、再び会敵するサザビーとνガンダム。
ビームライフルは既に破壊したと思っているシャアが突っ込んでくるところに、いつのまにか持っていたギラ・ドーガのマシンガンで間合い狂わせのだまし討ちをかけるアムロ。
むしろ突っ込んで避けるシャアは、ジオングのビームを前進して避けたアムロの再現だ。(ちょっとしょぼいが)
すれ違い様に、サザビーのサーベルがガンダムのコクピット近くをかすめる。「これくらい」と意に介さないアムロは、本当に覚悟した死人の戦い方だ。
上からシャア、下からアムロがサーベルで斬り合ったこの瞬間は、ラストシューティングと似た構造で目を引くが、注目すべきはこのとき破壊されたνガンダムの股間ブロック前面だ。
これは、後に「アクシズ落下阻止中に大気圏突入となる危険があるが、昔のガンダムにあった耐熱フィールド(耐熱フィルム)は、たとえ装備されていたとしても、もう使えない」という、ささやかな伏線となっている。
「サーベルのパワーが負けている」
この以前にも、シャアはパワーダウンを感じている。アクシズ内での舌戦を経ても優劣は変わらず、アムロ優位の演出が挟まれる。
このパワー負けから繋がって、かつてゲルググの左腕を斬られたときのように、サザビーも左下腕を切断される。サーベルの最後の一本を持っていた腕だ。
シャア得意の蹴り技でνガンダムのサーベルを弾き飛ばし、以後は拳での殴り合いに突入する。
ここまで武装を失っても、両者は補給も撤退も乗り換えも考えていない。
νガンダムとサザビーの設計思想の違いがモロにでる
格闘戦で、νガンダムの設計思想がはっきりと分かる。νガンダムの武装は、基本的に外付けだ。外せばシンプルなモビルスーツ本体が残る。ファンネルすら自分でジェネレータをもっている。
対してサザビーは、腹部のメガ粒子砲はパワーダウンすれば基本的に邪魔なデッドウエイトで、ファンネルを使い切った後でも、重いラックを背負わなければならない。
武器も専用のものが多く、νガンダムのように、そこらへんに落ちていたマシンガンを拝借することができない。
余談 実際の手首サイズも特殊なのだろうか
プラモデルのサザビー手首パーツは、νガンダムに比べて有意に大きい。
νガンダムとギラ・ドーガの手指サイズは、マシンガンを共用できた点からも互換性があるとわかる。つまり、新生ネオジオン内でもサザビーは、流用の少ない特別製として作られている。
武装が全て無くなったとき、邪魔なものが多いサザビーと、シンプルで格闘に有利なνガンダムの差がハッキリとでるのだ。
サザビーは怪物で、νガンダムはそれを退治する騎兵
「パワーダウンだと」とシャアが叫ぶ。
サザビーの出力が、戦闘中に低下している描写だ。これは、サザビーが「制止しても絶対に前線に出てしまうなら、せめてシャアを守り抜けるモビルスーツに乗せよう」とネオジオンの皆さんに作られているためだ。
たくさんの雑魚に囲まれても、迎撃して切り抜けられる設計思想だったはずが、シャアが前に出てジェガンとかを狩りまくっていたせいで、想定外の運用からエネルギーが切れてきた現象と思われる。
これまでも、新生ネオジオン総帥の立場と、このサザビーは、ゴテゴテに鎧われた、シャアにからみつくしがらみとして描かれている。
赤い彗星の乗機は、ザビ家への復讐を終えたΖ時代、金色の「百式」になった。最終的に血に呼ばれてジオンに戻っている。サザビーの赤は、こんどこそ彼の宿命である血の赤だ。
対してνガンダムは、白を基調としている。フィンファンネルは、騎兵が左肩にかざるマントのようだ。
サザビーの怪物的なデザインは、文字通りエゴの怪物となったシャアを表し、νガンダムは、それを討ち果たす白い騎兵。マントを羽織った騎士が、ドラゴンを退治する様子を模してみえる。
