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Number_i『No.II』。2025年に謎を残した“ロードムービー”を全曲解説で振り返る

Number_iは3箇所に同時に存在する

ど真ん中、ボーダーライン、未確認領域

スタジオからライブ会場、歌番組に海外フェスまで、あらゆる場所や舞台を行き来しながら、今のJ-POPシーンで特異なポジションをあっという間に築いてみせたグループだ。

旧ジャニーズ事務所という“芸能のど真ん中”から飛び出し、インディーズでの再出発。ほとんどのCDショップには彼らのCDが並ぶこともなかった。しかし、それと同時に数々の歌番組に出演。……かと思えば88risingとともにコーチェラのステージに立つなど、そのイメージは一向に定まることがない。

僕たちはYouTube「てけしゅん音楽情報」で彼らのデビュー曲「GOAT」を紹介して以来、彼らを追いかけてきた。

しかし、正直今でも全くその像は掴めている気がしない。

同時に「その不確かさこそがエキサイティングであり、彼らの大きな魅力の一つなのではないか」とも思う。

そんな彼らの最新形が収められている作品が、昨年9月22日にリリースされた2ndアルバム『No.II』だ。

あえて端的に表現するならば「スキット(寸劇)を多用したコンセプチュアルなラップアルバム」といったところだろうか。

…ラップアルバム?

この記事では、本作の全曲解説とともに、彼らの不思議な魅力と存在感の正体に近いづいてもらう手伝いができたらと思う。

照沼健太
ポップアート2.0作家、YouTuber、音楽家。テレビ東京やNetflixのメディア運営、レディオヘッドら数々のアーティストのCD封入解説文、HIKAKIN、米津玄師、押井守、藤本タツキなどのクリエイターや多くのビジネスパーソンの取材を担当。2023年末からYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営(2025年9月末時点で登録者約6万人)。


全曲解説:4つのパートで巡る“未確認領域”

2025年のNumber_iは、シングルで瞬間風速を作ることよりも「アルバム」でという形式そのものを“遊び場”として再定義することを選んだように見えた。

本作『No.II』は、曲単体のわかりやすいパンチや、トータルのカラフルさを競う作品というより、スキットを挟み込みながら全体をひとつの体験に仕立てる、いわばロードムービー型のヒップホップ・アルバムだ。

しかし、スキットが多いこと自体が本作の核ではない点には注意が必要だ。

重要なのは、スキットが「曲間の飾り」ではなく、アルバムの要所要所で“重力”あるい“浮遊感”を与える不可欠なパーツになっていることだろう。

最初に“フライト”が提示され、メロウな中盤でソロ曲が心をほどき、後半は悪夢のように歪んだかと思えば、最後には高低差のある3連発で着地する。あるいは、新たな旅の始まりか?

こうした流れを、スキットが単なる説明ではなく、カメラの視点移動や、カット割りのような演出を通して作っているのだ。

また、本作を考えるもうひとつのヒントは、制作陣も含めた“チーム性”だ。

いわゆる外注の寄せ集めではなく、Number_iの3人と、彼らの大半の楽曲を支えるMONJOE、SHUN(FIVE NEW OLD)、Pecori(ODD FOOT WORKS)が「3人+3人」でチームを組んで作品世界を押し広げているのは、楽曲ごとに多様な作家陣を迎えることが当たり前となった最近のボーイズ/ガールズグループとしては珍しいポイントではないだろうか。

この密度が、ジャンルや表現の多彩さはあれどもアルバム全体の統一感を崩さない。こうして『No.II』は「曲ごとの飛び道具」ではなく、「音の鳴りそのものの統一感」で勝負する作品になった。

Part 1「離陸と追憶」(Tracks 1-4)

1. In-flight アルバムの幕開けは、なんと3分40秒にも及ぶ長尺のスキット。飛行機に搭乗する3人のわちゃわちゃした会話、岸優太の異常なハイテンションが、これから始まる旅の「非日常感」を演出する。全体的に笑いの要素が強いスキットだが、セキュリティチェックでの「仕事関係の人です…いや、友達です」というやり取りには、思わず感動した。

