【完結】都市伝説と不確かな歌、そしてマシュマロの海 第1話 ぬいぐるみの霊(現ファ全11話24000字)
[HL:サブカル呪術師と動画配信愉快犯の、霊的なような歌歌いのようなマシュマロっぽい戦い]
前は明治ファンタジーだったので、次は現代のファンタジーを持ってきました。この話に出てくる環ちゃんも智ちゃんもサスリクヴァも他の話がある人たちなので、違う話もそのうちもってきます。この本の表紙はないので吊り下げ用の呟きを仮表紙にしてみる(本来の意図とは違う……)。
あらすじ
円城環がいつもどおりカフェで仕事をしていると、腐れ縁の公理智樹が現れる。 公理智樹は美容師で、その客の女子高生におかしな霊がついているという。神津之介という、この神津市のマスコットキャラのぬいぐるみの霊らしい。 日本語でOK。
第1話 ぬいぐるみの霊
「環、ちょっと相談があるんだけど」
円城環が聞き慣れた声に顔をあげれば、公理智樹が見下ろしていた。くすんだ金髪をマンバンに結んで赤シャツに黒の細身のデニムな幼馴染という名の腐れ縁は、三十近いのに時折雑誌モデルも務めるほど見目が良い。歩くだけでカフェの視線を集める様子に、環は相変わらずだとなんとなく癪に思い、別にいいかとすぐに思考を放棄する。環は環で長い黒髪の内側に整った顔を納め、黒のロングシャツにほとんど黒なモスグリーンのロングジレ、カーキの七分丈パンツにゴツいコンバットブーツというサブカル一直線の格好なものの、同様にいつも視線を集めてることには気が付いていない。
傍から見れば双方とも方向性の異なる美青年で、燦々と光差し込むウッディなオシャレカフェ、夕方のクウェス・コンクラーヴェを無駄にざわつかせていた。
「またろくでもない話か」
面倒な予感に環は眉をへの字に曲げ、鬱陶しそうに短く答える。そして視線を再び、手元のタブレットに落とした。そんな環のすげない応答もいつものことで、智樹は勝手に環の向かいの椅子を引いて席に座り、QRでコーヒーを注文する。それから智樹はおもむろに、少し大きめのぬいぐるみのついたストラップを環とタブレットの間に差し込んだ。
「ねぇこれ、知ってるよね?」
「神津之介だろ?」
環の視界にチラチラと挟まり鬱陶しく揺れるこのキャラクタは、神津市しのマスコットの神津之介。烏帽子と狩衣を着た陰陽師風の二等身の猫で、神津駅やお土産屋でよく売られている。
「それがどうした?」
「お客さんの友達が神津之介に呪われたんだってさ?」
何故疑問形なんだという疑問を環はとりあえず端に置くことにした。
「美容院の?」
「うん」
公理智樹の本業は美容師で、容姿も相まってカリスマの座に収まっている。
「どんな人?」
「高校生だよ、女子高生」
「じゃあ気のせいだろ」
環の興味は完全に失せた。高校生という生き物はおまじないや呪いというものにかぶれる世代だ。第一、こんな怖さの欠片もないぬいぐるみに呪われたって、やっぱり怖くない。
「それがさ、幽霊がついてるんだよね。わかりやすく殺意? を持っててさ」
「幽霊?」
環は再びタブレットから目を上げ、改めて智樹を正面から見据える。公理智樹は幽霊が見える。その幽霊が殺意を持っている。それなら環に話を持ってくるのは一応の道理が通り、通らない。つまり智樹は環に除霊を頼みたいのだ。
環の収入源はいくつかあるが、自己認識では呪術師を副業の一つとしている。中途半端に人のいい智樹は、相手が高校生なら環への費用を自腹で払うと言いだすだろう。環は一方的に垂れ流される無意味で善意な智樹の代償行為に常々嫌気がさしているものだから、いつも智樹の依頼を断る。その結果、このお人好しは結局首を突っ込み、いつも事態を悪化させてどうしようもなくなってから再び環を頼ってくる。それで結局ただ働きをさせられる。
だから環は智樹を僅かににらみ、やがて小さくため息をついた。
環は智樹を見捨てられない。そんな未来はいつものこと。
