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『「死後生」を生きる』柳田邦男

   

ひとり遅れの読書みち  第77号

 『ガン回廊の朝』『犠牲―わが息子・脳死の11日』『マッハの恐怖』など、人の生と死を見つめて、長年作品を発表しているノンフィクション作家の柳田邦男が、人生は死で終わるのではなく「死後生」を生きる、と訴えている。
 「死後生」とは何か―。
 人は死によって肉体を失う。だがその人の生きた証である生き方や行為、言葉、周囲に寄せた愛や思いは、家族や親密な関係にあった人々の心のなかで消えることなく生き続ける。そのことをしっかりと位置づけるために柳田が作り上げた言葉だ。
 深く心の通い合った家族や親友や師弟の間では、「死後生」の存在感は、「決して観念的なものではなく、極めてリアリティに満ちたもの」と強調する。辛いことや困ったことに直面すると、「あの人はこういうときには、いつもこうやっていた」とか、「いつもこんな言葉でストレスを乗り越えていたなぁ」と、遺された人は思い返し、自分が生きなおす道を見出す例が少なくない。「人は死で終わる」ことなく、「死後も遺された人の人生を膨らませる」かたちで、「成長を続ける」との考え方だ。著名な方から無名の人まで多くの人の「死後生」の具体例を証している。

 柳田によると、「いのち」には、生物学的な「生命」と精神性の(感情を含む)「いのち」というふたつの側面がある。後者の精神性の「いのち」こそ、人間と他の生き物との違いを決定的に示すものという。

 1970年代から広く唱えられてきたライフサイクル論によると、人間というのは、生まれて、幼少期を過ごし、徐々に社会性や知識を身につけて、青年期、中年期、壮年期と進み、人生のクライマックスを迎える。人間は壮年期を過ぎると人生下り坂で、体力が衰え、社会的な地位を失い、さらに病気を背負ったら急速にカーブが下がっていってゼロの地点、つまり死で終わるという見方だ。
 しかし、柳田はこれは間違っていると断言する。「人間の精神性のいのち」は、その人が高齢になって社会的な地位が失われようと、病気になろうと絶えず成長する。成長、成熟の曲線は、壮年期以降もゆるやかに上昇を続けるというのだ。たとえ肉体がなくなっても、「その人の成熟への道を歩んだ生き方や遺した数々の言葉」は、次の時代を生きる人たちの心の中で生き続け、そうした人たちの「人生を変え膨らませさえする」「死後も人々の心の中でなお生き続ける」と確信の言葉を記す。

 人の死については、2方面を考える必要がありそうだ。死を前にいかに生きるか、また大切な人を亡くした後をどう生きるかだ。
 ともに「死後生」という視点が活かされると柳田は考える。前者については、死が間近に迫っていても、それで終わりではないと受け止めることができる。柳田は本書を執筆するとき88歳だったが「死は決して恐れるものではありません」と断言している。後者については、「死後生」が遺された人々の中で生きていると指摘する。
 課題としては、「さよならなき別れ」と「生死不明のあいまいな喪失」にどう対応するかだという。コロナの時には、面会できないままに別れが訪れることが多かった。死亡した際に、親族でも顔を見たり身体に触れたりすることができなかった。また災害にあったとき、行方不明の状態が続くケースもある。こうした人々をどうケアするか。今日的課題と捉えている。

 柳田が提唱しているのは、「2.5人称」の視点だ。社会全体が、事件や災害、事故、人権侵害などの犠牲となった人や家族に対して「寄り添う姿勢」を持つことが大切であり、そこでは、「いのち」を「誰のいのちか」という視点で整理して「2.5人称」の視点を持つことが重要と説く。
 「いのち」の意味づけは、「1人称(私)」「2人称(あなた)」「3人称(彼、彼女)」で違ってくる。1人称の本人は、重症患者なら「あと何日生きられるか」と考えるだろうし、2人称の家族や恋人になると、大事な人があと少しで死ぬ、その後どうやって生きていくかなど思う。3人称なら、例えば医師なら治療をどうするかと考えるだろう。
 柳田の言う「2.5人称」の視点とは、「これが自分のことだったら……」「家族が同じ状況に置かれたら……」と想像してみること。そうすれば「もっと共感し合える社会」になるのではないか、という思いだ。無論、感情移入し過ぎると「燃え尽き症状」を引き起こすこともあるので、ある程度の距離をとって冷静、客観的に活動する必要がある。

 「死後生」を、読者はどう見るか。希望あるいは慰めとして感じるか、または理解できないとして否定し反発するか。さまざまかもしれない。ただ貴重な視点として、心に留めておきたいと思えることは間違いない。
(メモ)
「死後生」を生きる
人生は死では終わらない
柳田邦男
2025年1月30日第1刷発行
発行 文藝春秋

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