見出し画像

自制心・やり抜く力の正体―グリットとセルフコントロールの落とし穴―

OECDが示す非認知能力(社会情動的スキル)の3要素の一つに、「目標を達成する力」があります。

今回は、この力に関係するものとして、次の二つを取り上げます。

  • 自制心・セルフコントロール

  • グリット(やり抜く力・粘り強さ)

自制心とセルフコントロールの違いはややこしいので、この記事では、ひとまず「自分の感情や行動をコントロールする力」と捉え、これらを含めて「自己制御」と呼ぶことにします。

「我慢できる子は、将来うまくいく」
「粘り強く努力できる子を育てることが大切だ」

このような話を聞いたことがある先生も多いかもしれません。

しかし、自己制御やグリットについて調べていくと、単純に「我慢できればよい」「諦めなければよい」とは言えないのです!

自己制御といえば「マシュマロテスト」?

自己制御の研究として、よく知られているのが「マシュマロテスト」です。

幼児の前にマシュマロを一つ置き、大人が次のように伝えます。

「私が部屋に戻ってくるまで食べずに待てたら、もう一つマシュマロをあげるよ」

子どもは、大人が戻ってくるまで10~15分ほど待たされます。

もちろん、途中で食べてしまう子もいます。一方で、最後まで我慢する子もいます。
以下の動画は、マシュマロテストを再現したものです(実際の研究の映像ではないことに注意)。ぜひ見てみてください。癒されますよ~~~☺笑

この実験に参加した子どもたちを追跡調査したところ、幼児期にマシュマロを我慢できた子どもは、そうでなかった子どもに比べて、青年期の対人スキルや問題への対処能力、ストレスへの対処能力が高かったと報告されました(ミシェルの研究)。

こうした結果から、

「幼児期の自己制御能力が、その後の人生に大きく影響する」

という論調が広がっていったのです。

マシュマロを我慢できれば、本当に将来うまくいくのか

ところが、その後、この研究結果を疑問視する声も出てきました。

京都大学の森口佑介先生が、その議論を分かりやすく整理しています(森口, 2019・2021)。

ニューヨーク大学のワット博士らは、マシュマロテストと同じような条件で研究を行いました。
その結果、家庭の経済状態や子どもの認知機能などを考慮すると、幼児期のマシュマロテストの結果が、その後の非認知能力に与える影響は、それほど大きくないことが分かりました。

つまり、マシュマロを我慢できたかどうかより、家庭の経済状態や認知機能などの影響が大きかったということです。

さらに、のちの別の研究によって、マシュマロテストは「他者への信頼」という要素が大きいことも分かっています。

子どもは、実験者に対して、

「この人は、本当に戻ってくるのかな」
「待っていたら、本当にもう一つマシュマロをくれるのかな」

そのように考えている可能性もあるわけです。この研究では、マシュマロテストの結果には、自己制御よりも他者への信頼の方が大きく影響していることが示されました。
つまり、他者を信頼する子どもの方が、将来の問題行動が少ないことも分かったのです。

では、自己制御は大切ではないのか?
もちろん、そうではありません。

自己制御の重要性を示す研究は、ほかにもあります。

自己制御は「目標達成に向けた自己コントロール」を広く表す概念であり、さまざまな意味を含みます。

今回は、その自己制御を考えるうえで重要なキーワードとなる「実行機能」という脳の働きについてフォーカスし、その働きと育て方について解説します。

長期的な目標に向かう力「グリット」

今回取り上げるもう1つの内容が、「グリット」です。
先ほど述べていた自己制御を、より長期的な目標に向けて発揮する力として考えられるのが「グリット」です。
ペンシルベニア大学のダックワース教授が提唱した概念で、困難や失敗があっても「やり抜く力」と訳されることがあります。

これまでの研究では、グリットが高い人ほど、困難を乗り越えて長期目標を達成できることが明らかにされています。

また、グリットが次のような結果と関連することが報告されています。

  • 成績

  • 学歴

  • 困難な課題の完遂

  • ウェルビーイング

困難な時代を生き抜くにはまさに必須!という感じではあるのですが…
実は、落とし穴があるのです。

グリットの「ダークサイド」!?

グリットには多くのポジティブな結果が報告されています。
しかし、「グリットのダークサイド」(Datu, 2021)と呼ばれる側面もあります。

特に、失敗が起こりやすい状況でグリットが高いことは、精神的な消耗を高めるというネガティブな側面を持っていることが明らかになっています。心がすり減っちゃう…ということですね。

また、高いグリットと忍耐力が、自ら命を絶つ行為の未遂を予測したという結果もあるそうです。
また、グリットが過剰に高い場合、燃え尽き症候群の中でも、人との関わりで疲れやすくなったり、チームに対するネガティブ感情が傾向が強くなることも分かっています。

粘り強く取り組むことが、常に望ましいわけではないわけですね…。

「悪いグリット」もある!?

さらに、最終的には不適応な結果をもたらしてしまう「悪いグリット」(Miller, 2017)もあるそうなのです!
次の三つです。

虚栄グリット

周囲からの称賛を過剰に求めるがために、成し遂げていないことまで成し遂げたかのように偽ってしまうグリットです。目標そのものではなく、自分を大きく見せることが中心になっています。

強情グリット

長期的な目標を、状況が変わっても強情に頑なに追求し続けるグリットです。目標を変更した方がよい状況でも、「一度決めたのだから」と固執しちゃう感じですね。

セルフィグリット

困難な目標に取り組む自分が素晴らしいと演出することが目的化しているグリットです。「セルフィ」ですから「地鶏」「自撮り」という比喩ですね。
「こんなに苦しいのに諦めない私、どう?」って感じでしょうか…汗

1つ目は、そらあかんやろ…という感じですが、「強情グリット」などは真面目な人でもあり得る話ですし、「セルフィグリット」はやり抜くこと自体は実際やっているわけで、無意識にそんな気持ちになっていることはあるかもしれませんね。

グリットを考えるときには、このような負の側面も理解しておく必要があります。

※以上の内容は以下の論文にも詳しいです。

以上、見てきたように「非認知能力」と言われているものでも、「負の側面」に陥る可能性もある、ということです。

そのことを前提にしながら、
「自己制御(自制心・セルフコントロール)」そして「グリット」を建設的に育てていくにはどうすればよいか、ポイントを解説していきます。


実行機能には二つの側面がある

ここから先は

6,056字 / 2画像
この記事のみ ¥ 500
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

「次期学習指導要領をどう校内研究に落とし込むか」「自己調整学習の理論を先生方にどう伝えるか」「校内研…

インプット会員(ライト)

¥500 / 月

実装会員(スタンダード)

¥1,000 / 月

よろしければサポートお願いします!