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【短編小説(完結)】春崎夜道の『夜散歩』なXmas 26 本当の幸い 2500字

[HL:ノープランでここまできて、ここからもノープランです(キリッ 4]

 なんだかデートみたいだ。クリスマスに一緒に出掛けて、プレゼントをもらって、これからケーキを受け取って、ローストチキンとピザを食べて。それで。そこでそっと、想像をやめた。
 今日だけはそれでおしまいだなんて、思いたくない。だからとりあえず、今のことだけを考える。心の底では上手くいかないと思っているのに。
 店からでるとすっかり夜。
 雪はしんしんと降っていて、おあつらえ向きのホワイトクリスマス。
 駅前のロータリーには特設で大きなツリーが設えていて、キラキラと光り輝く小さな灯りを反射して、雪にあたるたびにその表面をきらめかせる。
「今日、つもるかなぁ。あ、天気予報を見て欲しいっていう趣旨じゃなくて」
 そう呟くと大岳はスマホをポケットにしまい、空を眺めた。私たちをめがけて降り落ちてくる雪が何かの祝福になればいい。ああでもきっと大岳はつまんない予測を告げるんだろう。だからその前に袖を引っ張って、ノルゲンに急ぐ。それでブッシュドノエルを受け取って、北野さんにまたウインクされて、それでラボに着いたらケーキを冷蔵庫にしまってコーヒーを入れて。
「最近どう?」
「うまくいってるよ」
 まぁ、そうなんだろうなぁ。それでケータリングが届いた知らせに救われて、テーブルの上にローストチキンとピザとポテトとシャンメリーと、そんなものが華やかに並んで、でもやっぱりいつものラボだなという感想をなんとか隠して乾杯する。
「夜道は、こういうパーティが好きなのか」
「……まぁ、好きといえば好きだよ。大岳は?」
「嫌いではない」
 誠実で真実な大岳の話題に上るのは全部、私と私以外の人間のことだった。奏汰さんとか、お兄さんのこととか、家族のこととか。それらが私と同列に並べられていくにつれて盛り上がっていた気分はだんだん萎んで、次々と期待した奇跡は打ち砕かれ、私の気持ちは限界を迎えつつあった。奏汰さんみたいに一緒にいるだけで幸せ、なんて気分にはなれそうにないや。

「夜道、すまない」
「何が?」
「夜道を悲しませたくはない」
「それはわかってるんだ。これは純粋に私側の問題で、どうしようもないんだよ」
 だから謝らないで。どうか謝らないで。これ以上私に、どうしようもないってことを突き付けないで。
 ああ、本当に、どうしようもない。そんなことは最初からわかってたんだ。大岳は恋愛的な意味で誰かを好きになったりしない。それは私も含めて。
 奏汰さん、なんで私に希望を持たせたりしたんだよう。一度期待してしまった私の心臓は、例えば温めた金属が急激に冷えた時みたいにバラバラになってしまいそうで、それなら期待なんてしないほうがよかった、やっぱり。
 だからポタリと私の頬を伝った液体は、雪にはならなかった。キラキラとしていなくて、私は結局液体を垂れ流すだけ。
「困ったな……」
「そうだね、困らせてる自信ある」
 大切だ、家族として。その言葉は聞きたくない。どうかその言葉だけは言わないで。
「俺にとって夜道は大切なんだ。本当に、とても」
 その先は言わないで、どうか。もし神様がいるのなら。
「でもそれは家族だからとかそういうんじゃない」
「え?」
 一瞬、耳を疑った。
「奏汰も友達だからとか幼馴染だからとかで好きなわけじゃない」
 なんでそこで奏汰さんを出してくるかな。
「そういう何か別の理由に基づくものじゃない。そういうのがなくても夜道が好きだよ。夜道の全部が」
 私の、全部。家族とか関係なく?
 ただ、私の全部が。
 その言葉は私の心臓を修復したりはしなかったけれど、何故だか不思議にじんわりと温める。私が、好き。
「でも奏汰さんもそうなんでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「私が好きなのは、家族の時間があったからでしょ?」
「……それは否定できない」
 なんでそこで認めちゃうかな。はぁ。
 けれど私は今、大岳の瞳を真っすぐに見つめていた。いつもはなんとなく居たたまれない気持ちで逸らしていた。だから今まで目を背けてきた大岳が言ってるのが本心だってことも、なんだか伝わってしまった。その伝達こそがきっと、かすかな奇跡なんだ。
「それも奏汰さんに言われたの?」
「ああ、今朝、俺が夜道をどう思ってるか正確に伝えろって」
「はぁ。本当におせっかいだな。もう、諦めきれなくなっちゃうじゃん」
 少し困ったように眉尻を下げた大岳に、なんて言えばいいかわからなかった。だからブッシュドノエルを出して電気を消して蝋燭に火をつける。ぼんやりと幻想的な炎をあっという間に吹き消して、ラボの電気をつけてフォークを渡して、大部分を大岳が表情を変えずに食べきるのをぼんやりと眺めた。ヒロさんと違って美味しくなさそうだ。
「そうだ、表情がないのがよくないんだよ。だから私が不安になるの。笑って」
「難しいな」
「もう、それくらい努力してくれてもいいじゃん。私を好きなら」
「まぁ、前向きに頑張ってみるよ」
 そうして浮かべた困惑には、少しの微笑みが混ざっていた気がしなくもない、かもしれない。
 大岳はたしかに私が好き。
 それが私の到達したクリスマスで、何も変わっていないといえばいないんだけど、奏汰さんが願ったくらいの軌跡は手に入ったのかもしれない。目的地までの道のりは断絶していて、到達の見込みは相変わらず全くないんだけれど。

