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(完結)都市伝説と不確かな歌、そしてマシュマロの海 第11話 大量の神津の介と、マシュマロの海(現ファ全11話24000字)

一話目のリンク。

第11話 大量の神津の介と、マシュマロの海

 環の術の効果が想定を下回るのも、術者である環自身がすでにサスリクヴァの音の影響を受けているからだ。環の術が効果を生じる前に、サスリクヴァの歌のもつゆらぎが効果に干渉・減衰させている。振動を環の体から分離することができない。
「糞厄介だ。智樹、きちんと守りは施しているだろうな」
「勿論、それでどうするのさ」
「歌を破壊するしかない」
「歌を破壊? どうやって!」
 智樹にとっては音とは無形で、壊せるとは思えなかった。
「俺は多分、三半規管がやられて歩けなくなる。だからこっちに来て、合図をしたら強引に連れ出せ」
「わかった!」
 智樹は環の理屈はさっぱりわからないものの、どうせ聞いてもいつもわからないから気にしなかった。

 単純な話で、音はゆらぎだ。音を打ち消すには、それを上回るゆらぎをぶつければいい。
 幸いにも神津之介マンの動きは緩慢だ。物理的に避ける分には体力が続く限りは問題ない。
 攻撃を掻い潜りながら、環は神津之介マンの周囲をぐるりと回り、その足元に石を置いていく。都合八個の石を置く頃には、神津之介動きはさらに緩慢になっている。サスリクヴァの音はどこまでも伝播していく性質を持つが、環の使う石はその場所に存在するという物理的な性質を持ち、軛として世界を固定し干渉する。
 智樹の目の前で空間が僅かに揺らぐ。環が開けたその入口に、智樹は迷わず飛び込んだ。ふいに環の姿が鮮明になり、そして神津之介マンの姿も智樹の目にはさらに鮮明に写る。
「神津之介、マン?」
 智樹はこれまで二つの位相を隔てた姿、つまりテレビでも見るような感覚で神津之介マンを捉えていたが、目の前にすると、そのありうるはずのないあまりに物理的なリアルさが脳に混乱をもたらした。そして妙につやつやして、甘そうに感じた。

 そして智樹は自分の呟いた声がほぼ聞こえないことに困惑した。環も智樹に話しかけてるように口を動かしていたが、その声も聞こえないものだから、智樹は首を振る。環はそれを確認して頷き、神津之介に向き合う。
 智樹はこの位相の中にサスリクヴァの音、つまり魔法が満ちていることを思い出す。智樹は環から受け取ったリップで体の開口部、つまり目鼻口に塗って極小的な結界を張っている。だからその音が魔法なら、智樹には聞こえない。サスリクヴァの魔法が邪魔をしてるなら、他の緒とも聞こえないのかもしれない。
 智樹の仕事は明確だ。環がサスリクヴァの魔法を打ち消した瞬間、環が先程空中で何かにぶつかった地点より外に環を引き摺り出すことだ。

 智樹は環が懐からいくつかの石を出し、それを擦り合わせながら口をぱくぱくさせるのをぼんやり見つめ、何かの呪文を唱えていると当たりをつけた。その間も神津之介マンはのろのろと腕を降り上げようとしているが、とても緩慢で、智樹にはあたっても痛くなさそうに見えたが、そもそもがわけのわからないものだから触りたくないなと首をふる。
 環が手をかざせば神津之介マンの周辺に置かれた僅かな石が光り、そして環がぐらりと揺れたところをあわてて智樹は支え、引きずり出そうとして神津之助を見上げ、思わず固まった。

 リアルな神津之介の頭部の一部がまるで熱い鍋に触れたようにブクリと膨れ上がり、そのような水疱のようなものが神津之介の頭部を起点としてぶくぶくと体全体に生じていく。それは智樹にとってホラー以外の何物でもなかった。
 慌てて智樹が環を引きずり出すのと神津之介が爆散するのは同時だった。そしてその爆ぜた白い何かは、位相に区切られたと思われるその内側の空間、つまりモニタや壁なんかを真っ白いペンキをぶちまいたかのように汚していた。
 そうして二人はあまりの惨状にぽかんと口を開いた。
「うわぁ」
「まじかよ。掃除が大変だ」
「あ、声が聞こえる」
「位相を超えたからな」