2. 未確認領域 (Number_i プロデュース) スキットからの美しいストリングスで繋がるオープニング・ナンバー。「太陽のように未完成」「夢の中も現実扱い」といったパンチラインは、あまりにも眩い。Apple Musicで配信されている空間オーディオ版では、様々な声ネタや環境音が飛び交い、フライトが始まった高揚感が倍増する。

3. ATAMI (神宮寺勇太 プロデュース) ラテンのリズムとジャズのフィーリングが融合した新境地。生バンドによる極上のサウンドに乗せて歌われるのは、熱海を舞台にした青春の追憶。「新生活のみんなもガンバ/知ったこっちゃないけど」という絶妙な距離感はやはり奔放かつ掴みどころがない。サビで平野紫耀が披露する自称“ゴリラボイス”の低音も新鮮だ。

4. Numbers Ur Zone (Number_i プロデュース) 前作『No.I』収録の「Numbers」の系譜を感じさせつつも、よりメロディック&コアに進化したヒップホップ/ダンスナンバー。シングル時よりもアルバムの流れで聴くことで、より一層その輝きが増す。

Part 2「甘い罠と覚醒」(Tracks 5-8)

5. 幕ノ内 和の要素とハードなビートが交差する短いインタールード。歌舞伎のような声ネタや踏切の音が、日本的なカオスを演出する。この「和」の要素はNumber_iの特徴の一つだ。

6. ピンクストロベリーチョコレートフライデー (平野紫耀 プロデュース) 前作アルバムに収録されたVaundy提供曲「透明になりたい」に連なる、ドリーミーなシンセが印象的なソロ曲。「ストロベリーチョコレート甘いまま
手についたからデニムで拭くばか」という自虐的なリリックや、夢と現実の境界で揺れる「会いたい」という感情。恋愛中とも失恋後とも取れる、甘く切ないミッドナイト・チューンだ。

7. LOOP (神宮寺勇太 プロデュース) プロデュースはtofubeats。神宮寺勇太自身が「tofuさんらしさを消さないためにオートチューンの塩梅にこだわった」と語る通り、デジタルとヒューマンな感覚の融合が見事。「心臓の音」のようなキックに乗せて恋に溺れていく様を描く点には、「ピンクストロベリーチョコレートフライデー」とセットのように感じられる部分も。

8. GOD_i (岸優太 プロデュース) 2025年1月に先行リリースされた楽曲。既発曲にして、もしかしたら最も驚かされた一曲かもしれない。シングルとして単体で聴くのとは別曲のように響くのは、まさにアルバムのマジックだ。そして、甘い恋愛ソングの2連続から、次のパートへの「不穏な予兆」として機能している点も見逃せない。

Part 3「悪夢と狂気」(Tracks 9-13)

9. KC Vibes (岸優太 プロデュース) 本作最大の問題作であり、怪作。「KC Vibes」という陽気なタイトル(KC=岸)からは想像もつかない、ダークでヘビー、そして攻撃的なトラック。Apple Musicのラジオ番組で平野紫耀が「怖い」と漏らしたのも納得の仕上がりだ「I'm a KC, you are KC
We are KC」と世界がゲシュタルト崩壊を起こしていくリリックは、岸優太というクリエイターの内面にある迷いやカオスがそのまま音楽になったようでもある。

10. Taboo 短いスキット。次の「Hard Life」への導入として機能する、Number_iの多忙な日常を感じさせる内容だ。

11. Hard Life (Number_i プロデュース) 初期カニエ・ウェストやPUNPEE(1stミニアルバムにも参加)を彷彿とさせるキュートなピアノ・ビート。しかし歌われているのは、仕事に忙殺され、映画『マルコヴィッチの穴』のように自分を見失いそうになるアイドルのリアルな苦悩。「Kick, Snare」と音楽要素を分解して歌うパートには、それでも音楽を楽しむ彼らの矜持が滲む。

