見出し画像

都市伝説と不確かな歌、そしてマシュマロの海 第3話 一応の解決と、おかしな動画(現ファ全11話24000字)

一話目のリンク。

第3話 一応の解決と、おかしな動画

「環、マジ凄い。神津之介の霊が消えたよ。なんで? あの紙のせい?」 
 環は肩を竦め、新しく追加注文したアイスコーヒーを漸く引きよせた。一応、一緒にお茶をするという外形を避けるためにサエコが帰るまでは飲み物に手を付けないという無駄な抵抗を試みていた。
「それは俺が聞きたいよ。霊が消えたのはいつだ」
「え?」
 智樹は首を傾げ、宙を見上げる。環自身は霊がいるとかいないとかの気配くらいはなんとなく把握できるが、実のところ幽霊は見えない。
「……そういえば、ここに来るより前に数は減ってた気がする。帰った時にはいなかった」

 数、という言葉が気になったが、無視することにした。解決したなら女子高生と不必要に関わりたくない。つまり蒸し返したくはなかった。
「やっぱりな。ラップ音だと納得して存在が消えたなら、つまりサエコに憑いていたのは神津之介の霊じゃないんだよ。というかそもそも霊じゃない」
「どういうことさ?」
「ひとりかくれんぼっていうのは妙なシステムなんだ。オープンソースっていうかな」
「オープン、ソース?」
 難しい話と感じたのか、智樹は眉を顰めた。
「……まあいいや。解決したし、ありがとうね」
 智樹はニヘラと微笑む。呪術の類がわからない智樹にとって環の説明はいつも理解しがたいもので、細かいことを考えない智樹は目の前の問題が解決すればそれでよかった。
 だから環の続く言葉は予想外だった。

「タダ働きしてやるから手伝え」
「え? もう幽霊いなくなったよ」
「ああ。あのサエコとやらは大丈夫だろう。問題は他にあって……つまり変な呪いなんだよ、このひとりかくれんぼってやつは」
「呪い? 霊じゃなくて?」
 環は曖昧に頷く。神津之介のひとりかくれんぼについて昨夜、自身の彼女ということになっている時透奈美子ときとうなみこから妙な噂を聞いていた。彼女の通う辻切つじき第三高校で出回っていた噂だ。
「曰く、神津之介が画面を超えてやってくる」
 真面目なような呆れたような環の視線に、今度は智樹が困惑した。
「画面を越えて? 呪怨の貞子みたいに?」
「まぁ、そうだな。奈美子もひとりかくれんぼをやったらしい。ただし奈美子は画面から出てきたやつは見てないらしいんだがな」
「ああ、奈美ちゃん」

 環が奈美子を構うようになったのは、奈美子が智樹の美容室に客として訪れたのが始まりだ。その時の奈美子の背中にはサエコとは比べ物にならないあまりにもヤバげな霊が鎮座していたらしく、智樹は髪を切った後にあわててクウェスに飛び込んだ。結局その後、環は奈美子に憑いていたものを祓い、それからも妙なものに首を突っ込んでいくあぶなっかしい奈美子を監視がてら、多少の仕事を手伝わせつつ、雑に清いお付き合いをしている、ことになっている。そのため環は事情を知らない知人友人にロリコン扱いされているが、胡散臭い仕事を掛け持ちしている環にとって、すでに評判の低下など気にするべくもない。

 タブレットを机に倒し、智樹に見せる。
 それはやけに暗い動画だった。横長の画面の中で僅かに見えるのは、細く入ったスリットのような縦長の四角い部分だけだ。しばらくすると智樹の目には小さなナイフを持った神津之介のぬいぐるみが歩いて現れ、そのスリットを横切る姿が目に入る。
「うっわ。これマジ? 合成じゃなくて?」
 ガタガタと画面が揺れて角度が変わり、智樹はそのスリットが押入れのわずかな隙間だと理解した。カメラは床を這いながら角度を変えて室内を映し、その神津之介はザラザラしたテレビの砂嵐の中にとぷりと入り込む。

「ねぇ、これ何なの? 出てくるというよりは入って行く、じゃん?」
 智樹の問いには答えず、環は無言のままシークバーをスライドさせる。
 随分時間を飛ばしてから砂嵐が再びゆらぎ、神津之介が再びテレビ画面から現れた。そこからは飛ばし飛ばしで、シークバーでもうすぐ二時間経過するところでカメラがガタリと動いて風呂場に向かう。そこには神津之介のぬいぐるみがぷかりと浮かんでいた。
「あれ? どういうこと? これ、さっきテレビに入ってったやつ?」
「智樹、お前はこの映像がどう見えた?」
「神津之介が部屋に入って、テレビに入って、テレビから出て、部屋から出た」
「奈美子と同じだな」
 環は嘆息する。
「奈美ちゃんと?」
「ああ。この動画はあいつが撮ったんだ。危ないからやるなといっても聞きやしない」
 環は珍しく頬杖をつき、気だるそうにタブレットを操作する。これも今朝がた奈美子が動画のリンクを誇らしげに送って来た。
 奈美子は呪いだとか魔術だとかそういうのが大好きだ。そんなわけで危険なところに足をつっこみそうになるたびに、環はそこはかとなく回避させている。何かあれば後味が悪い。
 環には霊はみえない。だからこの動画もただの何も起こらないつまらない動画だ。けれど霊の見える二人が同じものを見たということは、やはり何かが行き来したのだろう。

「智樹、テレビに入った神津之介はどうなると思う?」
「さぁ……わかんないけど、どっかにいく、のかな」
「次はこっちの動画だ。TotubeにUPされている」
 それはなかなかに再生数のある動画だった。いわゆる実況で、投稿主はSasrykvaサスリクヴァと表示されている。
「あ、こいつって」
「そう、あいつ」
 環はひとりかくれんぼと聞いて昨日ネットで検索し、このサスリクヴァの動画を見つけた。環とサスリクヴァは因縁の、といえるほどにはこの奇妙な電子の海でお互い干渉しあっている。そもそもひとりかくれんぼは、巨大掲示板の実況によって爆発的に広がった新しい形態の術だ。インターネットに親和性がある。だからこの繋がりは当然のように思えた。

次話のリンク

長編のマガジン

#ローファンタジー #現代ファンタジー #Vtuber #怪異 #ひとりかくれんぼ #呪い #連載小説 #現代ファンタジー小説 #創作記録 #イケメン


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集