【短編小説(短編連作)】春崎夜道の『夜散歩』なXmas 24 雪の中のポインセチア 1000字
[HL:ノープランでここまできて、ここからもノープランです(キリッ 2]
草薙さんがトンと背中をおしてその慣性でテントの外に足を踏み出せば、引力が働いたように大岳が近寄ってビニール傘を差しだした。
「お疲れ様」
「えっと、どうして?」
「奏汰が今朝寄ってさ、今日雪が降るといい、降ったら夜道に傘を持って行けよと言ったから」
「え、奏汰さん?」
「そう。天気予報は晴れだったけどカメラを見たら降ってたから持ってきた」
雪。そう思って見上げれば、空から降るのはいつのまにか冷たい雨から霙混じりになっていた。
「じゃぁ」
「え、ちょっと待って」
踵を返そうとした大岳を慌てて追いかける。
「9時まで仕事じゃないの?」
不思議そうなその言葉に、私は足を止めた。
「いや、その。大岳は?」
「俺? 手が空いたから」
「じゃあこれからラボ?」
「うん」
取り付く島もない言葉。大岳はただ単純に、雪が降ったから傘を持ってきてくれた。それだけ。ラボからここは近い。
そうだよね。仕事の合間に出てきて、仕事に戻る。そう思えばいつのまにか俯いて、大岳が歩いて茶色く凹んだ足跡が次第に雪に埋もれていくのが見えた。奏汰さんのよくわからない気づかいで、大岳はここまで来てくれた。けれどやっぱり帰ってく? それは嫌。
だから顔を上げた。大岳の後ろの世界は今も灰色に覆われ、それは未だ私にとって意味を持たずに、白い涙をふわふわとこぼしている。
『もうすぐ聖なる夜だ。奇跡が起きるかもしれない』
奏汰さんのちっとも奇跡を期待してない声が耳に聞こえた。
あの言葉で、奇跡ってなんだろうって考えてた。
それはきっと、起こらないと思っていたのに起きた幸福。奏汰さんはいつも、訪れないと諦めながらそれを求めて歩いている。
振り返ればスタッフが忙しく片づけをしていた。設置されたポインセチアの鉢植えを移動してる。私も手伝ったほうがいい。雪の白に赤が鮮明にに浮かびあがり、ふと、思い出す。ポインセチアはメキシコではノーチェ・ブエナと呼ばれてて、花言葉は「幸運を祈る」。
私は何故だか大岳とクリスマスパーティをすることになって、降らないはずの雪が降って、突然私に時間が空いて、目の前に大岳が傘を持ってきてくれて。
それらは私には訪れるとは思っていなかった幸せ。
なら、もう少しだけ期待して、いい、かな。きっと駄目ならもともと駄目だ。
「雪で仕事が早く終わっちゃってさ。よかったらお茶でもしない?」
大岳はじっと私を見つめる。そうして少し首を傾げる。どうしようか迷っているしぐさ。そして私はそれに期待した。奇跡に。
「……いいよ」
to be Continued
一応次が最終話予定ですが、中身を何も考えていないので、流れによっては25日に追加1話を書いて完結にするかもしれません。
★次の話

#いつきちゃんのアドベントカレンダー
#ポインセチア
おじゃましますー。なるべく毎日、神津を中心に夜道ちゃんが主人公の話を書いてみようかな的な。途切れたらそれまで。
★似た系列の話
どこという話でもないけどなんとなく恋に落ちた奇跡みたいな話かもしれない。
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