12. Kick Snare Man 2 ホラー映画のようなスキット。平野紫耀が寝言で「Kick, Snare...」と言いながら怪物化し、メンバーを襲う悪夢。右チャンネルと左チャンネルで異なるリアクションが聴こえるなど、ミキシングが巧みな点も注目だ。

13. 2OMBIE (岸優太 プロデュース) アルバム後半にして「New Album No.II」というCMのようなイントロから始まる、いかがわしくもカッコいいトラック。「到底敵わない君には/だから俺 number two, like ロロノア」といったアルバムタイトルとも掛けたパンチラインが炸裂。悪夢の中を彷徨うようなサイケデリックな展開の果てに飛び出すのは、「カット!」「これがKick Snare 2OMBIEです」というメタな一言。我々は悪夢から覚めた…のか?

Part 4「カオスと着地」(Tracks 14-16)

14. 幸せいっぱい腹いっぱい (平野紫耀 プロデュース) 夢から覚めた後の、突き抜けたパーティー・チューン。他の楽曲との兼ね合いから、当初の構想を変更し、「ライブ会場でとにかく盛り上がるおバカな曲」を目指して作られたというエピソードを持つ一曲。「パイパイパイパイ」という響き重視のシンガロングや、「乗り回した四駆が heaven's drive」という破天荒さ。誰がラップしているのか分からないほどエディットされた声など、Number_iの「楽しければOK」なモードが全開だ。

15. 未確認領域 (MONJOE Remix) ここで冒頭の「未確認領域」がリミックスで再登場。スクリレックスやThe Prodigy、あるいはAsian Dub Foundationを彷彿とさせる、90年代〜10年代のダンスミュージックをごった煮にしたようなハードなアレンジ。旅が振り出しに戻ったようでもあり、より深遠なカオスへ突入したようでもある円環構造を感じさせる、アルバムに不可欠なピースだ。

16. i-mode (Number_i プロデュース) アルバムのラストを飾る、切なすぎる名曲。タイトルはガラケー時代の「i-mode」と「Number_i mode」のダブルミーニング。Dragon AshやRIP SLYME、あるいはSteady&Co.「春夏秋冬」を彷彿とさせる2000年代平成ヒップホップのバイブスに乗せて、「今の本音を伝えたとこで/1年後はもう古臭い言葉に変わる」「とうにいにしえの魔法のように lost」と、諸行無常を歌います。「Let's go to die」「変えてくこの世界の mode/泥臭くまた明日へ」という、男臭くも美しいラインでアルバムは幕を閉じる。

『No.II (Deluxe)』と新曲「LAVALAVA」の衝撃

そして本作は2025年12月1日にデラックス盤が半ばサプライズ的にリリース。追加収録された新曲が「LAVALAVA」だ。

ここで彼らが選んだのは、90年代後半〜00年代に流行した「2ステップ」。Y2Kリバイバルの文脈とも共振しつつ、Number_iらしい変則的なグルーヴが見事にハマっている。

リリックも秀逸で「匿名書き込む米騒動」というシニカルな視点や、「君のためなら投げる赤甲羅」というマリオカートネタを混ぜ込みながら、現代社会からの軽やかな逃避行を描く。「まだ後部座席はフリー」というラインには、20代も終盤を迎えた彼らの未来への予感も込められており、2026年の新たな方向性を示唆しているようだ。

2026年、Number_iはどこへ向かうのか

『No.II』は、3人が「音楽」という飛行機に乗って、過去と未来と夢/悪夢を行き来する壮大なロードムービーだ。

特に「i-mode」で歌われたような「時代の移ろい」に対する達観した視点は、彼らがアイドルという枠を超え、一人の表現者として成熟したことを示しているように感じられた

楽曲単位でのパンチ力では「GOAT」「INZM」要する1stアルバムに譲るかもしれないが、アルバムトータルでの完成度はこちらに軍配が上がるだろう。

となると気になるのは、3rdアルバムだ。突き抜けるような快作、あるいは全く得体の知れない怪作、それとも……。

聴いてみたい方向性は山ほどあるし、聴いたことのない作品が届くのは間違いないだろう。

(照沼健太)

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