米津玄師「IRIS OUT」が時代をブチ抜いた3つの理由
2025年の大晦日、第76回NHK紅白歌合戦。そのハイライトの一つは、間違いなく、米津玄師「IRIS OUT」の世界初披露パフォーマンスでした。
廃止されたばかりの東京高速道路(KK線)を舞台に、電話ボックスから漏れ聞こえる「JANE DOE」の宇多田ヒカルの歌声に始まり、HANAのメンバーを含む100名のダンサーと共に繰り広げられたカオスな祭りへ。そしてサメの悪魔を彷彿とさせる乗り物での疾走からの、花火!
SNS上を「カッケーとカワイイの大渋滞」と沸かせたこのパフォーマンスは、あまりに衝撃的。まさに「何だったんだ、今のは!」って感じでした。
でも、それ以前からこの「IRIS OUT」は破格の成功を収めていたことも忘れてはいけません。
リリース後わずか数週間でストリーミング累計1億回再生を突破し、日本の配信史上でも最速クラスの到達速度に。Billboard JAPANおよびオリコンの主要チャートで長期間にわたり首位圏を維持しているだけでなく、海外でもBillboardのグローバル系チャートにランクインし、日本語楽曲としては異例の規模で再生数を伸ばしています。
僕は幸運にもこの「IRIS OUT」について、米津玄師さん本人にインタビューを行なっていました。その内容も踏まえ、この楽曲の何が特別なのかを書いてみたいと思います。
なぜ「IRIS OUT」はこれほどまでに聴く者を熱狂させるのか?
照沼健太
ポップアート2.0作家、YouTuber、音楽家。テレビ東京やNetflixのメディア運営、レディオヘッドら数々のアーティストのCD封入解説文、HIKAKIN、米津玄師、押井守、藤本タツキなどのクリエイターや多くのビジネスパーソンの取材を担当。2023年末からYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営(2025年9月末時点で登録者約6万人)。
「KICK BACK」超えの衝撃はなぜ生まれた?
#米津玄師 さんにインタビューしました!
— 照沼健太|てけしゅん音楽情報 (@TeKe0824) September 26, 2025
歴史的大ヒット「IRIS OUT」、宇多田ヒカルとの歴史的コラボ「JANE DOE」という『#チェンソーマン レゼ篇』2曲を中心に、2025年最新音楽モードや「J-POPの変化」について聞くことができました。
ぜひお読みください!@hachi_08https://t.co/VzDVpidQ4h pic.twitter.com/LTgAgI60tk
「IRIS OUT」についてまず注目すべきは、その圧倒的な数字です。
配信初日のオリコン・デイリーストリーミングランキングで413万6643回を記録。これは自身が「KICK BACK」で保持していたソロアーティスト歴代最高記録を自ら塗り替える数字です。さらにSpotify Japanのデイリーチャートでも59万6608回という歴代最多再生数を叩き出し、主要配信サイトで29冠を達成しました。
前作「KICK BACK」は、先日アメリカレコード協会(RIAA)からプラチナ認定を受けるという、日本語詞の楽曲として史上初の快挙を成し遂げたばかりの世界的代表曲です。
米津玄師は日本では「Lemonの人」かもしれませんが、世界的には「KICK BACKの人」なんです。
その続編とも言える楽曲を作ることは、あまりに巨大なプレッシャーを伴っていたはずです。
「『KICK BACK』 2になっちゃいかんなっていう気持ちは、すごく強くありました。どう差別化するかっていうのは気を遣った部分でもあるし、いろいろやっていくうちに森の中に迷い込むみたいな感じでした」
世界的な成功体験をなぞるのではなく、いかに別の道を示すか。彼が導き出した答えは、楽曲の構造的な対比でした。
「『KICK BACK』はどっか複雑怪奇なニュアンスがあって、ジェットコースターみたいな感じの曲になったんです。であれば、今回の『IRIS OUT』は、一直線にフリーフォールみたいにドンっと始まって、バッとそのままいって、パッと終わる。そういう“直線的な潔さ”みたいなものが出せたら差別化できるんじゃないかな」
その言葉通り、「IRIS OUT」はインスト曲を除けば自身のキャリアで最短となる2分32秒で駆け抜ける。
(インタビュー記事にその名残がありますが、僕が最初に聴いた時点では「JANE DOE」に繋がる無音部分がさらに数秒短かったです)
紅白のステージが一瞬の嵐のように過ぎ去り、「何だったんだ、今の!」となったのは、まさにこのような潔さゆえでしょう。
TikTokなどのショート動画や、ストリーミングサービスの普及によって「現代のポップ音楽のスタンダードは2分台の楽曲(とくに海外では)」と言われるようになって久しいですが、この「激流のような短尺曲」という点は、間違いなく「IRIS OUT」のヒットに寄与していると思います。
歌詞冒頭ですべてを物語る「現代人の葛藤」

曲名の「IRIS OUT(アイリスアウト)」とは、無声映画時代から使われている映像技法の一つ。シーンの終わりに画面が円形に黒く閉じていき、特定の対象にフォーカスして暗転する演出を指します。
この技法をタイトルに冠したこと自体が、本作のテーマである「逃れられない恋の衝動」と「視野が狭まるほどの没入」を見事に表現していると言えるでしょう。
その象徴が、歌詞の冒頭。「映画はファーストカットで決まる」という考えがありますが、この「IRIS OUT」もまさにそんな楽曲です。
駄目駄目駄目 脳みその中から
「やめろ馬鹿」と喚くモラリティ
ダーリンベイビーダーリン
半端なくラブ!ときらめき浮き足立つフィロソフィ
理性が警鐘を鳴らす一方で、感情はそれを無視して暴走する。
これは劇中の「レゼ篇」におけるデンジとレゼの関係性そのものですが、米津玄師さん本人は取材の中で、これを現代社会における「推し活」とリンクさせて語っていました。
「個人的に、“性欲みたいなものに対して忌避感を抱く”ことの、そこの周辺にあるのが“推し活”とかそういう営みな気がするんですよね。(中略)『触れるのもおこがましい』っていう“神様”みたいな側面がありつつも、同時にやっぱり性愛的な特徴を宿していないと…っていうのは、事実としてあると思うんですよね」
「推し」を、ルネサンス期の宗教画や神話画における“触れてはいけないが肉体的な神”に見立てる。この鋭い洞察が、歌詞の中に潜む〈アバダケダブラ〉(『ハリー・ポッター』の死の呪文)のようなフレーズに、現代的なリアリティを与えているように感じます。

