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ミステリー小説『誤認逮捕状』第三章 十六

十六
 昨夜は、池守との面会でメモしておいた内容を、何度も見返した。
 同時に、今後の予測を入念にシミュレーションしていた。
 そうしている間に、いつの間にか眠りについていたのだった。
 窓もなく、時計もないので時刻がわからない。ただ、かなり長い間、寝ていたと思われる。頭も身体も、すっきりしていたからだ。
 こんな環境下でもしっかりと休息できたことは、元哉にとって幸いだった。
 昨日と同じように、朝食の配膳が行われる。
 まったく同じメニューだったが、しっかりと食べ切った。
 憔悴しきっていた昨日とは、あきらかに異なる精神状態にある。
 その原因は、池守の存在だ。
 彼女のおかげで、今の自分がどういう立場にいて、今後、何を目指せばいいかが明確になった。
 扉の開く音がした。
「出ろ」
 配膳時と同じ制服警官が、元哉を呼びに来た。
「どこに行くんですか?」
 無言のまま手錠を取り出すと、警官はそれを元哉の手にかけた。
「ちょ、ちょっと」
 さらに後ろに回り込むと、腰縄までつけてきた。
「何なんですか、これ?」
 元哉はそのまま外に連れ出され、停まっていた護送バスに押し込まれた。
 窓には格子がはめられている。
 飯能署を出発したバスはいくつかの警察署を巡り、同じように手錠と腰縄を付けられた男たちを回収していく。
 最終的に、元哉は川越市にある検察庁へ、その後には簡易裁判所へと連行された。
 検察でも裁判所でも、窃盗についての事情聴取が行われた。
 どちらにおいても、元哉は全面的に容疑を認め、反省の弁を述べた。
 事実であり、なにより下手に抵抗して心象を悪くするのは得策ではないと考えたからだ。
 その甲斐あってか、検察の取り調べも裁判官の面談も、拍子抜けするほどあっさりと終わった。
「これで、明日の朝までには釈放かな」
 裁判官との面談を終え、しばらく待つように言われた元哉はほくそ笑んだ。
 あとは池守を通じて、会社と示談すればいい。
 職は失うだろうが、また見つければいいだけの話だ。
 いや、時間軸的に見つけるまでもない。
 もしくは、アルバイトで食いつなげばいいだろう。
 そんな算段を頭に描いていると、裁判官が戻ってきた。 
 差し出された一枚の紙を見て、元哉は絶望の淵に追いやられた。
《さらに十日間、飯能警察署に勾留する》
「……なぜですか。私は全面的に容疑を認めて、反省していると言ったはずです」
 必死で裁判官に訴える。
「あなたが容疑を認めたのは、オワダセイジさんの証言の後からです。警察の初期の取り調べ時、また逮捕直後も、あなたは一貫して容疑を否認していました」
 まるで感情をどこかに置き忘れたかのように、裁判官が冷徹に理由を述べる。
「また、所々であいまいになる供述には、合理的な理由が認められません。事案の全容解明のため、検察官の請求通り十日間の勾留を決定しました」
 目の前が真っ暗になる。
 さらに十日間、あそこで過ごさねばならないのか。
「本決定に不満があれば、弁護人を通じて、不服申し立てをすることができます」
 もはや、裁判官の声は半分しか元哉に届いていなかった。
 来た時と同じバスに乗り込み、いくつかの警察署を回って飯能署に戻ってきた時には、すでに日が暮れ始めていた。
「弁護士を呼んでください」
 留置場に入るや否や、そう伝えると、元哉は薄っぺらい布団に横になった。
 目を閉じるが、眠気はない。
 自分と外部をつなぐ存在である池守だけが、唯一の希望だった。

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