それに智樹の言葉を思い返せば、殺意を抱いているというのも穏当ではなかった。霊は直接の殺傷力を持たないが、さまざまに人を誘導し、死に向かわせることはできる。それに智樹が巻き込まれないとは断言はできない。やはり放置するのは胸糞悪い結果を招きそうで、だから仕方なく先を促した。
「どんな霊?」
「だからこれ」
見下ろすと神津之介のストラップ。
「神津之介の、霊」
「馬鹿にしてんのか。ぬいぐるみが霊になるわけないだろ」
そう呟いたものの、智樹は嘘を吐くタイプではない。環は半ば頭を混乱させながら、困ったように首をかしげる智樹の話を聞き、おおよその事情を弁えた。ようはその女子高生は、神津之介でひとりかくれんぼをしたわけだ。
ひとりかくれんぼ。
環はその一般的な手順を思いだす。
ぬいぐるみに名前をつけ、詰め物を全て出して代わりに米と自身の爪を入れて縫い合わせる。余った糸はぬいぐるみに巻きつけて結ぶ。隠れ場所を決めて、そこに塩水を用意する。
午前三時になったらぬいぐるみに「最初の鬼は〇〇だから」とぬいぐるみの名を三回告げ、水を張った風呂桶にぬいぐるみを入れる。
家中の照明を全て消して砂嵐のテレビだけつけ、目を瞑って十秒数える。刃物を持って風呂場に行き、「〇〇見つけた」と宣言して、ぬいぐるみを刺す。そして「次は〇〇が鬼」と三回宣言し、塩水のある隠れ場所に隠れる。
終わらせる時は、塩水を少し口に含んでから出て、ぬいぐるみを探し、コップの残りの塩水、口に含んだ塩水の順にかけて「私の勝ち」と三回宣言して終了となる。
比較的最近、インターネットという不可視な位相から生じたこの呪いは、仮想と現実の間にいつしかさまざまな怪異を生じさせ、そして恐ろしい勢いで伝播された。ようは都市伝説というものだ。
それならば殺意を持った神津之介の霊に付き纏われてもおかしくはない、のかもしれない。一旦はそうは思いつつ、二頭身の? という疑問はやはり、心の奥にしまった。
そうすると、環の思考の向かう先は単純だ。
果たしてこれは、金になるか否か。環は基本的に智樹と異なり、趣味ではなく仕事として怪異に関わっている。
直接お祓いで金が取れなかったとしても、そして少しだけ時流に遅れたネタだとしても、これは未だ人の話の俎上に登る都市伝説。換金価値はそれなりに高い。環が本業だと思い親しい周りからは副業だと思われているライターの仕事に季刊『異界』を始めとしたオカルト誌へ寄稿すれば、小金になるかもしれない。そこまで考えて、環は智樹に巻き込まれるのを諦めた。
「なんで神津之介なんて使ったんだよ」
「可愛いから怖くないと思ったんだって」
智樹がぷらぷらと指先に揺らすストラップを眺めながら、環の脳裏には神津之介が闇夜にナイフを持って部屋を彷徨うろつきまわる姿や、神津之介の霊に取り憑かれた女子高生を思い浮かべた。確かにそれは客観的にはちっとも恐ろしそうには思えなかった。環は肩をすくめる。
「けどそれをこと、この神津でやるのは最悪だ」
「そうなんだ?」
あまり事態をよく理解していない智樹は翌夕方、環の前に女子高生を一人つれてきた。
2話目以降のリンク
主な登場人物
円城環:本人は自分を(サブカル)ライターだと思っている。
公理智樹:カリスマな感じの美容師。
時透奈美子:黒魔術が好きな感じの女子高生。
神津の介:神津市公式の陰陽師の格好をした猫のマスコット。下記地図の左上にいるやつ。
Sasrykva:胡乱なVtuber。
地図
いつもの現代版の神津地図。

★観光ガイド
クウェスは辻切駅南東の方にある自然派な感じのオシャレカフェ。智ちゃんの美容院は煉瓦坂沿のミスティオーラで、奈美ちゃんが通うのは辻切東高校です。ご近所ですね。智樹は辻切南商店会の若手会の会員で、環も巻き込まれる形で会員になっています。
同じ世界観の話
たまちゃんの話全然もってきてなかったので急遽UPした『雨、あがる。』と智ちゃんの話をおいとく。いつもバディになってるわけじゃなく、別の人とそれぞれバディになることもよくある。
長編のマガジン
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