週刊アンチ・ドーピング通信 #3|レクリエーション競技者とクリーンスポーツ
## はじめに
こんにちは、TechKeepです。今週のアンチ・ドーピング情報をお届けします。
前号の第2号ではドーピングの正式定義と11の違反行為を解説しました。
突然ですが、筆者は趣味でトライアスロンをやっています。今年の初戦は4月12日の石垣島トライアスロン。スイム1.5km・バイク40km・ラン10kmのスタンダードディスタンスです。
もちろん国際大会を目指すようなトップ選手ではありません。完走を目標に楽しむ「市民アスリート」です。同じような立場の方、多いのではないでしょうか。
4月は沖縄トライアスロンシーズンの開幕です。石垣島(4/12)に続いて、翌週には伝統ある全日本トライアスロン宮古島大会(4/19・第40回)も控えています。どちらもJADA加盟団体である公益社団法人トライアスロンジャパンの公認大会です。
今週は「自分のようなレクリエーション競技者にとって、アンチ・ドーピングはどう関係するのか?」を考えてみたいと思います。
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## トピック① JADAが定める「レクリエーション競技者」とは
JADA(日本アンチ・ドーピング機構)が運営するクリーンスポーツ・アスリートサイト(realchampion.jp)では、アスリートをいくつかのカテゴリーに分けて情報を提供しています。
そのカテゴリーの一つが「レクリエーション競技者」です。公式サイトでは、次のように説明されています。
レクリエーション競技者とは、スポーツや体を動かすことを楽しむスポーツ愛好家や、地域大会・市民大会などに出場する人のこと。つまり「国内最高レベルの競技会」以外の大会に参加する人は、基本的にこのカテゴリーに該当します。
石垣島トライアスロンや宮古島トライアスロンに出場する多くの市民アスリートも、このレクリエーション競技者に含まれるでしょう。
そしてJADAは、レクリエーション競技者のことを「スポーツ文化を支え、スポーツを社会的な財産としても創造していく重要な存在」と位置づけています。トップアスリートだけがスポーツを支えているのではなく、私たちのような市民アスリートもスポーツ文化の大切な担い手だということです。
参考:JADA クリーンスポーツ・アスリートサイト「レクリエーション競技者」
https://www.realchampion.jp/who/recreational.html
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## トピック② 「自分には関係ない」が一番もったいない
レクリエーション競技者に対してJADAが伝えているメッセージの中で、特に印象的なのがこの部分です。
避けるべき姿勢として「自分はトップレベルでもないから、関係ないや」と他人事として捉えることが挙げられています。
ドーピング検査を受ける可能性が高いかどうかは、確かに競技レベルによって異なります。しかし、アンチ・ドーピングの本質は「検査に引っかからないようにすること」ではありません。
クリーンスポーツとは何か。なぜアンチ・ドーピングという仕組みが存在するのか。それを考え、学び、周囲の人に伝えていくこと。JADAが推奨しているのは、そういう姿勢です。
レースに出る以上、自分が口にする薬やサプリメントに少しだけ意識を向けてみる。それだけでも、クリーンなスポーツ環境づくりに参加していることになります。
> 薬剤師ポイント:JADA加盟団体の公認大会では、アンチ・ドーピングのルールが適用されます。公益社団法人トライアスロンジャパンはJADA加盟団体です。トップ選手でなくても、ルールの存在を知っておくことは大切です。
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## トピック③ レース前にできる簡単なセルフチェック
「じゃあ具体的に何をすればいいの?」という方に、まずおすすめしたいのがGlobalDROです。
GlobalDRO(https://www.globaldro.com/JP/search)は、JADAが提供する薬の検索サイトです。薬の名前を入力するだけで、その薬が禁止物質に該当するかどうかを確認できます。
たとえば、レース前に風邪をひいてしまった。花粉症がつらくて薬を飲みたい。そんなとき、手元の薬をGlobalDROで検索してみてください。
市販の風邪薬の中には、禁止物質に該当する成分(たとえばエフェドリンやメチルエフェドリンなど)が含まれているものがあります。すべての市販薬が問題になるわけではありませんが、「使用する前に調べる」という習慣があるだけで安心感が違います。
また、サプリメントについては注意が必要です。サプリメントは医薬品と異なり、すべての成分を表示する義務がありません。禁止物質が意図せず混入しているリスクがゼロとは言い切れないため、必要な栄養素はできるだけ食事から摂ることが基本です。
### 「使用可」=「安心して飲める」とは限らない ── ロキソニンの例
レクリエーション競技者からよくいただく質問に「ロキソニン(ロキソプロフェン)を飲んでレースに出ても大丈夫ですか?」というものがあります。
アンチ・ドーピングの観点だけで言えば、ロキソプロフェンは禁止物質ではありません。競技会時・競技会外ともに使用可です。
