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都市伝説と不確かな歌、そしてマシュマロの海 第2話 ぬいぐるみの霊と、一応の解決(現ファ全11話24000字)

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第2話 ぬいぐるみの幽霊と一応の解決

「おごるからさ、何でも頼んで」
「えと、本当にいいんですか?」
 そんな会話を繰り広げながら智樹は環の右隣の二人がけの席をくっつけ、自身は環の隣に腰掛ける。女子高生は智樹の前に収まった。その間、環は智樹の陽キャ的ムーブにイラつきつつ、タブレットに目を落とし続ける、というささやかな抗議を継続していた。

「こっちが俺の友達の環。サブカルな雑誌のライターしててさ、そういうのに詳しいから」
 環は智樹が自身を呪術師だとか胡散臭く紹介しなかったことだけにはホッとしつつ、けれどもとりあえず文句を言うことに決めた。
「あのな智樹。こういうのは予めアポを取るべきだろ?」
「だって環、スマホ持ってないじゃん」
「……それはそうだが」
「だったらここに来るしかないじゃん」
 智樹の屈託のない様子に僅かにイラついた。だいたい隣の席が空いていたのだってたまたまじゃないか。埋まってたらこの女子高生の背後に立ち続けるつもりだったのか。そんな不満を心にしまう。

 環はさまざまな理由でスマホを携帯していない。
 その代わり、遠出の用がない時はこのクウェス・コンクラーヴェでいつも記事を書いている。だから環に用がある時はここを訪れるしかなく、環も仕事の範囲で容認している。けど女子高生とお茶をするのは流石に違うだろと独り言ちた。デートでもしてると見られると面倒だ。
 何故ならここはおしゃれなカフェで、つまりデートスポットで、様々な理由で環の彼女ということになっている女子高生には来るなと常々釘を刺している。なのに他の女と、特に女子高生と飯でも食ってるところでも見られでもすれば、色々と面倒だ。けれど来てしまったものは仕方がない。だから環は要件を早く終わらせご退場頂くことにした。

 環は智樹に耳打ちする。
「おい智樹。神津之介の幽霊のことは話したのか?」
「言ってないよ。信じるわけないじゃん、神津之介の幽霊なんて」
 その小さな応答に環は小さく頷く。
 智樹は幽霊が見えるが、そんなことを堂々とひけらかしても変人としか思われない。智樹はそのことをこれまでの人生で十分認識している。そして人間ではなくぬいぐるみの幽霊など、智樹をよく知る環であればともかく、余人が信じられるはずがない。変な大人一直線だ。だから智樹は外形的には純粋に、困った女子高生にオカルトライターを紹介しただけ。つまり怪しげなのは自身だけであることに気づいてげんなりする。

「ざっくりとは聞いてる。ひとりかくれんぼやったのはなんで?」
「なんで……その、友達に一緒にやろうって言われて」
 おどおどと、おとなしそうな茶髪ショートが口を開く。環は胡散臭いと思われているんだろうと嫌気がさしたが、実際のところは極端なイケメン2人を前に落ち着かないだけだったりする。
「友達と? 実況でもやったの?」
 最近流行りの、怪談実況。それは年々チャンネルを増やし、世界に奇妙なものをはびこらせている。
「私はしてないです。けど友達とLIME通話にしてて、誰かが実況してたかもしれない」
「かも?」
 聞くところによればその友達は通話中、一方的に誰かに話しかけていた節があったそうだ。そう思い出すように言葉を紡ぐ智樹の客、その女子高生はサエコと名乗った。サエコをかくれんぼに誘った友達はミユ。環は様々に事情を聞き取りながら、構造を頭に浮かべる。
「神津之介を使うって決めたのは誰?」
「ミユです」
「他にも同時にやった人はいる? グループトークとか」
 考え込むサエコを前に、環はこれはどこまで広がった話だろうと思案した。ネットミームとは、時折まるでマルチ商法に似ている。
「その、わかりません。でも、何人かは誘われてました。私もLINEを通話にしてたけど、その誰か、男の人以外は誰も喋ってなかったからよくわかりません。あの、喋っちゃ駄目なんですよね?」
 サエコはおずおずと環に尋ねる。
 ひとりかくれんぼのテンプレでは、確かにそう言われている。