そして2025年も数々のスキャンダルが世間を騒がせました。そのスキャンダルの多くは、根本に性愛とその葛藤を抱えています。
この点からも「IRIS OUT」は『チェンソーマン レゼ篇』抜きでも成り立つテーマを持った楽曲であることがわかるでしょう。
僕は2024年の紅白について、YouTube動画の中で「米津玄師は『さよーならまたいつか!』で出ると思う。でも、白組としてじゃない。楽曲やドラマ作品と合わないから」と話してその予測を的中させました。
その逆で、「IRIS OUT」は白組として歌うのにあまりにも適した楽曲と言えます。
米津玄師を囲む数十人規模のダンサーがほとんどみんな女性(ゲイと思われる男性ダンサーの姿もみられました)だったことも、楽曲からすれば必然でしょう。
誰もが持っている葛藤や、大っぴらに言えない欲望。それらを解き放つのはアートの一つの役目だと思いますが、「IRIS OUT」は見事にそれを成し遂げている。
これは『チェンソーマン』でのデンジの役割の一つでもあります。
ちなみに僕は米津玄師さんに2回、『チェンソーマン』原作者の藤本タツキさんにも同じく2回インタビューしていますが、米津さんと藤本さんについて「自分の内側に対して、強迫観念的にモラルの縛りを課している感じがする」という同じ印象を持っていたので、今回の「IRIS OUT」は最高の組み合わせだなと思いました。
スタジオジブリ『熱風』6月号で、藤本タツキ先生にインタビューしました!
— 照沼健太|てけしゅん音楽情報 (@TeKe0824) June 11, 2025
推薦コメントを寄せた映画『Flow』のほか、宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』をどう観たか。そして『チェンソーマン』『ルックバック』などの自作や創作・作家論についても伺ってます!🔥🔥🔥
ぜひご覧ください!👀⚡️ pic.twitter.com/06s5geFSZi
画竜点睛。「肉体」を感じさせる楽曲

激流のように一瞬で落ち切る楽曲構造とアレンジメント、現代人の抱える矛盾や葛藤を鋭くも軽やかに切り取ったリリック。
そこに最後に加わるのが、単純な話、「ダンスミュージックである」ことです。
僕はこの「IRIS OUT」の一部が予告編で公開された時点で「これはとんでもなく売れると思う」と直感しました。インタビューの場でも「めちゃくちゃ売れると思います」と米津さんに言いたいのを堪えて(なんか偉そうだし)、東京ドーム公演の感想を本人にお伝えしました。
米津玄師「IRIS OUT」、7月4日のスニペット公開の時点で「これは凄まじくヒットすると思います」と超先走って紹介したのがこちらの動画です。
— 照沼健太|てけしゅん音楽情報 (@TeKe0824) December 31, 2025
僭越ながら、耳の良さとヴィジョナリー性では界隈でも群を抜いている自負があります。
ぜひ今後ともチェックお願いします。https://t.co/QjZDnFGkkR pic.twitter.com/47kWmjJWWo
なぜ売れると思ったのか?
それは非常に直感的なものなのですが、おそらく最大の理由は「ダンスミュージックである」からです。
BPMは135。速めのハウスや、ちょっと前のテクノ(最近のテクノは速い!)のテンポで、明確に“踊れるBPM”に設定されています。
2025年の米津玄師楽曲といえば「BOW AND ARROW」「Plazma」があり、「IRIS OUT」にもこの2曲と通じるテーマが複数持ち込まれています(インタビュー参照)が、「BOW AND ARROW」「Plazma」はとにかくBPMが速い。ダンスミュージックの範疇からは外れる勢いです。
しかし、「IRIS OUT」ではダンスミュージックのBPMを保ちながらも、「BOW AND ARROW」「Plazma」を超える勢いのスピード感を実現している。これはさすがと言うほかありません。
これによって「激流のように一瞬で落ち切る楽曲構造とアレンジメント、現代人の抱える矛盾や葛藤を鋭くも軽やかに切り取ったリリック」に、「誰もが親しみやすく、楽しめる」感覚が加わっている。
🫵😭
— 米津玄師 ハチ (@hachi_08) December 12, 2025
「IRIS OUT」 #レゼダンス #チェンソーマン #RezeDance #ChainsawMan #IRISOUT pic.twitter.com/MvJv1z3Ypb
その最たる成果が「レゼダンス」であり、今回の紅白でのダンスパフォーマンスでしょう。
ダンスについて「人間が持つ動物的な身体性と、それを封じ込めようとする理性や社会規範との摩擦を伴う痙攣である」という考えがありますが、これって「IRIS OUT」という楽曲そのものじゃないでしょうか?
誰もが「都会のネズミ」である時代をまさに体現した楽曲、現象、それが「IRIS OUT」なのだと思います。
他にも米津玄師さんほか音楽関連の記事を書いていますので、ぜひフォローよろしくお願いします!
(照沼健太)
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