 それで私はプレゼントをもらった。イエローみのあるチェックのマフラーと、何故か手袋。……所長が私用に買ったけれど買ったのを忘れて開けちゃって、バツがわるくて大岳に渡すように言ったらしい。
 そんなわけでKATEBLUEの大岳のプレゼントもなんのこともなく目についたから選んだもので、きっとクリスマス的な特別なラブな意味なんてないんだ。私のクリスマスに向かって高まった期待と幻想は、結局全て敗れ去ってしまったわけで、つまりクリスマスが終わる前に日常に戻ってしまった。でも、まあそれはそれで仕方がない。でもいつもと違うことがある。今日は私から尋ねる番だ。
「大岳、プレゼントのお礼は何がいい?」
「お礼……」
「そうだ、奏汰さんが高天のペアチケくれたんだけどさ、一緒に行かない?」
 そう言って浮かべた大岳の困惑は、いつもより少しだけ微笑んでみえた。

Fin

 お読みいただいてありがとうございます。
 アドベント的に毎日テーマで書くのは初めてで、面白かったです。伏線は全部回収できただろうか?
 そんなわけで、皆様にも幸がありますように。
 なお夜道、大岳、奏汰、西野木と今回でてこなかったけれど公晴という人間の組み合わせでミステリーのシリーズを書いていて(しかしUPはしていない)、これは夜道ちゃんが死んだところから始まります。一度死んでいき帰り、夜道ちゃんは感情というものを失ってしまいます。そんなわけで夜道ちゃんのシリーズはこれみたいに生きてて大岳を好きなシリーズと、死んでていろいろな過去を追憶するシリーズがあります。追憶の方も夜道ちゃんは生前を装っているので、短編で書いてるとどっちかわからないパターンがありますね。

#いつきちゃんのアドベントカレンダー
#本当の幸い
なんと、最後まで完結したぞ! 参加させていただきまして、ありがとうございました。とても楽しかったです。

Merry Xmas!
今クリスマス絵を描いてるけど間に合わないので、完成したら差し替えます、週末くらいに。この人たちは明日公開予定の、このほのぼのした話の裏で書いてた極振りの狂気的な短編ですが、クリスマスなのでいい感じに書いたやつで、同一性は正直ない。

★神津WIKI

この話は、というかどの話も、というか僕の話のだいたいは神津市という架空の場所で生まれています。今回の登場人物はその中の神津という区で生活していて、一緒に出てる話も別々の単話もシリーズもあって、それぞれが街の中で出会って話ができるスタイルなので、むしろ主人公は街かもしれない。

#小説 #短編小説 #ショートショート #私の作品紹介 #創作大賞2026 #恋愛小説部門


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