都市伝説と不確かな歌、そしてマシュマロの海 第7話 待ち人の訪れと、奇妙な約束(現ファ全11話24000字)
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第7話 待ち人の訪れと、奇妙な約束
いつのまにか、視聴者の一覧の中にサスリクヴァがさらりと加わっていた。少なくともサスリクヴァが興味を示している。俺がどうやって種明かしをするかを。
だからDMを送信する。
『サスリクヴァ、俺が代わる。だからこれを終わらせよう』
『いいとも。解除しよう。では明日の三時、神津之介を君に贈るよ』
約束はあっさりと取り付けた。だからきっと、腹立たしいことにこれも織り込み済みなのだ。そのメッセージの着信に、聞こえるはずのないサスリクヴァの低い笑い声が聞こえた気がした。被害者というのはいつも被害を受けるだけだなと環はうんざりする。
ともあれ方針は決まった。今回のかくれんぼがサスリクヴァのトリックであると偽りに暴く。
「糞めんどくせぇ」
環は誰にも聞こえないよう呟く。
環が命じれば、タブレットが撮影する範囲の外、環の周りにばらまかれた小石から淡い光が生じる。奇妙なことが起きた。環の目の前のモニタが淡く光り、その表面が光学的に波打つ。そうしてぬるりと、神津之介の姿が現れる。ナイフを持った神津之介は環の前まで近づき、そして環は神津之介をつまみ上げた。
視聴者のトーク欄に目を向けると、これ以上になく盛り上がっている。環は神津之介の背側を向けてハサミを入れ、中から部品の端を取り出す。
「皆様、お楽しみいただけましたでしょうか。そして目ざとい視聴者の方は、スーズとカラの画面の中で神津之介が部屋を横切ったり、モニタに入ったりしていないことは確認されているでしょう」
実際に霊的なものは、動画に映っても普通は見えない。そして普通の人間は自分に霊的なものが見えるとは思わない。だから無意識に、人の目は見えない存在を信じるより、納得しやすいトリックを求める。
環は神津之介から引きずり出した部品に接写し、そしてその線が神津之介のぬいぐるみの内部に繋がっていること、ぬいぐるみをめくることで、その四肢にその先端が伸びていることを映す。そして傍らからコントローラを画面に入るように取り出す。
神津之介のぬいぐるみを元に戻して再び床に、つまりタブレットの前に置いてコントローラを動かせば、神津之介がくるくると回った。
「今回は少しお金をかけました。モニタの波打ちは動画のエフェクト機能です。神津之介はラジコンで、神津大学の工学部の知り合いに協力を頂きました」
ようは神津の介はラジコンだと環は主張する。
トーク欄では最初は賛否両論、やっぱりねという声やつまらないという声が次々と流れていき、次第にトーンダウンしていく様子に満足を覚えた。つまりサスリクヴァの創出した現象が再現可能に見せることには一応成功したということだ。実際にサスリクヴァがどうしたかは関係ない。不確かなものを確かなものに見せかければ、不確かさは霧消しやすくなる。そして駄目押しにモニタの端に目をやる。
「サスリクヴァからの通話申請のリクエストが来ていますので、許可します」
そう告げると環のモニタに通話申請のボタンが光り、環は宣言通り許可する。
『あはは、バレちゃった』
環はこんな茶番なやりとりをするのは何度目だろうと心の中で忌々しく呟く。
「ということは、今回はトリックで正解?」
『ああ。使った中身はちょっと違うけどね、大体は同じようなものだ。バレてしまっては仕方がない。あの動画は後ほど削除しよう』
駄目押しに仕掛け人のサスリクヴァ自身が動画が作り物であることを宣言した。この噂は欺瞞の証明と撤回によって物理的にも解消され、追って収束するだろう。この形でつまらない解決をすることはサスリクヴァとの間ではままあることで、ちらちらと投げ込まれる投げ銭に礼を述べる。
『次も頑張って当ててくれよ、バトラズ』
そうして唐突に通話は切れた。
つまり結局、こんな形のエンターティメントにいつも巻き込まれている。巻き込まれ損の被害者だ。環はそんな本音を隠す。
「ご視聴ありがとうございます。これで配信を終了します。本動画は一ヶ月後に削除予定です。それまで、投げ銭をお待ちしております」
そうして環も配信を終了し、どこにも繋がっていないコントローラを投げ出した。
環もこれで多少の投げ銭を得ている。だから一方的にサスリクヴァを非難できない。だからサスリクヴァも面白がって環を利用する。この循環がとても、面倒くさい。
そして同時に、環の目の前の神津之介は全ての力を失ったように、床に崩れ落ちた。配信が終了していることを確認し、モニタに声をかける。
「智樹、奈美子、お疲れ様」
「もう撤収していいの?」
「いいよ。ありがとう」
「わ、私は一晩泊まってから帰ります! ビジホなんて初めてなので!」
「ああ、好きにするといい」
環は奈美子が、友達の家に泊まることにすると親に報告していたことを思い出す。環は宿泊費用を頭の中で思い浮かべた。結局はこんな風に、投げ銭は手元には残らない。
けれど後は全てを無に帰すだけだ。純粋にサスリクヴァの呪術を呪術で打ち消す。だからここからが本番だ。モニタを消したどこにもつながらない真っ暗な部屋の中で、天井のあるあたりを眺めた。
サスリクヴァは愉快犯だ。つまりサスリクヴァ自身が面白ければ、それでいい。だから今回のように自身の仕掛けより別なことに興味が向けば、簡単にそれを放棄する。
問題は予定通り興味がこちらに移ったことだ。サスリクヴァが集めた全ての神津之介。それがいったい何なのか。それが問題だ。神津之介自体はこの神津市のマスコットキャラで、この神津一体に知れ渡り、認知度がある。呪いというのは丑の刻参りしかり、広く知られていればいるほど強力だ。
「果たしてそれは、何をもたらすのかね」
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