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都市伝説と不確かな歌、そしてマシュマロの海 第8話 奇妙な約束と、不定の変数(現ファ全11話24000字)

一話目のリンク。

第8話 奇妙な約束と、不定の変数

 環が初めてサスリクヴァに接した時、その狙いや目的について深く考えたが、今はやめている。おそらくサスリクヴァなりに何かの目的があり、何かを成し遂げようとはしているのだろう。けれど現在サスリクヴァがインターネットを介して行っているのはおそらくその試験、つまりテストなのだと思い至る。それほどサスリクヴァの行為は場当たり的で、いつも無意味だ。そして積極的に不幸を招きたいとも思っていない。
 だから環が事態を終わらせようと意志を表示すれば、自らの呪術の効果を試すことの引き換えに、それなりの確率で乗ってくる。サスリクヴァとしても有象無象の制御不能な相手より、真正面から実験台になってくれる環のほうが検証対象としては貴重なわけだ。
 今回のひとりかくれんぼでサスリクヴァが試したかったことは恐らく、広く無関係な他人の力を利用する実験だろう。だから環にとってここからが本番だった。その何かを無事に収束させなければならない。

 そうして翌日、智樹は環の秘密の部屋にいた。昨日とは異なる環の隠れ場所で、親しい友人にのみ場所を知らせている空間だ。
「環、つまり今度は本当にそのモニタから神津之介が現れるの?」
「さて、それはサスリクヴァが何をしたかったのかによる」
「まじかぁ。たいていわけがわからないよね」
 環の傍らで智樹が肩をすくめる。
「一番高い可能性は、神津之介がナイフで俺に襲いかかってくる」
「二番目は?」
「神津之介が俺に襲いかかってくる」
「ナイフの有無の違い?」
「いや、そういうわけじゃなくて。でもそうか。そこはサスリクヴァもわかっていないのかもしれない」
 所詮、実験とは仮定を立てたとしても、いつも一定の結果が現れるのを待つしかない一方通行だ。だからこそ、様々な検証が必要となる。つまりこれから、実験台になるわけだと辟易していた環がモニタの時刻表示に目を向ける。
 もうすぐ午前三時。

 昨日と同じように環の目の前にはモニタが置かれ、床には環にだけわかる規則性を持った様々な大きさの石が乱雑に散らばっている。万一のために智樹が待機しているが、危険性ゆえ奈美子には知らせていない。
「智樹、昨日も言ったけれど、このひとりかくれんぼは変な魔法なんだ」
「オープンソースって奴?」
「そう。けれど呪いをかける練習には最適だ」
「呪い?」
 呪いという言葉に智樹がビクつく。
 ひとりかくれんぼの一番妙なところは、それが自身に循環することだ。通常の呪術というものは、他人に対してかけられる。ところがこの魔法は、自らの依代となるぬいぐるみに呪いをかけ、その呪いを自分に向けさせ、つまり自分が襲われるリスクを払い、終了させる。ナイフを突きつけるという行為が内容となっているのは恐らく、『ナイフを突きつけるという行為』自体が危険で、つまり術者が攻撃として具体的にイメージしやすいからだろう。
 つまり、このひとりかくれんぼという呪術はともすれば自分が危険になるだけの、本来何の意味もない術だ。
 けれどそのルーチンをスムーズに行うことができるようになれば、ぬいぐるみに入れる爪や髪を他人のものに変えて他人を呪うこともできる。その意志を依代としたぬいぐるみを思うがままに動かせるようになれば、媒体に限らず呪符や式といったものにも応用できるだろう。

 問題はサスリクヴァがこのオープンソースな術式にどこまで変数を入れているかということだ。つまり、この一連の騒動によってサスリクヴァが何がしたいか。
「智樹、おそらくあの動画を見て、一般市民が自分のところに神津之介を召喚できる可能性は著しく乏しい」
「そりゃあまあ、そうでしょ。来たら可愛いけど」
「何故だかわかるか?」
 智樹は頭の中で、サスリクヴァの動画のように目の前のモニタから神津の介が現れる様子を想像し、すぐに打ち消した。
「……ぬいぐるみがモニタを通ってやってくるなんてありえないから?」
「そう。たいていの人間は、最終的にありえないと考える。だから現れない」
 智樹が見つめるモニタの中は今は沈黙を保っていた。
「環は現れるみたいな言い方をするね」
「可能だと知っているからな」
 本当に現れるかどうかは最終的な術者の力量によるのだろう。けれどどれほど力量をもった術者でも、その結果を信じなければ魔法は起こせない。だから頓挫する。もとより荒唐無稽な話だ。

「サスリクヴァはそこを分割することにしたんだよ。数万の視聴者の一割が試し、そこにさらに数人が紐づけされれば、同調圧力とその場の雰囲気で微々たる思念もより集まり、何らかの力が生まれる、という期待値も膨れ上がっていく、かもしれない」
 智樹の頭のなかで、たくさんの神津の介がごちゃごちゃと画面に向かって突進していた。
「なんかマルチみたいだな」
「そうだな。サスリクヴァは多分そうやって力を集める実験をしていて、だから神津之介で、ぬいぐるみなんだ」
「だって誰も知らない超合金ななんて思い浮かべられないだろ」
 智樹は小さなころに見た戦隊もののロボを思い浮かべようとして、挫折した。なんとなく四角くて、全体的に白かったような記憶しかない。
「それで神津の介かぁ」
 この神津では誰もが神津之介を知っている。ポスターなんかでも日常でよく見るし、多くの家に1体くらいのぬいぐるみやキーホルダーはある。だから神津之介の姿や、それが自宅に存在することをイメージしやすい。だから見知らぬ呪物や人形が家にやってくる、と具体的に想像するより、神津之介のぬいぐるみが家にいる、という現象は遥かに想像が容易だ。

 そして神津之介が現れるという思念はLINE通話で術者に繋がり、術者はそれが自分のところに現れるかもしれない、という中途半端な発想を生んで繋がりを作る。けれど最終的には信じ切ることはできず、その思念は頓挫し、その思いはモニタの向こう側で渦を巻く。
「サスリクヴァはその中途半端な思念を集めて、何らかの変数を定めて、何かの目的に使おうとしているんだと思う」
 環は『何か』ばかりだなと自嘲した。けれどそれは遥か彼方のモニタの向こうの出来事で、想像のしようもない。
「それ、危なくないの?」
「サスリクヴァが本来の目的に使う場合は、もっとわかりにくくやるだろうね。そこまでは俺は感知できないよ。ステマみたいなものだ。それでサスリクヴァは自身の集めた神津之介を俺に送ると言っていた」
「じゃぁ神津之介がモニタからたくさん出てくるの?」
「そこが問題だな。果たしてそんな有象無象の思念が固まるものなのだろうか」
 環はやれやれと伸びをした。

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