 それから一週間後。智樹の周辺は平穏を取り戻していた。
 サヨコはすっかり元気に日常を送っていると聞いたし、環もいつも通りクウェスの奥の席でタブレットをいじるようになった。智樹が近づけば、環はわずかに眉をよせた。
「結局タダ働きだ」
「あの、えっと。ごめん」
「お前から取ろうとは思わない。それにサスリクヴァの仕業とわかった時点で俺の仕事だ」
 環は疲れた様子でこめかみを揉む。それは一連の事件のせいなのか、単にタブレットの見過ぎなのか、智樹には判断がつかなかった。あ
「えっと、うん」
 智樹はそれでも環から僅かな怒りを感じていた。それはよくあることでもあったけれど。
「ただ、掃除が糞面倒くさかった」
「ああ……うん」

 智樹はマシュマロだらけの部屋の惨状を思い出し、わずかにウゲと思いだす。掃除を手伝おうと申し出はしたが、環の部屋は環にしかわからないギミックがあるらしくて断られたことを思い出す。
「それはお前のせいだからな」
「え、なんで」
 智樹にはちっとも理解できない言い分だが、智樹にはそもそもこの事件の全体像が全く想像がついていない。せいぜいサスリクヴァが何かやって、環がなんとかしたというだけだ。
「お前、マシュマロマンって言っただろ」
「うん」
「だからあいつはマシュマロになったんだよ」
「はぁ?」
「これが岩ならより大変だった気はするから、まあいい」
 環の舌打ちに、智樹は真実、首を傾げた。岩ならモニタやその辺の者は壊れていただろう。

 環がいうにはこの術は変数が多い。サスリクヴァが送り込んできた神津之介は、それらが思念であること以外には特に情報が付与されていなかった。その姿をマシュマロマンであると定義したのは智樹だ。だから、あの神津之介の組成変数がマシュマロになった。思念のままであれば、マシュマロになることはなく霧散した、らしい。
「そんなこと、知らないよ」
「そんなわけで、あの部屋はベタベタでものすごく甘い臭いで気持ち悪くなった。大変だったんだぞ、掃除」
「ごめん」
 部屋中が溶けたマシュマロで汚染されたと考えると、智樹はその掃除は大変そうだなと思った。けれどもそんなことを言われても、何に見えるか聞いたのは環だろうとも思い出す。
「まぁ、いいよ。でも完全に赤字だ。あんなもん、記事に書けん」
「ToTubeの投げ銭は?」
「あれは運営費に取っておく。それで今日は何の用だ」
「えっとその、幽霊がね」
「それは今度こそ金になる話?」
「まぁ、多分?」
 そうしてまた、環はいつも通りため息を吐いた。

Fin

あとがきと次の連載

お読みいただき、ありがとうございました。
正直なところ、この話は説明がうまくいってない自覚はある。というより説明が過多で不自然なので、そのうち直すつもり。なんでかなぁと思ったのが三人称視点だからな気がしていて、これ、新しい魔法を作るテストなので説明多い気がしたから三人称にしたんだけどさ、智ちゃんの感想は環ちゃんの認識にすりかえて環ちゃん一人称視点にした方が臨場感がでるかなあ。
あと、Vtuberの話ではあるんだけど本来とは違うタグでお騒がせしてごめんなさい。
それで不完全なのを何故もってきたかというとTalesの先行にだしたからで、連絡がこないってことは落ちたってことだろうけれど、Tales版のよりは少し読みやすくしたつもりではある。この話が云々というより新しい魔法概念を作るのが好きなんだ。うちはジャンルまたがって魔法使いがよく出てるんだけど、それぞれ魔法原理が少しずつ違う。

そんなわけで次の連載は『十日間の関係』。
ゆるふわにBLのリクエストを頂いたんだけど、あんまりというか全然エロくない現代BLを持って来ることにした。ただBLでもない、多分。だからタイトルの横につけるジャンルは”非定型恋愛”にしといた。僕は基本男同士の恋愛に微塵もスペシャリティを感じないので、というか男女の恋愛と何が違うのかわかんないのでいつもどおり純粋に変な人間関係を書いた話。
 妄想持ちの自閉症気味の画家✕アセクシャルでアロマンティックの若手編集者の飯テロ同棲生活(少々語弊)。そもそもBLなのかよくわからないけれど、でも性別が変わるとか心は男で体は女とかよくわからんものがよくあるので、まあ広く言うと現代BLなのかな。二章立てで10万字を超えるので、前半の編集者視点と後半の画家視点の間に違う連載を入れる予定です。
ご興味がありましたら、是非お越しくださいませ。

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