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【短編小説(短編連作)】春崎夜道の『夜散歩』なXmas 13 ただの自然現象に意味を持たせる試み 1000字

[HL:冬の冷たさとは別の何かが俺を冷やしている]

「そうだな」
 俺の実家には庭があって、雪が降ればその箱庭のような場所でいろいろな雪だるまを作った。基本の他にもクマとか、家とか。それらはそう名前をつけなければそう見えないようなものばかりだったけれど、その思い出は俺にとって大切なものだ。いつかかまくらを作るんだって2人が言ってたけれど、結局かまくらを作れるほど雪が降ったことはなかった。
 夜道が指先で雪だるまに触れ、すぐに引っ込める。
「夜道、また作りたい?」
「え? ……っとでも、手袋もないし、ね?」
 夜道の微笑みはぎこちない。
 記憶の中の夜道と奏汰は手袋をはめて楽しそうに雪だるまを作っていた。俺はそれを手伝ったり、たまには眺めたりしていた。雪だるまを作るのが何が楽しいかはよくわからない。けれど2人が楽しそうなのは好きだった。
「じゃぁ、手袋を買っておこう」
「え?」
「クリスマスに雪が降ったら、いや降らなくても雪だるまが作れるように」
「……うん。じゃあ大岳は欲しいものある?」
「特には」
 寸前まで浮かんでいた楽しそうな顔が、次第に萎んでいく。慌てて言葉を付け足す。
「今足りないものはない」
「そっか」
 その言葉は酷くつまらなさそうで、そうして再び僅かにほほ笑んだ。まるで特別な雪の結晶が地面に落ちて溶けて水になり、なんでもなく流れ去ってしまったように。
 何かを間違えたことを悟る。俺はいつも何かを失敗する。ただ、それが何かはよくわからない。
「難しいな」
「何が?」
「俺はただ、夜道と奏汰が楽しそうなのが好きだったんだ」
「……そこに奏汰さんをくっつけるところだよ」
 そう小さく、聞こえた気がした。
 久しぶりに歩く地面は雪にまみれ、煉瓦張りの路面が所々見えていた。吐く息が白く空に昇っていく。世界は循環していて、この水蒸気は空に到達して雲に交じり、凍って結晶になってまた雪としてどこかで落下する。
 夜道の家に着くころには、雪は静かに止んでいた。
「おやすみ」
「うん。おやすみ。送ってくれるだけで嬉しいんだ」
「じゃぁ、また」
 そうして踵を返して一人で帰る道はより寒く感じた。雪は解けるときに周囲の空気から凝固熱を奪い、気温を下げる。
「俺の欲しいもの」
 晴れ始めた空を眺めて漸く、名前を付けなければ存在しない何かが必要だったことに気が付く。ラボの入り口で靴から雪を落とし、温度が一定に保たれた研究室にもどったけれど、指先はどこか冷たさを引きずっていた。

to be Continued….

★次の話

#いつきちゃんのアドベントカレンダー
#雪の結晶
おじゃましますー。なるべく毎日、神津を中心に夜道ちゃんが主人公の話を書いてみようかな的な。途切れたらそれまで。

★似た系列の話

詩風山にあるお城に仕えた一族の話。そういえば奏汰さんちの久我山家もそうだな。

#小説 #短編小説 #ショートショート #私の作品紹介 #創作大賞2026 #恋愛小説部門


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