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碧空戦士アマガサ 第1話「邂逅」 part4

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 それから程なくして。
 周辺のカメラ映像から、意外にもあっさりと"アマガサ"の現在地が特定され、晴香とタキは車で現場に急行した。

 そこはオフィス街の中央、様々なオフィスビルに囲まれた広場のような場所だった。車内からざっと見回しただけでも、結構な数のサラリーマンが付近を歩いている。

『そのあたりのカメラに、5分ほど前に映ってました』

 車内無線越しに乾の声。助手席の晴香は「了解」と応えたが、なにやら思案顔だ。
「……てっきり、あいつがいるだけでカメラがブラックアウトするのかと思ったが……」
「あー確かに。流石にそんな幽霊みたいなことはなかったみたいっスね」

 話しながら、二人は車から降りようとした──その時だった。

 ボタッ。

 フロントミラーに、雨が落ちた。

 晴香は目を見開き、動きを止める。周囲のサラリーマンが空を見上げている。外は明るいのに、フロントミラーには大粒の雨が降り注ぎ始めた。

「姐さん、これ…!」「天気雨…!」晴香とタキが同時に声をあげる。

『…ザッ…晴香さザザッ…まさザッ』

 車載の無線が急激に不安定になり、乾の声が途切れた。雨はすぐに土砂降りになり、周囲を瞬く間に濡らしていく。サラリーマンたちは慌てて軒下へと退避を始める。

 晴香が降りるか否か悩んでいると……屋外の動きに変化が起きた。

 サラリーマンたちがピタリと動きを止め、急に殴り合いをはじめた。

「おいおい……こいつはまさか」
「"ケース02"!?」
 思い当たった晴香の言葉を、タキが継いだ。

 ケース02"殴り合う町"。突如暴徒化した人々が互いに殴り合い、町全体が全員が気を失うまで終わらない戦場と化す──超常事件の中でも広範囲、かつ被害の大きな事件だ。二人は車内から周囲を見回す。サラリーマン以外にも、付近に居た奥様方まで暴徒化し、殴り合いに参加している。遠くから自動車がぶつかる音が聞こえてくる。

「……やばいぞ、かなり広い範囲に影響が及んでいる」

「鎮圧するにも、俺たちだけじゃ無理っす」

「ここは一旦……」離脱、と言いかけて、晴香は言葉を止めた。

 その視線は暴徒たちが群がる軒下──駐輪場かなにかのようだ──に注がれている。
 そこには、泣きじゃくる子供の姿があった。

「……っ!」

「あっ! 姐さん!?」

 気づけば、晴香はドアから飛び出していた。雨が顔に当たる。

 ──ズグン。

 異変は5秒ほどで発生した。視界が赤く染まり、頭の中を無数の虫が這い回るような不快感が襲いかかる。なにかが砕ける音、人々の悲鳴、怒号、銃声、肉が潰れる音……様々な音が洪水のように晴香を苛み、追い込んでいき──天気雨の下で、晴香は歩みを止めた。

「えーっと……この暴力ゴリラ!」

「──っんだとこらタキィ!」

 暴徒化しかけたところで聞こえたタキの声に、晴香は反射的に怒鳴った。

「……っ!」

 正気に返った彼女は、急ぎ軒下に転がり込む。振り返ると、タキが窓から手だけ出してピースしていた。

「あとでシバく」と晴香は笑い、少女を取り囲む暴徒たちの只中へと飛び込んだ。少女を掴もうとしていた男の顔面に拳を叩き込むと、その身を抱きしめ離脱する。

「無事か?」

 腕の中の少女は、泣きながらこくりと頷いた。晴香は雨のかからぬ物陰に少女を隠し、暴徒たちの前に躍り出る。その視線が一斉に彼女を捉える。

「寄って集って子供を泣かせやがって──」

「うおお!? ちょっ……やめろ!」

 晴香の声を遮り、タキの悲鳴が広場に響いた。見ると、暴徒たちが車に群がり、タキを引きずり出そうとしている。

「タキ!」

 注意がそれた晴香の頭を、暴徒の角材が打ち据えた。ぐらついたところを他の暴徒が殴り飛ばす。次々に降ってくる拳や蹴り。晴香は声すら上げられず打ちのめされる。

「ちっ……くしょ……」

 ついには暴徒たちが晴香の手足を掴み、雨の中へと放り出してしまった。

 呻く晴香の視界が再び赤く染まる。

 脳裏にあの不快な"音"が響きはじめる。

 精神が苛まれ、追い込まれ、意識が遠ざかり──

「──大丈夫。止まない雨はないよ」

 声と共に、"音"が消えた。顔を上げた晴香の眼前には、唐傘を差した男──"アマガサ"が立っていた。まるで周囲に傘状のバリアでも張られているかのように、雨が空中で弾けて消えていく。

 周囲にいた暴徒たちは……いや、それだけではない。タキの車を取り囲んでいた者たちも、その全てが倒れ伏し、沈黙していた。

「お前……」

「来るのが遅れてごめんなさい。でも、もう大丈夫」

 睨む晴香に、"アマガサ"は微笑む。今度のそれは、作り笑顔ではなかった。

「雨を止めるのが、傘の役目だ」

 起き上がった晴香の周囲にバリアを残し、彼は広場の中心に歩み出ると声を上げた。

「出てこい! いるんだろ!?」

 土砂降りの天気雨の中、その声はしばし広場に木霊し──一呼吸置いて、風景が滲みはじめ、アマガサの眼前10mほどの空間に"それ"らが出現した。

「怪……人?」
「彼らは雨狐──こないだあなたに大怪我を負わせた張本人」

 起き上がった晴香の呟きにアマガサが答える。

 それらは、人型の"なにか"の群れだ。顔と狐面が一体化し、髪はなく、代わりに頭部を黒い鱗が覆っている。着流した白い浴衣の隙間から見える皮膚も同様だ。足元は水を入れすぎた絵の具のように滲んでおり、判然としない。

 そのような怪人が、30体ほど。そして、その中でも中央にいる3体は少し豪奢な格好で──一体は鎧武者のような、もう一体は神社の神主のような、そして最後は花魁のような、別格の佇まいだ。

 アマガサは、手にした傘の先端を鎧武者に向け、言い放った。

「やっと会えた──"原初の雨狐"」

***

次回予告

超常事件の犯人である怪人・雨狐。そしてその頭目・原初の雨狐との邂逅。
市民を守るために戦おうとする晴香を押し退け、100を超える怪人を相手に一人で戦いを挑むアマガサを見て、晴香は──
「俺は天野湊斗。お前たち雨狐の天敵だ」
「出てこい、アマヤドリども!」
「こいつらは俺の敵です! あなたが戦う必要なんてない!」
「ぐだぐだうるせえ! 一般市民は引っ込んでろ!」

次回、碧空戦士アマガサ

『湊斗』


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