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都市伝説と不確かな歌、そしてマシュマロの海 第6話 オープンソースな呪いの構築と、待ち人の訪れ(現ファ全11話24000字)

一話目のリンク。

第6話 オープンソースな呪いの構築と、待ち人の訪れ

 環は回想を打ち切り、時間を確認する。午前三時の十分前。
 いずれにしても、途中までは正しくひとりかくれんぼを実行しなければならない。
 モニタに二つの画面が浮かぶ。バトラズに紐付けられたアカウントで智樹が担当するDzusスーズと奈美子が担当するQaraカラの画面だ。タブレットに軽く手を振り、二つの画面からも同様の反応があることを確認する。バトラズ、スーズとカラの音声は自動的に変性するように設定されてある。ネットの範囲で全てを終わらせるなら、その素性を辿られてはならない。決して。環はだからサスリクヴァの痕跡をいつも負いきれないんだよなと自問自答した。
「時間だな」
 午前三時にあわせてジャカジャカとオープニングテーマを流し、モニタには簡単なタイトルがポップアップし、バトラズの炎の形のアバターが現れる。

「こんばんは。バトラズの不定期配信にようこそ。頂いた投げ銭は、超常現象の検証にありがたく使わせて頂きます」
 さっそくいくつかのコメントと多少の投げ銭が確認され、謝礼を述べた。
「今回はおなじみ、サスリクヴァの動画を検証することにしましょう。ここにいる皆さんは、いずれもサスリクヴァの動画をご覧になられたと思います」
 画面にたくさんの拍手が流れる。いつものことだが、環はサスリクヴァの動画を見た人間にはお勧めにこのリンクが現れるよう、細工をしている。
「まずは、ひとりかくれんぼを始めます。今回もサブモニタに表示されるスーズとカラにお手伝い頂きます」
 簡単な面をかぶった二人がモニタに手を振る。
「サスリクヴァの動画は常に一人です。だから本当に画面の向こうで友達がひとりかくれんぼをしているかはわかりません」
 サエコやミユのようにサスリクヴァの声を聴きながらリアルタイムで実行した者以外は。そして実行した者も、自分以外がやっているかどうかはわからない。

 この術式はサスリクヴァとLINE通話で繋がったユーザーから神津之介が送られることを前提としている。ところがサスリクヴァのLINEの先に誰かが繋がっているかどうかなんて、サスリクヴァの証言でしかない。何しろLINEの先は誰も喋っていないのだから。完全な自作自演、それは誰もが最初に思いつく疑問だ。
 分割されたモニタの中では二人が画面の前に神津之介のぬいぐるみを取り出し、名前をつけて呼びかけてカッターで刺し、呪文を唱えて風呂に沈める。そして立ち去り、クローゼットの中に隠れた。
「居住地の特定を避けるため、現在スーズは市内のウィークリーマンション、カラは市内のビジネスホテルに滞在しています」
 早速その内装からそれぞれの建物の場所と名称は特定されたが、カーテンを閉めているから部屋の特定には至らないはずだ。

 環は注意深く、視聴者の名前の追加状況を確認した。
 そしてその中に一つのユーザー名を見つけた。
 ミユのID。神津市に住む学生という属性。やはりミユはサスリクヴァのあの動画をリアルタイムで視聴していた。
 神津之介が現れると信じた視聴者がサスリクヴァの動画から受ける印象として考えられるのは二つだ。
 一つ目は、神津之介と遊べることに着目した視点。ぱっと見の印象は、動画のサスリクヴァはとても楽しそうだった。だから自分も神津之介と遊びたい。だから、この術式を再生産する。神津の介が自分にも表れるように試し、神津の介をどこかへ当てどなく送り続ける。
 二つ目は、神津之介の持つナイフとその意味に着目した視点だ。動画の中の神津之介はナイフを持ち、サスリクヴァに向かっていた。そもそものひとりかくれんぼでは、対象となる人形は術者を包丁で刺しに来る。術者は自ら、そのような遊びをぬいぐるみに命じるのだから。
 サエコはミユを通してサスリクヴァに繋がり、このかくれんぼに巻き込まれた。サエコは心のなかで、自らが術をかけた神津之介がサエコ自身を襲う可能性が浮上し、だからこそ本来気にするべきではなかった不審な音が聞こえた、あるいは事後に聞こえたような気がした。

 大人であればぬいぐるみが人を刺すはずがない、と考えるものだ。けれどもサエコは高校生で、半信半疑になった。呪術的形式がその心的負担を引き起こす、つまりサエコはこの術式に呪われた。
 そしてサエコ自身が行った呪いは誘ったミユに、そして大本のサスリクヴァに繋がっている。だからその呪いは神津之介の姿をしている。その悪意は神津の介の形となり、智樹に見えた。
 けれどサエコは環が家の建付けが音の原因だと言った話に一応は納得した。だからひとりかくれんぼで人形が動くなんてありえないと思い返し、サエコの周りに残っていた形にならない呪いは霧消した。けれどその呪いは必ずしも完全に解消したわけではない。サスリクヴァとの繋がりを断ち切らない限り、再び疑念が浮かび上がれば。家が鳴ったのではなく、本当は神津之介がいるのでは。そう思い始めれば、再び神津之介がサエコにまとわりつく。
 それを証明するように、サエコのIDがリストに現れた。サスリクヴァも自分の配信動画に紐づけられたユーザーには自分の動画が表示されやすくなるようにしている。

 問題はあと一人。
 来るか。来ないか。
 二人のモニタを静かに観測しながら、訪れを待つ。
 来ないこともある。けれど今回はきっとくる。回路を開いた以上、閉じる方法を考えているはずだ。
 来た。

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