しかし、薬剤師の立場からお伝えしたいのは「禁止されていない」と「レース中に飲んで安全」は別の問題だということです。
トライアスロンのような長時間の持久系スポーツでは、大量の発汗により体は脱水傾向になります。この状態でロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用すると、以下のようなリスクがあります。
- 腎臓への負担:NSAIDsは腎臓の血流を低下させる作用があります。脱水で腎臓に負担がかかっている状態でさらに血流が減ると、急性の腎機能障害を起こすおそれがあります
- 電解質異常の悪化:長時間の発汗で電解質バランスが崩れているところに、NSAIDsが加わることで異常が悪化する可能性があります
- 胃腸へのダメージ:運動中は消化管への血流が減少しています。そこにNSAIDsの胃粘膜への刺激が重なると、胃腸障害のリスクが高まります
そしてもう一つ、見落としがちな問題があります。痛みは身体が発する「これ以上は危険です」というサインです。鎮痛薬でその信号を抑えてしまうと、本来なら止まるべきタイミングで無理を続けてしまい、ケガや体調の悪化を招くおそれがあります。
レース前・レース中の痛みが気になる場合は、自己判断で鎮痛薬を飲むのではなく、事前にスポーツファーマシストや医師に相談することをおすすめします。
### 「使用可」でもパフォーマンスを下げる ── 酔い止め薬(アネロン)の例
もう一つ、トライアスロンならではの事例を紹介します。
オープンウォータースイムでは、波のうねりで「波酔い」を起こす人が少なくありません。そこで市販の酔い止め薬を飲んでスタートする方がいます。代表的な製品がアネロン「ニスキャップ」です。
アネロンに含まれる成分もアンチ・ドーピングの禁止物質には該当しません。こちらも使用可です。
しかし、アネロンには眠気を引き起こす成分が2種類入っています。マレイン酸フェニラミン(第一世代抗ヒスタミン薬)とスコポラミン(副交感神経遮断薬)です。どちらも単独で眠気を起こす成分で、この2つが同時に作用すると、強い眠気や注意力の低下につながります。
トライアスロンのスイムはプールではなく海や湖など屋外で行われます。波やうねりの中で周囲の選手と接触しながら泳ぐオープンウォーターでは、判断力や反応速度がとても重要です。眠気で注意力が鈍った状態は、パフォーマンスの低下だけでなく安全上のリスクにもなりえます。
さらに、薬の効果はスイムだけで切れるとは限りません。バイクやランのパートまで眠気が残り、集中力が落ちた状態で長時間の競技を続けることになる可能性もあります。
> 薬剤師ポイント:GlobalDROで「使用可」と表示されても、それは「アンチ・ドーピング規則上、禁止されていない」という意味です。競技の種類や身体の状態によっては、医学的に避けたほうがよい薬もあります。スポーツファーマシストは禁止物質の確認だけでなく、競技特性を踏まえた服薬のアドバイスもできます。ぜひ気軽に相談してみてください。
> アスリートへのヒント:GlobalDROの使い方はとても簡単です。薬の名前(製品名または成分名)を入力して検索するだけ。薬を使用する前に、まずチェックする習慣をつけましょう。
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## まとめ
今週のポイントをまとめます。
- JADAはアスリートを複数のカテゴリーに分けており、市民大会に出場する人は「レクリエーション競技者」に該当する
- レクリエーション競技者は、スポーツ文化を支える重要な存在
- 「自分には関係ない」ではなく、クリーンスポーツとは何かを考え、学ぶ姿勢が大切
- 「使用可」=「安心して飲める」ではない。ロキソニン(脱水時の腎負担・痛みのマスキング)、酔い止め薬(眠気による判断力低下)など、競技特性を考えた判断が必要
- 薬を使用する前にGlobalDROでチェックする習慣をつけよう
- 不安なことがあればスポーツファーマシストへ相談を
4月12日の石垣島トライアスロン、4月19日の宮古島トライアスロンに出場される皆さん、一緒にクリーンなレースを楽しみましょう。
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## 著者プロフィール
**TechKeep_pharma**
JADA認定スポーツファーマシスト・薬剤師
IRONMANみなみ北海道2024完走
アスリートへのアンチ・ドーピング相談・教育活動を行います。
Kindle書籍「薬剤師・薬学生のためのアンチ・ドーピング入門」準備中
X:https://x.com/TechKeep_pharma
note:https://note.com/techkeep_pharma
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## ご利用にあたって
禁止表国際基準は最低年1回、WADAコードも随時改訂されます。
当アカウントは正確な情報発信を心がけていますが、最新情報は必ずGlobalDRO・JADAの公式情報でご確認ください。
ドーピング違反に関わる最終判断は、アスリート自身の責任において行われます。
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