 サエコは友人としめし合わせて、午前三時にひとりかくれんぼを行った。家中を這い回る音を押し入れの中で震えながら聴き、テレビのノイズ音の揺らぎに惑い、そのうち早朝の番組が流れ、神津之介が歩く音がなくなったことを慎重に確認してから這々の体で風呂場に向かい、緊張に塗れながら浮かんだ神津之介に塩水を吹きかけてなんとか終わらせたらしい。
「ノイズ音、ね。じゃぁ最後、サエコさんは何を心配してるの? 聞いた感じだと、きちんと終わらせたんでしょ?」
「え……」
 サエコは環の言葉の意味に思い当たらないのか、僅かにたじろぐ。
「あなたは風呂場で塩水を神津之介に吹きかけた。ひとりかくれんぼをきちんと終わらせたなら、それでお終いで良いのでは?」
「それは、でも、夜中に神津之介が家中歩き回って」
「うん。でもそれはそういうものだ」
 サエコは予想外の言葉に、ぽかんと環を見つめた。
「そういう?」
 環もずっと、サエコを観察していた。話の中でサエコが何を気にしているか、を。
 サエコはようは、ひとりかくれんぼのシステム自体ではなく、夜中に『神津之介が歩き回る』という超常現象を気にかけていた。ならばその解決の道筋は自ずと導かれる。

「夜中というのは奇妙なことが起こるものだ。神津之介が歩き回らなくても、家の中で音がすることがある。温度や湿度の差で建材が収縮して音が出るのは知ってる? パチリって」
「でも、これまではそんなことは……」
「うん、そうだね。でもサエコさんは静かな真夜中に耳を澄ませていたわけだ。何か異常が起こると思って。だから普段聞こえない音が気になってしまう。俺はライターの仕事柄、ラップ音、つまり家の中から変な音がするっていう現象を何度か調査したことがある。その原因の殆どは建材で、他も低周波音とか。きっとそういうことじゃないかな」
 ほとんどはね、と環は心の中でつぶやく。
「そう、でしょうか」
 サエコは幾分顔色を取り戻す。超常現象とは理屈がたたないから超常現象なのだ。理屈を立てれば、そちらに流れる。だから後ひと押しでよい。

「うん。もし気になるなら、これをあげよう」
 環は懐から一枚の呪符を取り出す。ルーン文字をベースとした環オリジナルのアイテムで、デザイン性を重視したヴァージョンだ。円形を中心に青いラインやグラデーションといくつかの記号が描かれている。環自身はガチで作ったデザイン性を度外視した呪符を身につけているが、サエコに示したコンビニでカラーコピーした小銭稼ぎ用のものでもそれなりの効果はある。シールや栞などのVerも作ってネットで小銭稼ぎをしている。
「これは魔除けのお守りで、悪いことを遠ざける。財布にでもいれて身に着けていればいい」
 にこりとほほ笑む環の表情にサエコの心臓は高鳴った。
「え、綺麗。でも、おいくらくらい……?」
「あ、俺が払っとくからいいよ。大した金額じゃないから」
「おい智樹。俺も女子高生で儲けようとは思ってない。特別に無料でいいよ」
「そう?」
 口を挟む智樹を睨みつけてそう呟けば、サエコは平常をとりもどしたようだ。普段の実売価格は五百円から三万円。それを相手の顔と身なりを見て決めている。だから無料でも時価。
「それから万一のためにLIMEを交換しておこう。何もなく一ヶ月経過すれば削除するから」
「ってことだから平気。環はいい人だから大丈夫だよ」
「できれば緊急連絡先にそのミユちゃんのIDも」
 智樹が助け舟を出し、サエコが心持ち気が楽になった様子で頭を下げて立ち去れば、智樹は机を元通りに離し、環の前に座り直した。

「いい人、ね」
 環はそう呟く智樹を睨みつけたが、智樹は気にするそぶりすら見せずご機嫌そうにニコニコと微笑んだ。

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