馬も、ガンダムの盾にユニコーンとして描かれているほどだ。
なりふり構っていられないタイヤつき機動戦艦
このνガンダムが、戦艦の運用にも影響を与えている。
ロンドベルの旗艦、ラー・カイラムのカタパルトには、壁面にタイヤが着けてある。
ラー・カイラムは、ロンドベル隊の旗艦だ。
おそらくは、0089に開発されたジェガンの運用艦として、設計されている。
しかし、0093に納品予定のνガンダムはかなり大型だ。リガズィは全高こそジェガンより低いが、バックウェポンシステムがかなり嵩張る。
予定外のこれら大型MS運用が決まったため、壁面の損傷が懸念され、急遽タイヤがくくりつけられたのではないだろうか。
宇宙運用艦は、気密に関わることだと、なりふり構わないのだ。
ラー・カイラムとはどんな意味か、どこの公式資料にも載ってないけどきっとコレ
νガンダム、サザビー双方が武装を失ったこのタイミングで、このラー・カイラムのクルーが仕掛けた次元装置が起爆する。
ラー・カイラムとは、ラーを「The」などの定冠詞とするなら、カイラム(Caelum)は「彫刻具座」という88星座のひとつの名前である。
彫刻具は、ここでは鑿(のみ)を意味する。
その名のごとく、彼らはアクシズを割り砕く鑿の役割を果たし仰せたのだ。
ラー・カイラムは、艦首の形状も鑿に似ている。
艦隊を構成するクラップ級軽巡洋艦として「ラー・キェム(カイム)」と「ラー・ザイム(ケイム)」がいる。
キェム(came)はステンドグラスの鉛線の意味だ。
ザイム(seam)もステンドグラスの接合部を意味する。
艦隊を補強するための枠と、それを繋ぐ役目を願われた名前であろう。
そして、後にこの宙域には、それこそステンドグラスのごとき虹色の宝石光が広がる。この二隻の艦には、サイコフレームの光を観測する者としての役割が予言されているのかもしれない。
※ラー・カイムと、ラー・ケイムは、wikiにも載っていますが、本編の音声を聞く限り「ラー・キェム」「ラー・ザイム」と聞こえます。ご指摘もあり、こちらで表記します。
「ラー・チャター(chert)」は「チャート石」つまり砥石のことだ。
鑿の切れ味を保つために、この艦はラー・カイラムの盾となって沈んだ。
(カイラムという言葉を検索しても、特に意味のある言葉がでてこない。キェムもザイムもチャターも、公式見解は見当たらなかった。先の解釈は妄想だが、筆者は鑿とそれに関連する使命を授かった名前が、本当に相応しいと思う)
見事にアクシズを断ち割ったラー・カイラム。
炎の噴き出すアクシズで、シャアとアムロの「戦闘においての決着」がつき(詳しくは次回)、シャアのアクシズ落としは阻止されたかに思われた。
しかし、天はその修正をゆるさない。
以下内容
「殴りに殴ってサザビーの脳をほじくり出すアムロの優しさ」
「対等のモビルスーツで戦いたいと言ってたのに、いざ負けると強がって負けを認めないシャア」
「そんなシャアを理不尽な人生ごと受け止めるアムロの、鍛えられすぎた理不尽耐性」
「カミーユに言われた辛辣な御意見が象徴するシャアの生涯を、まるごとひっくり返して見せるアムロの男ぶり」
「『情けないモビルスーツ』の意味は、実は三つある」
「大佐の命が吸われていきます、というわりに元気なシャア。これどういう意味?」
「ジェガン隊のみなさんの手前、カッコイイ台詞で誤魔化しはじめるシャア」
「泣きながらウソをついている、シャアの最初の『わかるんだよ』」
「『逆シャア観るんなら、1stとZだけでいいよ、ZZは別に観なくていい』なんて言ってる子はいないかな?」
───の、ええと9・・・、いや、たぶん12本くらいです。
・・・・・・というつもりでしたが、長すぎたので分割しました。③と④で前後に別れます。
